知識・技術の継承
2020年のある年賀状にこんなメッセージが添えられていた。
「今年の4月で指導者の立場から身を退こうと思います。理由は年齢的にそろそろ若い人に任せた方が良いという理由ですのでご心配なさらずに」
俳優時代、自分に発声の指導をしてもらった方からでした。この方のおかげで自分の発声は大きく改善されたと言って良いのですごく感謝しているのですが、もうその方から指導を仰ぐことはできなくなりました。
若い俳優におすすめの劇団を積極的に教えてくれた演劇評論家の村井健さんも健康であればまだまだ亡くなるような歳ではないのに逝ってしまわれた。
最近、またこんな記事を書くようになったのもその意識があるからかもしれません。
わたくしに演技の知識や技術を教えてくれた人の多くは大体、若くても40代〜、上の人は70代くらいの人たちです。中には生徒から評判の良い講師だったのに専門学校から契約更新されずに解雇されて指導できる場を失った人もいます。高齢の方もいたので自分が知らないだけで中にはもう亡くなっている人もいるかもしれません。
要はそろそろ、そういう時期にもなっているのかと痛感します。
自分に指導してくださった方々が少しずつ様々な理由でいなくなってきていると。
そうなると今度はその教えを受け継いだ若い人達の番だとなるわけですが、それもちょっと難しいと思っているところです。
演技を本格的に学びたいと思う人など俳優や声優を仕事として、これで稼ぎを得ていきたいという人が大半だと思います。が、ご存知の通り殆どの人は成功できずに辞めていきます。せっかく知識・技術を教えてもそれを胸にしまったまま忘れ去られるパターンが非常に多いです。
しかも今は時代が異なります。昔は俳優に、声優になりたかったら養成所・専門学校へという流れがありましたが、今では本当に成功する人はそういう所には行かずに一気に大きなチャンスを掴める事務所所属・作品出演オーディションを受けている、SNSの発達で個人の力でも有名になることができてそれを機に芸能界デビューなど、俳優・声優になるための選択肢が多くなってきました。
最初は定員100名だったのに半分の50名に規模が縮小された専門学校もあるらしいですし、前から有名な劇団の養成所でさえ人が集まらないと聞きます。そういった学校・養成所の数が多すぎるのもあるのでしょうがもう多くの俳優・声優志望者が先ずは学校・養成所へ行こうと思う時代ではなくなりつつあるんだろうなとは感じます。
それにただでさえこういう人達は第一に早く「作品に出演したい」というのが念頭にあり、いつまでもレッスンばかりは嫌だと思っていますし、本番、仕事としての現場しか得られないものは間違いなくあるのでいち早く経験するべきだと思います。
練習、レッスンの場で出来ても本番、現場で出来ないのなら意味がありません。わたくしも専門学校入学して間もなくにちょい役枠のオーディションの話が来て、それに見事に合格して声優デビューを早くも一応、飾ったのですが、あの真剣勝負といってよいピリピリした空気の中で演技をするのはどれだけ大変か、身に沁みました。
で、そういうわたくしも「売れたい」「稼ぎを得たい」を主眼に置くならいきなり演技の勉強に時間を全振りする必要はないと主張している立場であり、そう書かれた一年以上前の記事が今でも地味にPV数を伸ばしているのでどんどんその認識は浸透していくでしょう。
昔はそんな演技を教える場所、学校なんて多くはなかった、見た目が良い、才能ある人だけが出来た商売と言われていたようですし、結局それは演技を教えてくれる場所が乱立しても競争が激化しただけであって、じゃあその中から勝ち抜ける人材は?と言われたらやはり同じように才能ある人、見た目が良い人となり本質的には変わらなかったということかな。
とは言えですよ、この業界が儲かるためには最後は一般視聴者に「すげー」と思わせる作品を届けなければなりません。いくら優秀な俳優・声優は揃えても作品がヒットしなければ製作費は回収できずに次の作品は作れません。
そのためには面白い台本があって、優秀な演出家や監督がいて、もちろん最後はその要求に応えられる素晴らしい俳優・声優も必要です。
今や観客・視聴者の目も肥えているので本物かどうかの見分けくらいはもうつくと思います。「本物」と判断されるにはそれ相応の訓練が必要なのは言うまでもなく。
が、先に言ったように演技が上手くなるのが目的ではなく、俳優・声優として売れたい、稼ぎを得たいのが目的なら必ずしも演技の勉強にいきなり数年間、費やす必要はない、若いうちに所属・出演オーディションを受けろという風潮もあるので、この環境でどれだけ本物の俳優・声優が出てくるだろう?という疑問はあります。
「あなたは有名人かもしれないが、本物の俳優ではない」
詳細はここでは省きますがある映画でこんなニュアンスの台詞があったのも印象に残っています。
たとえ選ばれるのは才能ある人だけだったとしても、じゃあそんな人が努力して、集中的に演技を学べばもっと凄い人になるじゃんとなるわけですから、作品のクオリティをアカデミー賞クラスまでに上げるためにも最後はやはり俳優・声優陣に演技の勉強が必要ないわけがないんですよね。
ちなみに「才能ある人」について個人的には将棋の羽生さんの言葉でもあるように、
「以前、私は、才能は一瞬のきらめきだと思っていた。しかし今は、十年とか二十年、三十年を同じ姿勢で、同じ情熱を傾けられることが才能だと思っている。」
「報われないかもしれないところで、同じ情熱、気力、モチベーションをもって継続してやるのは非常に大変なことであり、私は、それこそが才能だと思っている。」
報われるかどうかも分からない状況下でも努力を続けることが出来るのなら、それこそ才能だと言っております。
「続けられるのも才能」これは例えば部活でも特別、良い成績を大会で残したわけではなく3年間続けただけでも受験時の内申でもプラスになるように、同じことをやり続けただけでも世間では評価してくれるのです。このように誠実に努力を、それも何年にも渡って継続できるのであればそれも才能だと胸を張って挑戦し続けるのも良いと思います。
素質はあっても直ぐに結果が出ずに去っていく人はいます。では最後に生き残っているのはどういう人かというと「結果が出るまで継続できた人」という言葉も勇気をもらいますよね。
話が少し逸れましたが、才能ある人に必死で努力、勉強してきた人、そんな人達が一人でも多くこの世界で残っていく、そのための第一歩として、こうしてネット上でも気軽に知識だけでも身に付けるようになるのは良いのかなと思い、最近はまたエクササイズや思いれ深い公演と伝えたいと思う記事を書いてみました。
次回からはまた「エンタメ・演劇×ビジネス」の内容に戻りたいと思います!
では、また。
高いお金を払ってプロの俳優・声優を育成するとうたっている学校や養成所に入っても大事なことなのに教えてくれないことを日々、発信しております。正しい認識を持ってこの分野を目指してもらうためにご覧になった記事がためになったと思われた方はよろしければサポートをお願いします。