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しあげ(磨き)は、お父さん〜♪を考える

はじめに

「いい歯のために」というテーマは、子育てをしている私にとって非常に身近で重要な課題です。特に“仕上げ磨き”は、親として欠かせないタスクの一つだと感じています。しかし、これが子どもにとってはあまり好きではないようで…。

娘も例外ではなく、仕上げ磨きを始めると嫌がることがしばしばあります。そこで、なんとか楽しくできるようにと工夫を凝らしてきました。テレビを見ながら磨いてみたり、歯医者さんごっこを取り入れたり、「すごーい!」と全力で褒めながらやってみたり…。とはいえ、毎日続けるうちに自分の余裕がなくなり、笑顔なしの「すごーい」になってしまうこともありました。

「仕上げ磨きって大切」という話をよく耳にしますが、実際どれくらい大切なのか、そしてどうすれば親も子どもも楽しく取り組めるのか、改めて学び直したいと思い、このテーマについて考えることにしました。

前置きが長くなってすいません。このnoteは1万字近くありますが、全て読む必要はありません。仕上げ磨きに関する研究については、気になる見出しだけ見ていただくか、時間がない方は総合考察だけで見ていただける嬉しいです。

仕上げ磨きとは

本noteを読み進めていただくうえで、わかりやすいように、「仕上げ磨き」を、子ども自身が歯磨きを行った後、保護者が確認しつつ磨き残しを取り除くケアと定義してみました。

これは、虫歯予防の観点からだけでなく、子どもが歯磨きの習慣を身につけるためにも重要なプロセスです。

仕上げ磨きの歴史をひも解くと、小笠原(1990)の文献では「寝かせ磨き」として言及されており、当時からその重要性が認識されていたようです。

また、川端(1996)の研究では、電動歯ブラシと手用歯ブラシのどちらが効果的かを比較するなど、1990年代から仕上げ磨きに関する研究が積み重ねられてきたことがわかります。

このように、仕上げ磨きは単なる親のサポートにとどまらず、科学的にも注目されてきたケア方法です。本noteでは、この重要性に焦点を当て、実践の工夫や意義について考察していきます。


仕上げ磨きに関する研究

文献検索してみると

仕上げ磨きに関する先行研究を調べるため、文献検索を実施しました。

今回は、CiNiiを使用し、「仕上げ磨き」をキーワードに検索を行いました。その結果、合計で51本の文献が該当しました。

これらの文献をざっくりと分類したところ、主に次の2つのグループに分けられることがわかりました:

  1. 障害児を対象とした研究
    仕上げ磨きが特別な配慮を必要とする子どもたちにおいて、どのように行われているかを検討したもの。例えば、磨き方の工夫や支援者の役割について焦点を当てた内容が含まれています。

  2. 乳幼児期・学童期の子どもを対象とした研究
    一般的な子どもを対象に、仕上げ磨きの実践状況や効果、親子の関わりについて検討したもの。例えば、親の介入頻度が虫歯予防に与える影響や、仕上げ磨きが親子関係に与える心理的効果について言及しているものが目立ちました。

仕上げ磨きについての研究は、親としてとても気になるテーマの一つですよね。以下に、仕上げ磨きに関する文献をいくつか取り上げ、その内容をわかりやすくまとめています。「時間がないけど気になる文献だけ見たい!」という方も、もちろん大歓迎です。文献ごとにポイントをまとめているので、気になるところだけ読むだけでも十分です。

また、「結局どうすればいいの?」と思った方は、最後の総合考察をご覧ください。そこでは、文献全体を通して得られた気づきや、私自身が子育てを通して感じたことをまとめています。忙しい毎日の中で、少しでもお役に立てれば幸いです!

それでは、一緒に「仕上げ磨き」をテーマに考えてみましょう!

