あなたの職場の疲労度は「何段階」? ヤバい職場から身を守る方法を自衛隊メンタル教官に聞く
■笑いが減る、言った言わない、不公平感に過敏など、疲労した組織の特徴とは
まず、あなたが今いる職場について、次の項目はどのくらい当てはまるでしょうか。
これは私が「2段階職場」と名付けた、組織力を失った職場の特徴を挙げたものです。
当てはまる項目が多いほど、組織の力を失っていると考えてください。
「2段階」とは疲労のレベルのことを示しています。
疲労には1段階、2段階、3段階とあるのですが、個人レベルでは次のように考えます。
・疲労の1段階
何かストレスがかかっても、一晩寝れば元に戻れるという、通常の状態です。
・疲労の2段階
疲労が重なり、同じストレスがかかったら一晩寝ただけでは戻れず、回復には2倍の時間やエネルギーを要する状態。表面上は通常通りを装っていますが、潜在的に自分が弱くなっているのを感じているので、周囲に対する警戒心が高くなり、怒りや不安の感情も、2倍発動しやすくなります。理由のないイライラが始まり、怒りっぽくなります。
・疲労の3段階
疲労が深まり、消耗した状態。回復には3倍の時間がかかります。周囲や世の中への警戒も3倍、イライラ、怒りなどの感情も3倍です。エネルギーが枯渇して、心も体も動かなくなってしまいます。いわゆる「うつ状態」です。
このように疲労には3段階があります。
個人レベルでも組織レベルでもなんらかの要因が重なり、メンバーの3分の1が「疲労の2段階」になると、組織自体が「疲労の2段階」に陥り、最初に挙げたようなトラブルが急激に起こり始めます。これが「2段階職場」です。
■「2段階職場」ではスケープゴートが生まれる
もちろん人間関係のトラブルは、通常の職場でも起こりえます。
職場とは、そもそも「怒りの多発地帯」です。また、人とは本能で他人に勝ちたいもの。出世競争が激しければ、妬みが生じたり、派閥間の争いも発生したりもします。
しかし、経営の悪化、多忙、人材不足、不祥事、将来性がないなどで「2段階職場」となった現場では、お互いの警戒が高まり、必要以上に人間関係がギスギスしてしまう。それでまた疲労が深まっていくという、悪循環に陥ります。
「2段階職場」では、いわゆる「スケープゴート」も生まれやすくなります。
調子が悪い時、人は「原因究明」をしたがります。すると、その一つとして「あの人が悪いからだ」と、攻撃対象が生まれるのです。
多くのメンバーがイライラしている中で、共通の攻撃対象が1人いれば、少なくともその間は、怒りの矛先は自分に向かいません。スケープゴートを仕立てることで、人は我が身を守り生き残ろうとするのです。
逆に言えば、健全な組織ではスケープゴートは発生しません。
■強い組織に不可欠な2つの要素
では、どのようにしたら組織は健全になれるのでしょうか。
全員が疲労しなければ、その組織は2段階職場には絶対にならないでしょう。でもそれは現実にはありえません。
まず大切なことは、「自分自身も他のメンバーも、ロボットではなく生身の人間。お互いにエネルギーには限界があり、疲れるものなのだ」と認識すること。
さらに組織内の疑心暗鬼ムードは、少なからずお互いの情報不足からきていることが多いです。
ちょっとしたコミュニケーションの積み重ねがそれを解消してくれるでしょう。例えば、少し雑談をしたら、驚くほどネガティブな雰囲気が解消されるのは、経験をしたことがある人も多いのではないでしょうか。
だからこそ、職場では大切な仕事として、「休憩」と「相互のコミュニケーション」を意識的に入れ込んでいくべきなのです。
これは、戦場という厳しい環境で、全滅する部隊とそうでない部隊を分ける、重要なポイントの一つでもあります。
また、危機に瀕した時、部隊の長(おさ)がやるべき、一つの決断があります。それは「やらない業務」を決めて明言することです。
実際の企業においては業務を減らすことは、収益やチームの成績が下がることを意味しており、なかなか難しい決断かもしれません。
しかし、その責任を負うからこその長(おさ)です。
「2段階職場」にある場合、健全な状態に戻すためには、小手先の対処よりも、長の“腹決め”が重要なポイントとなります。
■組織からの退却は軽やかに、なるべく元気なうちに
あなたが今「2段階職場」にいるならば、たとえ今は被害者や傍観者の立場であったとしても、「怒り」の感情が、あなた自身を蝕み始めるでしょう。
組織内に発生した「怒り」はやがてエスカレートして、最初に挙げた項目のようなトラブルが多発します。あなた自身にも「怒り」が発生して、さらなる怒りのエスカレーションが、周囲にも自分の中にも引き起こされていく可能性が高いでしょう。
今後、職場の状況が改善しないのが明らかならば、直ちに「離れる」、速やかに「退却」することを考えてほしいと思います。
もちろん実際には、それぞれの人生においてあらゆる要素が関わり、見極めが難しいことはわかります。
しかしここで、カウンセラーとして、皆さんに知っておいてほしいと思うことが一つあります。
それは、もし本人がすでに「疲労の3段階(うつ状態)」になっていると、そう簡単には職場をやめられなくなる、というメカニズムです。
疲れ切った状態では「今の環境を捨てる」という行動も、大変なエネルギーを要します。カウンセリングの現場でも、勤めている会社がブラック企業に近い状態で、本人はそのせいで疲れているのに、当の本人がやめたがらないというケースはとても多いです。
退却するという選択は、元気な状態でないと決断できません。
もし今の時点で、あなたが「2段階職場」にいる場合は、自分自身のエネルギーが本当に枯渇する前に、早め早めに離れる選択を検討しましょう。
すでに自分で決められない状態に陥っていると思う場合は、ぜひまだ健全な方に相談をするようにしてみてください。
コロナ禍の影響もあり、個人レベルでも組織レベルでも疲労が深まり、「2段階職場」も増えていくと予想します。ここで紹介したことを、ぜひ自分自身の心を守るために役立ててほしいと願っています。
(取材・構成/向山奈央子)