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【NHK・ドキュメント】 「シン・仮面ライダー」を観て感じた創作の難しさ

少し前の話になりますが先週の土曜日に今、作品を作れば一番話題になるあの庵野秀明監督の映画「シン・仮面ライダー」の舞台裏を取材した番組がNHKで放送されました。

この内容を観た私は今の時代に何かエンタメコンテンツを作る難しさというのを痛切に感じましたね。これは仮面ライダーに興味がない、庵野監督をよく知らない人も何かしらのエンタメ分野に携わってる人なら思わず見入ってしまうはずだと思いました。

そこで私の感想を今回、書き記していこうと思います。

名監督になっても必死になってもがいている姿

庵野監督と言えばもう実績は十分過ぎるほどあります。しかも遠い過去に名作を生み出した監督ではありません。最近でも「シン・ゴジラ」など大ヒット作を作っています。

今では数少ない純粋に作品の質だけで勝負できる、作品を作ればある程度の成功、収入が見込める監督となっています。たとえ無名の出演者を起用しても彼の作品に選ばれた人ならそれ相応の人物なのだろうという眼で見てくれるはずです。

それだけブランドが確立されているわけでありますね。

しかしそんな監督でもやはりとも言うべきなのか、製作舞台裏はなかなか息詰まるものであった。それはまぁ、どんな現場でも当然と言えば当然なのですが驚いたのがそのスタンスです。

自分の頭の中に思い描いているものだけを体現するのは望んでいない姿勢


番組中で印象的だったのはアクションシーンに対して「全てが段取り」とその一言で切り捨てる所。そりゃあ、そうだろうとツッコミたくもなりますが、確かに映画など演劇の分野で決められた段取りを順を追ってただ演じているだけだな、とお客さんには思わせたくないのは分かります。

私も俳優活動をやっていたので、気がつけばそこを追い求めたくなっていました。

理想はその瞬間でも、作品が終わるまでは本当に起きていること、とめり込ませること、

ですがそれが出来たら苦労しません。どうすれば殺陣ではなく、本当の殺し合いだと思わせることができるのか、その葛藤が監督やアクション部門の専門スタッフ、俳優含めて赤裸々に映し出されています。

だったらこうしよう!」と監督を中心に話し合うのはもしかしたら普通の現場ではよくあることなのかもしれませんが、この現場ではそうではないんですね。

庵野監督は自分の想像を越えるもの、考えもしなかったものを求めていました。それは手取り足取り自分が指示しては生み出すことはできないと理解していたのかもしれません。

だからそれぞれのスタッフ・俳優は頭を悩ませます。

これはもう監督の性格によるところも大きいので、中には自分の指示通り動け!という監督もいることでしょう。私が教えられた所でも指示されなきゃ動けない俳優は駄目だと言われてきたので共感できる部分はあります。

が、それは監督や演出家に言われなくても「こういうプランはどうですか?」と提案して一緒に作品を作っていこうという意味だったと捉えていました。

シン・仮面ライダー」のような予算もかけていて、小道具や衣装などそれぞれに専門スタッフが付いている大きなプロジェクトでは当たり前のようにそれが行われていました。

それさえも少ない言葉で一蹴して、現場が停滞してしまっている場面を見て、一体どこまでの高みを求めているのだろうと正直、苦い顔をしてしまいました。

プロフェッショナルの集まりが考えてきたものです。それを採用するだけでもそれなりのクオリティの作品は出来上がることでしょう。それを微調整、一部の方針を転換どころか丸ごと全部、その場で作り直しているような勢いで練り直しているシーンの連続で真の名作はこうして生み出されるのか、と身震いしました。

エンタメの世界ではどこでも言われていることですが、これだけ多くの作品が既に溢れている中で今、何かコンテンツを作る意味ってなんだろう?どうすればまた驚いてもらえるか?日々そればかり考えられています。

そうきたか!」とお客さんにサプライズを与えられるのはもう並大抵の作品では駄目なんですね。

庵野秀明監督の映画」というブランドを持っているにも関わらず、いやだからこそ中途半端に良い映画、そのブランドに傷をつけることは許されないと思って臨んでいるのか、その世界で地位を確立した人がそれに驕ることなく常に新しい何かを追求している姿に、トップレベルでもこれだけ苦しんでいるなら、他の人達も同じくらい悩まないと名作は作れないだろうと襟を正す必要がありますね。

一回、構築していたものをもったいないと言わず全てぶっ壊して、またそのピースを取捨選択して、或いは新たに作って死に物狂いで再構築する、そんな作業を見ているようで圧倒されました。

待ち時間の長い俳優陣


ここからは俳優目線で語ります。俳優とは誰もが憧れるポジションですが、意外にもギャラはそんなに安いの?というパターンが多いのはこのnoteでも語ってきました。

例えば映像作品を商品として販売しても二次使用料などと言われる名目で入ってきても、いわゆる印税は主演俳優でも入ってきません。これを受け取れる権利のある人は監督・脚本家と台本が小説・漫画など原作があるならその原作者です。

なので作品が売れれば売れるほど儲けることができる人はかなり限られています。

一般人はやはり一番目立っている俳優にはけっこうなギャラが入っているのでは?と想像してしまいがちですが、この番組を観た人なら裏で働いている人も相当な苦労をしているんだなと思われたのではないでしょうか?

むしろスタッフ陣があーだこうだ話し合っている間は俳優陣はじっと待機している、そんな風にも受け取れます。

実際にそうとも言えます。俳優は全ての準備が整ってようやくお願いしますと言われる立場です。台本が出来上がっていて、撮影する準備も整えられていて、こんな風に動いてくださいとイメージが伝えられてようやく動けます。

もちろん俳優は俳優で、演じた後は倒れるくらいにかなり苦労しているのはこの番組からでも伝わると思いますが、その苦労を味わえるのもスタッフに支えられているのが前提だと思います。

一度でも現場を体験するとこれらのスタッフたちに俳優は頭が上がりません。演じられる環境を整えていただきありがとうございすという気持ちでいっぱいになります。それでいて、おまけにお客さんの前に立って一番目立つことができるのですから、そのスタッフの想いにも応えて必ず素晴らしい演技をしなければいけないと奮い立ちます。

こうしてみると俳優って改めて恵まれた環境だなとしみじみ思います。これでいてもしもギャラが一番高かったら・・・と思うとそんな旨い話はないってなりますかね。

もはやお金とかは関係なく俳優というポジションはそこに選ばれるだけでご褒美のような立ち位置だと思います。だからノーギャラでもお願いします!と言う人もたくさんいるのは分かります。

そんな美味しい所を貰えているというのを自覚して、俳優というのは真摯に演じなければ到底、選ばれないとは胸に刻んでおく必要はありますね。

やはり俳優とは必ずしもそうではありませんが、少なくとも本物を作ろうと意気込んでいる現場では厳選された人しか出演は許されないと痛感しました。

ここら辺の厳しさはもっと理解しておくべきでしょう。

俳優経験者として高いレベルの現場を垣間、見ることができて良い刺激を受けた番組でした。

では今回は以上になります。ありがとうございました。

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