小児の口は成長の窓!今すぐ始める、口腔ケアの基本

木本, 茂成 (2020)「小児の口腔と口腔ケア(総論)」

木本(2020)は、小児の成長とともに変化する口腔内の形態や機能について詳しく述べています。特に乳幼児期は、哺乳から離乳を経て咀嚼機能を獲得し、嚥下機能が成熟する重要な時期であり、口腔ケアが不可欠であると指摘しています。

生後7か月頃から乳歯の萌出が始まり、それと同時にミュータンス連鎖球菌(虫歯原因菌)の定着が進行するそうです。特に乳臼歯が萌出する1歳半以降、この菌の定着率は急激に増加し、3歳時点では約8割の子どもの口腔内に定着しているとされています。

また、歯列が形成される乳歯期は、摂取する食品が多様化するため、虫歯のリスクが高まる時期でもあります。そのため、この段階では、成長発育に応じた適切な口腔ケアが必要であり、仕上げ磨きもその一環として重要な役割を果たすと言えそうです。

子どもが自分で歯を磨きたいと言い出したものの、鏡を見ながら歯ブラシをくるくるするだけで、まったく歯に当たっていない…。親が「次は仕上げ磨きだよ!」と声をかけると、「もう磨いたもん!」と逃げてしまう。そこでお気に入りのキャラクター付きタイマーを導入!タイマーの音楽に合わせて磨くうちに、「音楽が終わるまで磨けた!」と達成感を感じ、歯磨きが習慣に。「口腔ケア=楽しい時間」になりました!

口腔ケアは、親子のふれあいタイムでもあります。成長とともに変わる子どもの口腔に合わせて、柔軟に対応しながら楽しむことで、家族みんなが笑顔で健康な生活を送れるようにしていきたいものです。


親子でつくるピカピカ笑顔!仕上げ磨きは家族の時間を楽しくするのか

新井, 恵 (2019)「保育園児の家庭での歯磨き状況と保護者の意識調査」

新井(2019)の研究は、保育園児の家庭での歯磨き状況や保護者の意識を調査したものです。この研究では、保護者の約84.3%が仕上げ磨きを行っており、特に母親が主な実施者であることが確認されました。また、幼児クラスの保護者は、保育園に対して歯磨きや口腔ケアに関する要望が多い一方で、約79.2%が保育園の先生とこれらの問題について話したことがないと回答しており、家庭と保育園の連携不足が課題として挙げられました。

久保田, 直子 & 野村, 正子 (2017)「幼児期に保護者が行う仕上げ磨きの実態」

久保田&野村(2017)は、幼稚園児を持つ保護者を対象に仕上げ磨きの実態を調査しました。この研究によると、仕上げ磨きを行う保護者の割合は95.1%で、母親が父親よりも実施率が高いことが示されています。また、仕上げ磨きを行っている家庭では、子どものおやつ時間が決まっており、虫歯も少ないことから、仕上げ磨きの効果が示唆されています。しかし、父親は母親に比べて仕上げ磨きや子どもの歯科保健行動に対する認知が低いことも明らかになりました。父親の関与が少ない背景には、歯科医院への付き添い頻度の少なさが影響していると考察されています。

総合的な考察

新井(2019)と久保田&野村(2017)の両研究は、仕上げ磨きが乳幼児期の虫歯予防において極めて重要であることを示しています。一方で、以下のような共通点と相違点が浮き彫りになりました。

共通点

  1. 母親の主導的役割
     どちらの研究でも、仕上げ磨きは母親が主体的に行っていることが確認されました。

  2. 仕上げ磨きの有効性
     仕上げ磨きが子どもの虫歯予防に有効であることが両研究で示唆されています。

相違点

  1. 家庭と外部機関の連携状況
     新井(2019)は、保育園との連携不足を指摘していますが、久保田&野村(2017)は家庭内での仕上げ磨きの実態を中心に調査しており、家庭外との関係についての議論はありません。

  2. 父親の関与
     新井(2019)は父親の役割について明確に触れていませんが、久保田&野村(2017)は父親の関与の少なさや認知の低さに焦点を当てています。

示唆

これらの研究から、母親だけでなく父親も仕上げ磨きに積極的に関わることが、より豊かな虫歯予防につながる可能性が考えられます。また、新井(2019)が指摘する保育園と家庭の連携不足は、保護者全体の認識を高めるための課題として重要です。保育士や歯科衛生士が中心となり、保護者に向けた歯科保健指導の強化や、保育園での口腔ケア支援が必要とされます。

我が家も、仕上げ磨きはママが担当することが多かったのですが、自分も初めて仕上げ磨きに挑戦したあの日をよく覚えています。慣れない手つきに娘は大泣き。回数を重ねていくうちに余裕もでてきました。

