【エッセイ】とねっこ
そこらへんでとねっこが跳ね回る季節になった。
馬服を着ているもの、裸のもの、モクシをしているもの、していないもの。生まれたてのとねっこの、ふにゃふにゃの口元や皮膚のうすいわき腹にシワがよる。
かわいい。どんな毛色もそれぞれにかわいい。鼻先やあごをこね回すように触る。やわらかい。やっぱりかわいい。
とねっこ、とは馬の子っこのことである。つまり仔馬のことである。
とねっこという言葉があまりに普通すぎて、小さいころは他の言葉に言い換えることを考えたこともなかった。そもそも、普段の会話で仔馬なんて言葉はほとんど使わない。
とねっこのことを仔馬と呼ぶひとに会うと、この辺のひとじゃないな、とすぐに気付く。仔馬はよそ行きの言葉で、自分で口にするのはなんとなく気恥ずかしい。
愛玩動物ではない。
その血統で、能力で、生き方が左右される生き物だ。ただかわいいだけではだめらしい。
そのように定めたのは人間で、馬たちはそんなこと知るよしもないのだが、彼らの目を見ているとそれをすべてわかっているような気がする。
誉め、励まし、ときには怒り、けんかし、感謝し、そして愛でる。
うちの家族は、きっと私よりもっと深い思いを抱いているだろう。あんまり口にしないけど、わかる。馬たちにもきっと、伝わっている。
姉によると、うちの今年最初のとねっこが生まれるのは、まだもう少し先のようだ。
どんな動物も赤ちゃんはかわいいが、とねっこは格別にめんこい。
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