【8コマ哲学】140年前、「神は死んだ」とニーチェが喝破した理由
ニーチェと言えば、日本で一番知られている哲学者の一人。世界でも人気のある哲学者なのですが、その理由は彼の虚を衝くような独創的な視点と、力強い思想にあるように思います。
彼のもっとも有名な言葉である「神は死んだ」という発想。これはまさに虚を衝くものだといっていいでしょう。神様が死ぬなんて誰も思っていませんから。しかもそれは、キリスト教に頼ってばかりいて主体的に生きようとしない、当時の人々への警告だったわけです。
そうして彼は、力強く生きていくための超人思想を唱えたのです。この超人という名称もさることながら、神なしで強く生きていけというメッセージもまた、私たちを鼓舞するものといえます。なんだか勇気が湧いてきますよね。自分一人でもやっていけるというような。
そのためにはどうすればいいか? 実際には、この世は苦しみに満ちています。だからこそみんな神に頼るわけですが、ニーチェは、その苦しみから目を背けるのではなく、むしろ受け入れればいいじゃないかというのです。
これがニーチェの説く永遠回帰への正しい対処法です。永遠回帰とは、同じ苦しみが永遠に繰り返される状況をいいます。そこから逃れるには、その状況を受け入れ、何度でも立ち上がる気概を持つよりほかありません。「よし、もう一度!」と。
そんな強い「超人」に生まれ変わるには、そもそも自分の軸をしっかりと持たなければなりません。だからニーチェは、自分だけの道徳基準を持てと呼びかけるのです。世間の基準に合わせる必要などない、と。
世間の基準に合わせるから、自分がうまくいかないような時、世間が悪いという言い訳をするのです。これがいわゆるルサンチマン、弱者が「強者は悪だ」として自分を納得させる心理です。負け惜しみみたいなものですね。
ニーチェは、キリスト教は「悪人は天国にいけない」「自分は貧乏で苦しいけど善人だから天国へいける」とし、ルサンチマンを「道徳」という言葉に置き換えて、爆発的に普及させたと考えました。でも、負け惜しみを言いたくないなら、最初から自分の基準で生きればいい。日本人はどうしてもこれができないから、ニーチェに憧れるのかもしれませんね。
(文/哲学者・小川仁志)