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「松竹梅」の「竹」を選んでしまう理由 知っておきたい買い物の法則と心理

 お弁当屋さんの店頭やフラッと入った寿司店で、内容と価格の異なる「松」「竹」「梅」の3種類が用意されていたら、あなたはどれを選ぶだろうか。3種類の選択肢が用意されると、多くの人は値段と質が最も高い「松」や、最も低い「梅」を避け、そこそこ安くて品質もある程度いいはずだと考えて、真ん中の「竹」を選ぶ傾向がある。しかし、「竹」が「そこそこ安くて品質もある程度いい」という根拠はどこにもない。

 しかし、行動経済学の基本を知っていれば、根拠もなく「竹」を選んでカモになることを避けることができる。『今さら聞けない 行動経済学の超基本』(橋本之克著、朝日新聞出版)から、売る側が利用する「心理」を学びたい。

橋本之克著『今さら聞けない 行動経済学の超基本』(朝日新聞出版)
橋本之克著『今さら聞けない 行動経済学の超基本』(朝日新聞出版)

 3段階の選択肢を示された場合、一番高い商品を買うと、支払うお金が高くなることもあり、損をするリスクを感じる。逆に、一番安い商品では満足できない可能性があり、やはり損をするリスクを感じる。極端な選択による損失の可能性を避けようとして真ん中を選んでしまう心理を、「極端回避性」と呼ぶ。どんな料理がどれくらいの量で出てくるかわからない場合、損失の可能性が先に頭に思い浮かんで、中間の選択肢こそ最もリスクが低いと判断してしまうのだ。

 アメリカの行動経済学者エイモス・トベルスキーが行った、こんな実験がある。「価格も機能も低いカメラと価格も機能も中程度のカメラでは、どちらを選ぶか」と質問すると、回答は半々。次に、価格も機能も高いカメラを選択肢に加え三択にすると、大半の人が中間を選んだ。

 これは、売る側が消費者の「極端回避性」を知っていれば、最も売りたい商品を買わせて利益を上げる方法を取ることが可能になることを意味する。中間の選択肢を値段のわりに質の低いものにして、利益率が最も高くなるようにすればいいのだ。

 もうひとつ。アメリカの行動経済学者ダン・アリエリーによる、雑誌購読の選択実験を紹介したい。

 1回目の実験で用意したのは3つの購読プラン。「59ドルのオンライン版」「125ドルの印刷版」「125ドルのオンライン&印刷併用版」だ。この実験では、購読者の16%がオンライン版、84%が併用版を選び、印刷版のみを選んだ購読者は0%だった。明らかに劣る「印刷版のみ」という選択肢が「おとり」となって、同じ価格でオンライン版も印刷版も読める併用版が実際以上に良く見えた結果だ。

 2回目の実験で、選択肢を「59ドルのオンライン版」と「125ドルのオンライン&印刷併用版」の2つだけにすると、オンライン版が68%、併用版が32%と、購読者の数は逆転。「おとり」なしで冷静にオンライン版と併用版を比べると、オンライン版のほうがかなり安くて内容はさほど変わらない、と判断した人が多かったということだ。

 何かを選ぶとき、人は、選択肢の数や内容に強く影響される。上で紹介した2例の実験からも、このことは明らかだ。売る側の企業がこの「極端回避性」や「おとり効果」をうまく用いれば、消費者の選択を誘導するのは簡単。自分の意思で選んだつもりでも、売り手にコントロールされ「選ばされている」という場合があると意識しておきたい。

(構成:生活・文化編集部 上原千穂)