今では、ただの健康習慣ではなく親子の絆を深めるコミュニケーション時間になってきました。


歯磨きも“スキンシップ”!共働き家庭における仕上げ磨きの新常識

野々山, 順也, 野々山, 郁 & 嶋﨑, 義浩. (2018)「母子通園型療育施設利用者に対するタッチケアを併用したブラッシング指導の効果の検討」

野々山ら(2018)の研究は、知的障害児を対象に、養育者が「タッチケア」を併用して仕上げ磨きを行う方法の効果を検討したものです。タッチケアは身体に触れることで子どもの緊張や不安感を軽減するケア方法です。この研究では、愛知県内の療育施設を利用する19名の知的障害児とその養育者に対して、口腔保健指導と仕上げ磨き指導を実施し、その効果を6か月間追跡しました。

主な成果

  1. 仕上げ磨きの実施状況の改善

    • 仕上げ磨きを毎日実施する者が増加。

    • 寝かせた状態で仕上げ磨きを行う養育者が増え、磨きやすい体勢が普及した。

    • 磨く時間が長くなり、より丁寧な仕上げ磨きが行われるようになった。

  2. 子どもの行動の変化

    • 磨く際に泣いたり暴れたり嫌がる子どもが減少し、仕上げ磨きが容易になった。

  3. 養育者の満足感

    • 養育者の8割以上が指導への満足感を示し、タッチケアの効果を実感した。

  4. 唾液検査結果に大きな変化なし

    • 口腔内の健康状態に大きな変化は見られなかったものの、行動改善と継続性が期待される成果が得られた。

示唆

この研究は、仕上げ磨きが難しいケースにおいてタッチケアが有効であることを示しています。特に、知的障害児の緊張を和らげることで、仕上げ磨きの実施率が向上し、養育者にとっても負担が軽減されることが分かります。また、唾液検査結果に大きな変化は見られなかったものの、行動面での改善が持続的な口腔管理の実現に寄与する可能性が示唆されました。


母の愛は力強い?歯科衛生士と母親による仕上げ磨きの違いを科学する

中島, 努. (2017)「歯科衛生士と母親における歯磨き動作の比較 : セルフ磨きと仕上げ磨きについて」

中島(2017)の研究は、小児の口腔ケアにおける仕上げ磨きの動作について、歯科衛生士と母親を比較し、その違いや関連性を三次元運動解析を用いて評価したものです。本研究は、セルフ磨き(自身の歯磨き)と仕上げ磨き(他者の歯磨き)双方の動作を解析することで、効果的な仕上げ磨き指導のポイントを明らかにしています。

主な成果

  1. 母親と歯科衛生士の動作の違い

    • 母親の歯磨き圧は歯科衛生士の約1.5倍で、ストローク時間も長かった。

    • X軸方向(歯ブラシの長軸方向)の動きは、母親の方が大きかった。

  2. 仕上げ磨きとセルフ磨きの相関

    • 母親の仕上げ磨き動作はセルフ磨き動作と強く関連している一方、歯科衛生士は対象に応じて動作を調整している可能性が示された。

  3. 個人差の比較

    • 母親の間で個人差が大きい一方、個人内での動作のばらつきは小さかった。

考察と結論

本研究から、母親による仕上げ磨きには、以下の指導が有効であると示唆されました:

  • 優しい力で細かく磨く
    母親は力が強くなりがちなため、適切な力加減を学ぶ必要があります。

  • セルフ磨きの動作改善
    セルフ磨きの改善が仕上げ磨きに反映されるため、指導では両方を考慮すべきです。

また、歯科衛生士が対象に応じた柔軟な動作調整を行うことから、母親にも磨く対象の特性を理解したケア方法を伝えることで、より効果的な仕上げ磨きが実現できると考えられます。

この研究の意義

この研究では母親に絞った内容となっていますが、保護者による仕上げ磨きは、愛情を持って行われる一方で、技術的な改善の余地があります。本研究の成果は、親が子どもの歯を守るプロフェッショナルになるための一歩を示すものであり、小児歯科臨床や家庭での実践に大いに役立つといえるでしょう。


「父親の“なんとなく”仕上げ磨きの裏側」—意識格差から見る新しい育児スタイル

山田, 亜希子, 栗原, 亜由希, 杉山, 智美, 浅里, 仁 & 井上, 美津子. (2015)「家庭における子どもの歯科保健に対する 保護者の意識とその実態について」

