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【エッセイ】枝豆騒動
草むしりをしていたら、大きな車がやってきた。叔父のランクルだった。
「枝豆いるか!」
声が大きいのは昔からだ。
「枝豆だってー」
母に伝える。「もらうわ」
「いただきますってー」
答えるより前に、叔父は荷台から枝豆をドサドサと地面に落としていた。大の男が腕を伸ばしてふた抱え。茎も葉もそのままついた、刈りっぱなしのやつだ。
「まだいるか?」
「もういい!」
「もう少し置いてくわ。女手多いからいいべや」
人の話を聞かないのも昔からだ。
さらにひと抱えの枝豆を落として、叔父は走り去った。一瞬の出来事だった。
量が常識の範囲を超えている。カボチャもトウキビも山菜も、くれるのはありがたいが、いつも多すぎるのだ。
その処理で、私たちは忙殺されることになる。
曇天のもと、枝豆を枝からむしる。3人で黙々とやっても、遅々として進まない。ねこが寄ってきて、ひとしきり見回ったあと、面白くなさそうに近くでうずくまった。
豆の身がたまってきたところで、むしる作業は母と姉に任せて、私は茹でる作業に移る。
うちで一番大きい鍋を使う。たっぷりのお湯に、多めの塩。はじめの一回だけ枝豆のさやの端をハサミで切り落としたが、様子を見にきた母に
「そんなことしてたらいつまでも終わらないから、どんどん茹でれ」
と言われ、手間をかけずに次々と茹でることにする。
枝豆を洗い、塩をなじませてからその塩ごと茹でる。洗った水も茹で汁も、枝豆の産毛で茶色になった。再沸騰してから5分ほどしたら固さをみる。茹であがったら、ザルにあげる。
午後いっぱいをかけて、一心不乱に枝豆を茹でた。茹でまくった。その間に、三回鍋を吹きこぼし、二度鍋肌で火傷した。
冷めたものから袋に入れても、ザルが足りなくなった。うちはザルの数が少ないらしい。苦し紛れに、ザルに豆を積み上げる。その高さに、母が関心したほどだ。
生のまま近所や友達におすそわけする分を除いても、大鍋で10回は茹でた。途中で嫌になり、最後には感覚が麻痺してなにも思わなかった。ただ淡々と、洗い、茹で、冷ました。
あとひと鍋で終わろうという頃、また叔父が現れた。外で母や姉と話をしている。煙草をくわえながら荷台をごそごそやったのち、すぐに声高な笑い声を残して去った。一瞬の出来事だった。
その後、姉が
「今度はトウキビ持ってきたでや!」
と叫びながらかごを持っていった。
私は心の中でよっしゃ!と思った。なんせトウキビが好きなのだ。この夏も、スーパーで見かけるたびに買おうかと迷ったのだが、叔父が大量に持ってくることを想定して買わずにいた。今年初めてのトウキビだ。
枝豆を茹で終えたあと、トウキビを茹でた。鍋に対して量が多いと思ったが、無理して一度で茹であげた。途中で何度も上下を入れ替えることで、無事に火が通った。茹で上がりの目安は、身が透明な黄色になっていることと、いい匂いがしていること。
休日の午後にあるまじき疲れようだった。味見のし過ぎでお腹も空いていない。母と姉も、豆もぎとトウキビの皮むきで疲れていた。夕食は、枝豆とトウキビをつまむだけで十分だった。
しかし、さんざん味見をした枝豆も、毎年いやになるほど口にするトウキビも、やはりおいしかった。旬のとれたて、ゆでたてで不味いはずもない。
母と姉が「夏の味だね」「止まらないね」などと言い合う。
ああ、夏が終わる、と思った。そうしてまたトウキビをかじり、枝豆を口に放りこむ。
枝豆の大半は冷凍することになった。トウキビは冷凍しなくとも食べきれそうだ。
ただで旬の味覚にありつこうとは、なんともありがたいことだ。しかし、最盛期は8人家族であったうちも、今では4人。大量の枝豆を食べ終える見通しはたたない。
茹でるも地獄、食べるも地獄。
適量という言葉の意味を思い知った。
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