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【8コマ哲学】140年前、「神は死んだ」とニーチェが喝破した理由

 哲学には興味があるけれど、なんだか難解でとっつきにそう……というあなたのための一冊! 2022年7月に発売された『ざっくりわかる8コマ哲学』(小川仁志著、マンガ:まめ/朝日新聞出版)では、東西に広く知られる35人の哲学者の思想を、8コマまんがでざっくりゆる~く解説。ここでは、「神は死んだ」と喝破したニーチェの思想をご紹介します。

小川仁志著/マンガ・まめ『ざっくりわかる8コマ哲学』(朝日新聞出版)
小川仁志著/マンガ・まめ『ざっくりわかる8コマ哲学』(朝日新聞出版)

 ニーチェと言えば、日本で一番知られている哲学者の一人。世界でも人気のある哲学者なのですが、その理由は彼の虚を衝くような独創的な視点と、力強い思想にあるように思います。

 彼のもっとも有名な言葉である「神は死んだ」という発想。これはまさに虚を衝くものだといっていいでしょう。神様が死ぬなんて誰も思っていませんから。しかもそれは、キリスト教に頼ってばかりいて主体的に生きようとしない、当時の人々への警告だったわけです。

 そうして彼は、力強く生きていくための超人思想を唱えたのです。この超人という名称もさることながら、神なしで強く生きていけというメッセージもまた、私たちを鼓舞するものといえます。なんだか勇気が湧いてきますよね。自分一人でもやっていけるというような。

 そのためにはどうすればいいか? 実際には、この世は苦しみに満ちています。だからこそみんな神に頼るわけですが、ニーチェは、その苦しみから目を背けるのではなく、むしろ受け入れればいいじゃないかというのです。

神様というものは、たとえ見えなくても、自分が信じられればそれで安心できます。神様は頼りがいのある大きな存在ですから。でも、ニーチェはそれがダメだといいます。みんな神様に頼りすぎだと。少なくとも彼が生きた19世紀の西洋社会はそうでした。だから「神は死んだ」といったわけです。見てもないのになんでわかるの?って突っ込みたくなりますが……。(言葉 小川仁志/イラスト ©mame)

 これがニーチェの説く永遠回帰への正しい対処法です。永遠回帰とは、同じ苦しみが永遠に繰り返される状況をいいます。そこから逃れるには、その状況を受け入れ、何度でも立ち上がる気概を持つよりほかありません。「よし、もう一度!」と。

 そんな強い「超人」に生まれ変わるには、そもそも自分の軸をしっかりと持たなければなりません。だからニーチェは、自分だけの道徳基準を持てと呼びかけるのです。世間の基準に合わせる必要などない、と。

 世間の基準に合わせるから、自分がうまくいかないような時、世間が悪いという言い訳をするのです。これがいわゆるルサンチマン、弱者が「強者は悪だ」として自分を納得させる心理です。負け惜しみみたいなものですね。

 ニーチェは、キリスト教は「悪人は天国にいけない」「自分は貧乏で苦しいけど善人だから天国へいける」とし、ルサンチマンを「道徳」という言葉に置き換えて、爆発的に普及させたと考えました。でも、負け惜しみを言いたくないなら、最初から自分の基準で生きればいい。日本人はどうしてもこれができないから、ニーチェに憧れるのかもしれませんね。

フリードリヒ・ニーチェ
1844~1900年。『道徳の系譜』『ツァラトゥストラはかく語りき』などで知られるドイツの実存哲学者。キリスト教を奴隷道徳と呼び、それによってニヒリズムが生まれると批判。苦しみを受け入れる超人思想を唱えた

(文/哲学者・小川仁志)