山田らは、家庭における子どもの歯科保健に対する保護者の意識と実態を調査し、今後の保健指導に役立てるため、幼稚園児(3歳~6歳)の保護者を対象に意識調査を行った。

主な結果

  1. 虫歯予防に関する認識

    • **「定期検診」**が、父母ともに最も重要視されていた。

    • 一方で、父親の回答には「なし」という選択肢も多く見られた。

  2. 仕上げ磨きの実施状況

    • 母親の95.2%、父親の56.8%が仕上げ磨きを行っていた。

    • 働く母親がいる家庭では、父親が仕上げ磨きを行う割合が高かった。

    • 父親の多くは、仕上げ磨きを「なんとなく」実施していた。

  3. 子どもの口腔内への関心

    • 父母ともに最も多かったのは「むし歯」、次いで「歯並びや咬み合わせ」に関心を持っていた。

  4. 育児項目への参加状況

    • 「仕上げ磨き」は、父母ともに頻度が高い育児項目の一つであった。

考察および結論

  1. 意義

    • 保護者の歯科保健に対する意識の違いを父母別々に把握できたことは、個別化された口腔衛生指導の設計に有益である。

  2. 育児の主体の変化

    • 育児の主体が母親から両親へと移行している中で、父親の子どもの口腔内への関心は母親に比べ低い傾向が見られた。

  3. 今後の指導提案

    • 父親の関与を増やすためには、定期検診への参加を促し、仕上げ磨きや口腔衛生指導の機会を提供することが重要である。

    • 特に、かかりつけ歯科医院を活用した検診方法や指導の改善が必要とされる。

研究の示唆

  • 両親それぞれの特徴(就労状況等)を踏まえた指導方法が有効である。

  • 父親の仕上げ磨きの動機づけを高める具体策が求められる。


歯の健康は親次第?保護者の知識が子どもの歯科保健行動に与える影響

志水, 遥佳 & 池田, 亜紀子. (2021)保護者の口腔衛生に関する知識と子どもの歯科保健行動との関連

志水らは、歯科衛生士有資格者である保護者と一般保護者を対象に、

  1. 口腔衛生に関する知識の違い

  2. 子どもの歯科保健行動との関連性
    を明らかにすることを目的とした。

調査対象および方法

  • 対象者:

    • 歯科衛生士有資格者の保護者:22人

    • 一般保護者:56人

    • 対象年齢:3歳~5歳の子どもをもつ保護者

  • 調査方法:

    • アンケート調査を実施し、各群の知識および行動の関連性を検討。

主な結果

  1. 仕上げ磨きの必要性

    • 両群とも仕上げ磨きの必要性を高い割合で理解し、実践していた。

    • 示唆: 必要性の知識は、仕上げ磨き行動に直結している。

  2. フッ化物配合の歯磨剤の使用

    • 一般保護者は、フッ化物配合歯磨剤のう蝕予防効果を理解しているものの、適切なフッ化物濃度の歯磨剤を選択・使用できていない場合が多かった。

考察および結論

  1. 幼児期の重要性

    • 幼児期は、歯科保健行動を定着させる効果的な時期である。

  2. 指導の必要性

    • 一般保護者に対して、知識を伝達するだけでなく、知識を実践に繋げる具体的な指導が必要である。

  3. 専門知識のギャップ

    • 歯科衛生士有資格者と一般保護者の間で、特定の知識(フッ化物濃度の選択等)に差があることが明らかになった。

研究の示唆

  • 実践を重視した指導が、保護者の行動変容を促進する可能性が高い。

  • 歯科衛生士でない保護者への適切な教育を行い、より実効性のある保健指導を設計する必要がある。


【番外編】仕上げ磨きだけじゃない?甘い間食習慣と幼児の生活リズムを見直す

佐々木, 渓円, 平澤, 秋子, 山崎, 嘉久 & 石川, みどり. (2021)幼児期の甘い間食の習慣的な摂取と生活習慣に関する乳幼児健康診査を活用した分析

佐々木ら(2021)の研究によると、1歳6か月(18m)の時点で「甘い間食」を習慣化している子どもの約82.2%が、3歳(36m)でもその習慣を継続していることが示されました。また、親が仕上げ磨きをしている場合、「甘い間食」の習慣化が少ない傾向もみられました。

