書評『ベトナム戦争と沖縄』石川文洋著
沖縄はかつてベトナムから「悪魔の島」と呼ばれていた。沖縄戦により荒廃した土地には日本 軍に代わり、米軍が居座り続けている。本書は1960年代から現代に至る写真と言葉を通し、沖縄 の被害と加害の両方の歴史、悪魔の島を取り巻く実態へと読者をいざなう。
本書は1969年の「沖縄上空の米兵」の写真から始まる。そこから60年代から70年代のベトナ ム戦争のまざまざと写し出された有り様。燃え盛る農家の写真には、農民の生活を顧みず攻撃す る側の兵士に対し「そこまで考えない。それが戦争だった」との言葉が添えられ、荒れ果てた地 の腕輪と指輪を纏う少女の「戦火の中の少女のオシャレ」が深く記憶に刻まれる。
翻って60年代の沖縄の米軍基地で緊張感に包まれた米兵と、そこに差し込まれる「ベトナムの 痕跡」の付いた戦車に著者は「ベトナム戦争と沖縄の基地が直結していることを感じ」、抗議を する沖縄の人々の写真が続く。そして眼差しはベトナムの人々と米兵へと移り変わる。そこで は、戦地においても被写体となる「攻撃をする側、される側」の人に対し、写真家として「一人 の人間」へ向き合う著者の姿がある。
ベトナムの地におけるハワイからの沖縄出身兵の死を経て、視座は再び沖縄の地へと移る。沖縄 各地の基地で訓練をする米兵、基地で働く沖縄人、「本土復帰」を取り巻く環境への問いかけが 続く。そして現代。普天間、高江、辺野古、嘉手納の写真である。
1938年に沖縄で生まれ、4歳からずっと本土に住む著者は「沖縄人としての心を失ったことは 一度もない」と言う。出自が理由で同級生との遊びを拒まれたことのある著者であっても、差別 を受けたり引目を感じたことは一度も無いと言う。しかし、政府に対しては沖縄に対する差別を 感じている。
報道写真家で一人の沖縄人である石川文洋の「ベトナム戦争」「米軍」「沖縄」と、「現状」 そして「人間」に対する眼差しは、平和への思いとともに未来の沖縄へとつながる道標となるだ ろう。
(2021年4月10日沖縄タイムス13面「読書」掲載)
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