うつ病で2カ月休職し自信をなくした男性が“鳥のふん”に感動するまで…元自衛隊メンタルヘルス教官が推奨する「サイコーの評価法」とは
元自衛隊メンタル教官で、『自衛隊メンタル教官が教える 心の疲れをとる技術』(朝日新書)の著者でもある下園壮太さん。長年自衛隊でカウンセラーを務めた下園さんは、これまで接してきた数多くのクライアントを通して、不安を減らし、自信を回復するための秘訣(ひけつ)を見いだすことができたという。自信回復のために最も大切な「自分自身を正しく評価するスキル」について下園さんに伺った。(写真:Getttyimages/図版:本書より)
ストレスとは外界の刺激のことだが、厳密にいうと客観的な量で決まるものではなく、自己イメージとの比較で決まる。例えばある上司の物言いがストレスという場合、自分がそれに対処できると感じているときは、ストレスではないが、自分がうまく対処できないと感じた時がストレスになるのだ。
つまり、自己イメージを強化できれば、社会を変えなくてもストレスはかなり減ってくる。自己イメージを強化するには、具体的には「自己評価の訓練」が必要だ。
日本人は真面目で不安がりな傾向が強いので、「自分に厳しい人」が多い。これでは、どんなに頑張っても、「まだまだダメだ、もっとやらなきゃ」と常に自分で自分にマイナス評価を出し続けることになってしまう。それでは不安は消えず、自信も育たない。
一番大事なのは、「自分自身を正しく評価するスキル」なのだ。そこで、不安を減少させ、自信を回復させるツールを簡単に紹介したい。
私は、毎日を振り返り「良いことを3つ」「悪いことを1つ」、悪かったことに対する「今後の対策を1つ」挙げる訓練を推奨している。3(サン)、1(イチ)、今後(コンゴ)の頭文字をつなげて「サイコーの評価法」と呼んでいる。
ある人は、仕事上の挫折をきっかけに、うつ状態になってしまった。2カ月の休養を経て職場復帰をしたが、うつになる前に比べて、まったくと言っていいほど自信がなくなってしまった。
何とか無難に仕事を終えても、自分では気が付かないミスをしているのではないか、誰かからケチをつけられるのではないかと考えてしまう。すると、周囲の人が自分を攻撃しているように見えてしまうので、愛想も悪くなる。
周囲からも「復職しても、以前のような明るさはなくなって、付き合いにくい人になってしまった」と感じられていた。
そこで、彼にサイコーの評価法を練習してもらった。毎日、必ずメールで私に送ってもらうようにしたのだ。最初は「よかったこと」を挙げられない日もあったのだが、「くだらないことでもいいですよ」とアドバイスし練習するうち、「昼食の肉じゃががうまかった」「帰りのバスがすぐに来てくれた」「昨日は睡眠薬をのまずに眠れた」などと、良いことを挙げられるようになってきた。
そして次第に「今日は◯◯をやり遂げた。以前よりストレスも感じなかった」とか「◯◯君に頼まれたことを、何とか無事に提出できた」などと仕事について客観的に評価するように変わってきた。
さらに、(悪いこと)「◯◯さんの話を無視した形になった」、(今後の対処)「明日は、自分から声をかけてみよう」と、悪いところも、すぐに対処のほうに頭が向くようになってきた。次第に彼は、職場で浮く存在ではなくなりつつあった。
そしてある時、こんなメールが届いた。
「先生、すごいです。鳥にふんを落とされたのですが、<鳥はすごい能力だ、あんな高いところから、俺の頭にピンポイントでふんを落とせるなんて、自然は素晴らしい>と感じることができたんです。うれしくって、メールしました」
良いことを見つけられ、それを感じているうちに、世の中が「それほど悪いものではない」と感じてくる。すると警戒のエネルギーも低下し、穏やかな日々を過ごせるようになるのだ。
このサイコーの評価法は、日ごろから練習しておくと、何かを見るとき、つまり評価するときの一つの癖になる。
ただ癖になるには、ある程度の練習が必要。少なくとも2カ月は、例えば携帯のメモに入力したり、日記に書いたりして続けてほしい。書くのが面倒くさい人は、毎日の電車の中、トイレの中などの隙間時間に、手早く思い出すだけでいい。
自分の評価が変われば、世界が変わる。ぜひ試してもらいたい。