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【お米について考える】寄稿/体脂肪を増やし、筋肉を落とす、糖質オフのリスク~ダイエットと血糖コントロールの危険な関係~(京都大学名誉教授:森谷敏夫)


皆さんこんにちは、
アサヒパック広報の小林です!

米袋べいたいの専門メーカーである弊社では「お米」という作物の価値を改めて伝えるべく「ごはん食推進活動」を積極的に行っており、関心を持つ企業・団体様との関係強化に取り組んでいます。

今回は縁あって「日本健康食育協会」様より寄稿を賜りました。2回に分けて掲載をさせていただきます!



ごはん食が守るあなたのカラダ、地球のミライ
~知らないと損する糖質との付き合い方~


一般社団法人日本健康食育協会と公益財団法人日本ヘルスケア協会が主催する「お米で日本を元気にするプロジェクト」の第1回フォーラム・シンポジウムが7月7日(日)に日比谷図書文化館・大ホールで開催されました。

写真提供:ヘルスケアワークスデザイン(株)


基調講演を担当されたのは、京都大学名誉教授の森谷敏夫先生。
その講演内容についてレポートします。

森谷 敏夫(もりたに としお)
1950年兵庫県生まれ。1980年南カリフォルニア大学大学院博士課程修了。米国モンタナ大学生命科学部客員教授等を経て、1992年京都大学大学院人間・環境学研究科助教授、2000年から同科教授に。現在は京都大学名誉教授。専門は応用生理学とスポーツ医学。生活習慣病における運動の重要性を説き、有酸素運動を推奨している。著書には『人は必ず太る しかし 必ずやせられる』(講談社)などがある。

体脂肪を増やし、筋肉を落とす、糖質オフのリスク
~ダイエットと血糖コントロールの危険な関係~

写真提供:ヘルスケアワークスデザイン(株)


京都大学名誉教授の森谷敏夫先生は『現在、女性を中心に“隠れ肥満”つまり「見た目には太っておらず身長体重が普通なのに体脂肪率が高い人」が急増している』と警鐘をならします。

1970年の日本人の砂糖消費量を100%とすると、2012年には60%に低下し同時に糖質の摂取量も減少しているにも関わらず、その一方で糖尿病や肥満・メタボは増え続けています。(※1)

ごはんも「糖質」ということで悪者にされる風潮がまん延していますが、本当にそうなのでしょうか?

※1:厚生労働省 国民健康栄養調査から改変して作成/三井製糖(株)奥野様資料より


森谷先生は、その原因を『行き過ぎた糖質制限がまん延し「糖質制限パニック」が起こっていることにある』と指摘。現在、糖尿病の予防や治療法として「ごはんを控えること」を推奨する風潮がありますが、糖尿病は正しくは“血管ボロボロ病”とも言うべき疾患で、血糖値の上下だけに一喜一憂する病気ではないはずなのです。

糖質制限が正しいなら糖尿病は減っているはずなのに、逆に増えていることからも『糖尿病の予防や治療のためにごはんを極端に控えさせるのは明らかに間違い』と明言します。

糖質のほとんどは、脳と筋肉で消費される


森谷先生によれば、糖質は本来「人間の活動」、特に脳や筋肉にとって不可欠であり、それを止めてしまうことは様々な弊害を生み出していると言います。

森谷先生 糖質を主とする体のエネルギー源の約2割が大脳、約6割が筋肉で消費されます。糖質を制限すると、脳と筋肉は非常食である「グリコーゲン」を消費し始めます。このグリコーゲンは肝臓・筋・脂肪細胞に、糖質とその3~4倍の水が結合した重量のあるエネルギー源で、これが消費されると体重は確かに減ります。ですが、この「糖質制限で体重が減る」ということの実態は「グリコーゲンと水分」が減っているだけで、決して体脂肪が減少しているわけではないのです。

三井製糖(株)奥野様資料より


そこから更に糖質制限を続けると「体が筋肉を分解して脳のエネルギーに変えてしまう」という段階へ進みます。現在急増している隠れ肥満の多くは、こうした行き過ぎた糖質制限によってエネルギー不足になり、筋肉がやせ細ってしまうことが原因なのです。

運動生理学の世界的な権威で、運動と筋肉の専門家である森谷先生は『肥満の原因は1日わずか20kcalの摂りすぎであり糖質とは無関係なのです。本来、ダイエットは運動でなされるべきなのです』と強調しています。

糖質制限では、脂肪は減らない!?


森谷先生が生理学者として特に危惧しているのは、今の女子高生や若い女性たちが「ごはん(糖質)を食べると太る」と思い込み、行き過ぎた糖質制限に走りがちなことです。
 

森谷先生 毎日、炭水化物(糖質)を少ししか摂らないと脳は「使えるエネルギーは肝臓に貯蓄されたグリコーゲンしかない」と考えて、「エネルギーを確保するためには「筋肉を使わない状態」にしてしまえ!」という指令を送り、眠りに誘い、体の動きを鈍くしてしまうのです。さらに糖質不足が進むと、先述したように脳は自分たちの体の筋肉を食べ出します。そうなると筋肉量は減り、体の動きは更に緩慢になり、脂肪がついたままやせ細る“隠れ肥満”へと進んでしまうのです。その先にあるのは、冷え性をはじめとする婦人病、生活習慣病です。


隠れ肥満の主な原因は、運動不足や食生活の乱れにあることがわかってきました。加齢や運動不足によって筋肉が減ったところに脂肪が蓄積したり、無理なダイエットで炭水化物を取らず筋肉量が落ちて基礎代謝が減ったりすることで、隠れ肥満になる可能性が高まるのです。

若い女性を対象としたある調査研究では、隠れ肥満の比率が調査対象者の約50%にも達し、筋肉不足が原因の「冷え性」や「低血圧」の症状も高い割合でみられたといいます。

『若年女性の正常体重肥満を形成しやすい遺伝的、生理学的要因の検討』
肥満研究Vol.12(2006)P147-151/一般社団法人日本肥満学会


実はこの“隠れ肥満”の問題は、若い女性だけに留まらず高齢者の間にも広がっています。その影響のひとつとして50代~60代の世代においては近年、お米の消費が激減しています。

今の世の中には糖質制限の情報が溢れかえっているために、健康意識の高い高齢者ほど「健康のためにごはんを控える」といった誤った風潮が広がっています。その結果、先述したような「糖質不足→筋肉量の低下」という悪循環が生まれているのです。

あまり知られていないことですが実は、日本人はたんぱく質摂取の約20%をお米等の穀物から摂っており、糖質制限から筋肉不足に陥ってフレイル(※2)や歩行困難になる高齢者が増えているのです。


※2:健康な状態と要介護状態の中間の段階

写真提供:ヘルスケアワークスデザイン(株)


※本記事は弊社発行「こめすけ 51」並びに「産経新聞北関東版(2024年8月29日号)」に掲載の内容を加筆修正し、再構成したものです

※もっと詳しく知りたい方は「一般社団法人日本健康食育協会」公式ホームページまでお問い合わせください