これらの結果から、甘いものの与え方や生活習慣の整備が、歯科保健に与える影響の大きさが浮き彫りになりました。

保健行動への考察

今回、「仕上げ磨き」を中心に子どもの口腔ケアを見直しましたが、甘いものの与え方も重要な視点といえます。具体的には、

  1. 早期の習慣化を防ぐ対策

    • おやつの時間や種類を見直す。

    • 食後のケアを親子で徹底する。

  2. 習慣化した場合の改善策

    • 歯磨き後には甘いものを控える。

    • 楽しい体験(ドラえもんフロスなど)を通じて、ケアを自然に日常化させる。

結論

子どもの歯科保健を考える際、仕上げ磨きといった直接的なケアだけでなく、そもそもの食生活や甘いものの与え方にも注意を向けるべきかもしれません。我が家の経験からも、歯科保健行動の習慣化を楽しくサポートする工夫が、保護者と子どもの双方にとって効果的であると感じました。


総合考察:「しあげ(磨き)は、お父さん~♪」でもいいんです

今回取り上げた文献を通じて、「仕上げ磨き」という日常的な行為が、親子の関係性や子どもの健康において多面的な意義を持つことが改めて確認されました。仕上げ磨きは単なる口腔ケアではなく、親子のコミュニケーション、子どもの健康習慣形成、さらには父親の育児参加の一歩としても重要な役割を果たすのかもしれません。

保護者の皆さんは、すでに十分頑張っています

新井(2019)、久保田・野村(2017)、志水・池田(2021)の研究から明らかになったのは、多くの保護者が仕上げ磨きの重要性を理解し、すでに実践しているということです。アンケート調査では、仕上げ磨きの必要性を認識している保護者の割合が非常に高く、歯科衛生士の資格の有無にかかわらず、仕上げ磨きを実行している家庭が多数を占めていました。

それでも、「これでいいのか」と不安になる瞬間や、「もっとやれることがあるのでは」と自分を責めてしまう気持ちを抱えることがあるかもしれません。でも、大切なのは完璧を目指すことではなく、お子さんとの日々の関わりを楽しむことです。保護者の皆さんは、すでに十分に頑張っています。


タッチケアの効果と仕上げ磨き

野々山ら(2018)の研究によれば、タッチケアは子どもの情緒的安定や愛着形成に大きな効果があるとされています。この視点で仕上げ磨きを捉えると、仕上げ磨きはただの歯のケアではなく、親子が触れ合い、愛情を伝え合う大切な時間だと言えます。仕上げ磨きも、親が子どもの口内に直接触れることで親子間の信頼関係を築く「タッチケア」の一種なのかもしれません。

さらに、この研究では、タッチケアが行われる環境がリラックスしたものであるほど、子どもの情緒発達に良い影響を与えることが示唆されています。例えば、歯磨きの時間を「嫌なこと」から「親子の交流のひととき」に変えることができれば、仕上げ磨きの効果はさらに高まるはずです。子どもが親の声を聞きながら、親の手のぬくもりを感じることで、単なる口腔ケアを超えた深い意義を持つ行動となるのです。

歯科衛生士の磨き方が効率的で効果的であることは確かですが、親の手による磨き方には「触れること」による心理的な安心感や愛着形成が加わります。親子が密接に触れ合う時間は、子どもにとって身体的なケア以上に心の成長にも寄与するのです。このような親子のふれあいが、幼児期の心身の発達に大きな効果をもたらすことが研究で示唆されていました。

仕上げ磨き中、子どもは親の手の温もりを感じ、親は子どもの成長を間近で感じることができます。このようなポジティブな触れ合いが、子どもの心身の発達に良い影響を与えることは多くの研究でも示されています。仕上げ磨きを「やらなきゃいけないこと」から、「親子の楽しい時間」に変える工夫を考えるのも良いかもしれません。

歯科衛生士と親の仕上げ磨き、その違いとは?

