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あなたの職場の疲労度は「何段階」? ヤバい職場から身を守る方法を自衛隊メンタル教官に聞く

 長年「自衛隊」という大きな組織の心理教官を務めた、心理カウンセラーの下園壮太さんは「組織が一定の疲労状態に陥ると、急激にメンバー間のバトルが多発するようになります」と語る。「組織が疲労する」とはどんな状態か。『自衛隊メンタル教官が教える イライラ・疲れをとる技術』の著者でもある下園さんに、そのメカニズムと対応策を聞いた。
(タイトル画像:leremy / iStock / Getty Images Plus)

下園壮太著『自衛隊メンタル教官が教える イライラ・疲れをとる技術』(朝日新書)

■笑いが減る、言った言わない、不公平感に過敏など、疲労した組織の特徴とは

 まず、あなたが今いる職場について、次の項目はどのくらい当てはまるでしょうか。

▢ 挨拶が暗い、笑いが減る、愚痴が増える
▢ 残業が多くなる、ところどころで仕事が溜まる、遅くなる
▢ 言った、言わないなどのトラブルが増える
▢ 仕事上のミスが増える、ミスへの当たりが強くなる
▢ 仕事を押し付けあう、手伝わない、いちいち意義を求める
▢ 不公平感に過敏
▢ 少しの変更に対応できない、予定を知りたがる
▢ 小まめなホウレンソウができなくなる、嘘が多くなる
▢ 人間関係のトラブルが多くなる、他人の悪口が増える
▢ 部内派閥ができる、他部署との対立が多くなる
▢ パワハラ、セクハラ、いじめなどのトラブルが増える
▢ リーダーへの期待(不満)が高まる

 これは私が「2段階職場」と名付けた、組織力を失った職場の特徴を挙げたものです。

 当てはまる項目が多いほど、組織の力を失っていると考えてください。

「2段階」とは疲労のレベルのことを示しています。

 疲労には1段階、2段階、3段階とあるのですが、個人レベルでは次のように考えます。

・疲労の1段階
 何かストレスがかかっても、一晩寝れば元に戻れるという、通常の状態です。

・疲労の2段階
 疲労が重なり、同じストレスがかかったら一晩寝ただけでは戻れず、回復には2倍の時間やエネルギーを要する状態。表面上は通常通りを装っていますが、潜在的に自分が弱くなっているのを感じているので、周囲に対する警戒心が高くなり、怒りや不安の感情も、2倍発動しやすくなります。理由のないイライラが始まり、怒りっぽくなります。

・疲労の3段階
 疲労が深まり、消耗した状態。回復には3倍の時間がかかります。周囲や世の中への警戒も3倍、イライラ、怒りなどの感情も3倍です。エネルギーが枯渇して、心も体も動かなくなってしまいます。いわゆる「うつ状態」です。

 このように疲労には3段階があります。

 個人レベルでも組織レベルでもなんらかの要因が重なり、メンバーの3分の1が「疲労の2段階」になると、組織自体が「疲労の2段階」に陥り、最初に挙げたようなトラブルが急激に起こり始めます。これが「2段階職場」です。

【図】蓄積疲労の3段階(本書より)

■「2段階職場」ではスケープゴートが生まれる

 もちろん人間関係のトラブルは、通常の職場でも起こりえます。

 職場とは、そもそも「怒りの多発地帯」です。また、人とは本能で他人に勝ちたいもの。出世競争が激しければ、妬みが生じたり、派閥間の争いも発生したりもします。

 しかし、経営の悪化、多忙、人材不足、不祥事、将来性がないなどで「2段階職場」となった現場では、お互いの警戒が高まり、必要以上に人間関係がギスギスしてしまう。それでまた疲労が深まっていくという、悪循環に陥ります。

「2段階職場」では、いわゆる「スケープゴート」も生まれやすくなります。

 調子が悪い時、人は「原因究明」をしたがります。すると、その一つとして「あの人が悪いからだ」と、攻撃対象が生まれるのです。

 多くのメンバーがイライラしている中で、共通の攻撃対象が1人いれば、少なくともその間は、怒りの矛先は自分に向かいません。スケープゴートを仕立てることで、人は我が身を守り生き残ろうとするのです。

 逆に言えば、健全な組織ではスケープゴートは発生しません。

■強い組織に不可欠な2つの要素

 では、どのようにしたら組織は健全になれるのでしょうか。

 全員が疲労しなければ、その組織は2段階職場には絶対にならないでしょう。でもそれは現実にはありえません。

 まず大切なことは、「自分自身も他のメンバーも、ロボットではなく生身の人間。お互いにエネルギーには限界があり、疲れるものなのだ」と認識すること。

 さらに組織内の疑心暗鬼ムードは、少なからずお互いの情報不足からきていることが多いです。

 ちょっとしたコミュニケーションの積み重ねがそれを解消してくれるでしょう。例えば、少し雑談をしたら、驚くほどネガティブな雰囲気が解消されるのは、経験をしたことがある人も多いのではないでしょうか。

 だからこそ、職場では大切な仕事として、「休憩」と「相互のコミュニケーション」を意識的に入れ込んでいくべきなのです。

 これは、戦場という厳しい環境で、全滅する部隊とそうでない部隊を分ける、重要なポイントの一つでもあります。

 また、危機に瀕した時、部隊の長(おさ)がやるべき、一つの決断があります。それは「やらない業務」を決めて明言することです。

 実際の企業においては業務を減らすことは、収益やチームの成績が下がることを意味しており、なかなか難しい決断かもしれません。

 しかし、その責任を負うからこその長(おさ)です。

「2段階職場」にある場合、健全な状態に戻すためには、小手先の対処よりも、長の“腹決め”が重要なポイントとなります。

■組織からの退却は軽やかに、なるべく元気なうちに

 あなたが今「2段階職場」にいるならば、たとえ今は被害者や傍観者の立場であったとしても、「怒り」の感情が、あなた自身を蝕み始めるでしょう。

 組織内に発生した「怒り」はやがてエスカレートして、最初に挙げた項目のようなトラブルが多発します。あなた自身にも「怒り」が発生して、さらなる怒りのエスカレーションが、周囲にも自分の中にも引き起こされていく可能性が高いでしょう。

 今後、職場の状況が改善しないのが明らかならば、直ちに「離れる」、速やかに「退却」することを考えてほしいと思います。

 もちろん実際には、それぞれの人生においてあらゆる要素が関わり、見極めが難しいことはわかります。

 しかしここで、カウンセラーとして、皆さんに知っておいてほしいと思うことが一つあります。

 それは、もし本人がすでに「疲労の3段階(うつ状態)」になっていると、そう簡単には職場をやめられなくなる、というメカニズムです。

 疲れ切った状態では「今の環境を捨てる」という行動も、大変なエネルギーを要します。カウンセリングの現場でも、勤めている会社がブラック企業に近い状態で、本人はそのせいで疲れているのに、当の本人がやめたがらないというケースはとても多いです。

 退却するという選択は、元気な状態でないと決断できません。

 もし今の時点で、あなたが「2段階職場」にいる場合は、自分自身のエネルギーが本当に枯渇する前に、早め早めに離れる選択を検討しましょう。

 すでに自分で決められない状態に陥っていると思う場合は、ぜひまだ健全な方に相談をするようにしてみてください。

 コロナ禍の影響もあり、個人レベルでも組織レベルでも疲労が深まり、「2段階職場」も増えていくと予想します。ここで紹介したことを、ぜひ自分自身の心を守るために役立ててほしいと願っています。

(取材・構成/向山奈央子)