歯科衛生士が行う仕上げ磨きや指導は、専門知識に基づく口腔ケアの質を高めるものです。一方で、日常生活における保護者の仕上げ磨きは、「継続性」や「習慣化」という面で歯科衛生士には代替できない役割を担っています。

中島(2017)の研究では、歯科衛生士と母親による仕上げ磨きの特徴が比較されていました。その結果、歯科衛生士の磨き方は専門的で、適切な力加減が保たれている一方、保護者の磨き方は「少し強すぎる」傾向が指摘されています。

この差に着目し、なぜ保護者は力が入りすぎてしまうのかを考察してみると、もしかすると、その強さは愛情の裏返しではないでしょうか?

例えば、「虫歯になってほしくない!」という強い想いが、磨く手にも自然と力を込めさせているのかもしれません。あるいは、「今日はちょっと忙しいけれど、この瞬間に全力を尽くしたい!」という熱意が歯ブラシを握る手に伝わっているのかもしれません。

これを言い換えるなら、保護者の仕上げ磨きは、愛情があふれすぎて“全力スイング”になっているのかもしれません。歯科衛生士のプロフェッショナルな磨き方が「精密機械」だとすれば、保護者の磨き方は「情熱のストレート」といったところでしょうか。

強さではなく、柔らかさにシフトしてみる

もちろん、愛情が伝わるのは素晴らしいことですが、仕上げ磨きでは力を入れすぎず、優しく磨くことがポイントです。むしろ、歯ブラシをそっと動かすことで、親子の触れ合いがより穏やかで楽しい時間になるかもしれません。

「力任せ」から「心任せ」へ。そんな意識の転換が、仕上げ磨きをさらに豊かな時間にしてくれるのではないでしょうか。この一言を心に留めておくと、日々の仕上げ磨きも少し楽になるかもしれませんよ!

研究では、母親が仕上げ磨きを通じて「健康習慣の重要性」を子どもに伝えていることも示されていました。この「日々の積み重ね」は、生活を共にしている私たち保護者だからこそできる特別なことだと思います。

父親の育児参加の意義

仕上げ磨きは、父親が育児に参加するための大きなチャンスでもあります。山田ほか(2015)は、父親が仕上げ磨きに積極的に関わることで、母親の負担を軽減すると同時に、父親自身の育児への自信や満足感が高まること等、父親の育児参加が子どもの成長に与えるポジティブな影響を指摘しています。仕上げ磨きは、父親が育児に関わるための絶好の機会です。子どもにとって、父親と触れ合う時間が増えることは、新しい視点や感覚を学ぶきっかけにもなりますし、父親にとっても育児の楽しさや子どもの成長を実感する貴重な時間になります。

しかし、父親の多くが「なんとなく」仕上げ磨きを行っていることも明らかになりました。この「なんとなく」を、子どもと向き合う大切な時間だと捉え直すことが求められます。また、父親が仕上げ磨きを通じて育児に主体的に関わることで、家族全体のバランスが取れ、母親の負担軽減にもつながるでしょう。

「ママの方がじょうずだから…」等と考える必要はありません。父親が仕上げ磨きの担当になることで、家庭内での役割分担が明確になり、夫婦間の協力体制が強化されるという報告もあります。母親が働いている場合などでは、父親が仕上げ磨きに積極的に関わることが示されていました。むしろ、父親が積極的に関わることで、家族全体の役割分担がスムーズになり、育児の負担が軽減する可能性があるようです。


甘いものと健康のバランス

佐々木ら(2021)の研究では、甘い間食が幼児期の生活習慣に及ぼす影響が明らかにされています。18か月の段階で甘いものを習慣化してしまうと、その後改善が難しいという結果を見て、私自身もドキッとしました。ついつい子どもの機嫌をとるためにお菓子を渡してしまうことがあるので、この研究が他人事には思えませんでした。

しかし、仕上げ磨きを通じて子どもの健康に関わることで、「どんな間食をどのタイミングで与えるか」といった生活習慣全体を家族で見直すきっかけになるかもしれません。


仕上げ磨きを通じて考える未来

今回の考察を通じて、仕上げ磨きが単なる歯磨きではなく、家族全体の健康を支える行為であることが改めて浮き彫りになりました。タッチケアの効果、歯科衛生士と保護者の役割の違い、父親の育児参加など、多面的な要素が絡み合う中で、仕上げ磨きは親子関係や健康習慣形成において重要な役割を担っています。

仕上げ磨きは、歯の健康だけでなく、子どもの心の成長や家族の絆を深める可能性を秘めています。「いい歯のために」という目標を持ちながら、親としての迷いや葛藤も大切にしつつ、これからも子どもと向き合う時間を大切にしていきたいと感じました。

そして、仕上げ磨きの時間が、家族みんなが笑顔になる時間として定着していくことを願っています。

「お父さんでもいいですか?」という問いかけに答えるなら、間違いなく「いいんです!」。父親の手が持つ力を信じて、まずは目の前の子どもとの時間を大切にしていきたいと思います。

「しあげ(磨き)は、お父さん~♪を考える」というタイトルには、仕上げ磨きを通じて育児に参加することの楽しさや意義を込めました。この小さな行為が、子どものいい歯を守るため、親子の絆を深める大きな力になることを信じて、これからも日々の育児を楽しんでいきたいと思います。

親として、子育て世帯の皆さんと一緒にこの大変だけど愛おしい日々を応援し合える社会を目指したい。そんな思いを込めて、このnoteをお届けします。


最後に

虫歯?!、矯正?!、受けぐちッテナニ?!……歯に関する心配は尽きません。仕上げ磨きや食習慣の工夫をしていても、「これで本当に大丈夫なのか」と不安になることも多いですよね。私も書籍や文献を読み漁り、たくさんの情報を集めましたが、育児の悩みがすべて解決するわけではありませんでした。

それでも、ふと気づくのです。目の前の子どもと向き合い、できることを少しずつ積み重ねていくことこそが、大切なんだと。すべてが完璧でなくても、子どもの「いい歯のために」と思いながら日々のケアを続ける。その姿勢がきっと子どもにも伝わるのではないでしょうか。

そして、親である私たち大人も心の余裕を持つことが何より大切です。毎日頑張る中で、どうかご自身を責めすぎず、「これからも一緒に成長していこう」という気持ちを大切にしていきましょう。

子どもの笑顔と健康な未来のために

引用文献

新井, 恵. (2019). "保育園児の家庭での歯磨き状況と保護者の意識調査." 保健医療福祉科学 8(0): 48-52.

川端, 明., 宏. 川端, 浩. 岩崎, 于. 林 and 裕. 宮沢 (1996). "第一大臼歯の歯垢清掃に関する研究 : 電動歯ブラシ,手用歯ブラシによる保護者の仕上げ磨きの効果." 小児歯科学雑誌 34(5): 1081-1088.

木本, 茂. (2020). "小児の口腔と口腔ケア(総論)." Monthly book medical rehabilitation(252): 6-13.

久保田, 直. and 正. 野村 (2017). "幼児期に保護者が行う仕上げ磨きの実態 : 幼稚園に通う4~6歳の子どもの保護者を対象として." 日本歯科大学東京短期大学雑誌 = Journal of the Nippon Dental University College at Tokyo 7(1): 58-64.

中島, 努. (2017). "歯科衛生士と母親における歯磨き動作の比較 : セルフ磨きと仕上げ磨きについて." 新潟歯学会雑誌 47(2): 109-110.

野々山, 順., 郁. 野々山 and 義. 嶋﨑 (2018). "母子通園型療育施設利用者に対するタッチケアを併用したブラッシング指導の効果の検討." 日本障害者歯科学会雑誌 39(2): 174-180.

小笠原, 正., 浩. 笠原, 隆. 小山, 一. 穂坂 and 達. 渡辺 (1990). "寝かせ磨きに対する幼児の適応性." The Japanese Journal of Pediatric Dentistry 28(4): 899-906.

佐々木, 渓., 秋. 平澤, 嘉. 山崎 and み. 石川 (2021). "幼児期の甘い間食の習慣的な摂取と生活習慣に関する乳幼児健康診査を活用した分析." 日本公衆衛生雑誌 68(1): 12-22.

志水, 遥. and 亜. 池田 (2021). "保護者の口腔衛生に関する知識と子どもの歯科保健行動との関連." 日本口腔保健学雑誌 11(1): 103-109.

山田, 亜., 亜. 栗原, 智. 杉山, 仁. 浅里 and 美. 井上 (2015). "家庭における子どもの歯科保健に対する 保護者の意識とその実態について." 小児歯科学雑誌 53(4): 487-494.

#いい歯のために #子育て #歯磨き #仕上げ磨き #はみがきじょうずかな

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