たまには「白いワイシャツ」をやめてみよう
朝目覚めると体が重く、仕事に行くのが辛い。昔から「5月病」という言葉もあるように、連休が明けてから梅雨に入っていくこの季節は、そのような症状でメンタルヘルスの相談に訪れる人が増加します。症状が重ければ、医師や心理カウンセラーなど専門家を訪ねるべきですが、まずは日々当たり前にやっている小さな習慣をやめてみると、驚くほど心が軽くなることがあります。産業カウンセラーで職場のメンタルヘルスの専門家である見波利幸さんによると、良かれと思ってしていることが、いくつも積み重なって大きなストレス源になっている人は少なくないと言います。
見波さんは『やめる勇気――「やらねば!」をミニマムにして心を強くする21の習慣』(朝日新聞出版)の中で、仕事に行くのが辛くなったら、まずやめてみてほしい21のことを提案しています。ここでは、その中の一つ、「白いシャツ」をやめてみることについて紹介します。
私は講演会や研修で人前に立つことが多いので、身だしなみには気を使うようにしています。具体的に言うと、自分の誠実な気持ちを相手に感じ取ってもらえるような服装、あるいは多くの人がその場に相応(ふさわ)しいと感じるような服装を心掛けています。
そうすると選ぶことが多くなるのが白いワイシャツです。相手の期待に応え、自分が納得できるように全力で仕事をしている自分は、白いシャツを着ていることが多いわけです。
ビジネスの現場では白いシャツが最も印象がいいと言われますが、そのことから考えると「白いシャツを着ている自分」は多くの人にとって「あるべき自分」なのではないでしょうか?
そんな自分でいることについて何の負担もないようなら問題はないのですが、少し気を張った状態で白いシャツを着ているなら、時々それをやめてみるのもいいかもしれません。
たとえば、会議や顧客との打ち合わせがない日に、色付きや柄物のシャツを着てみるのです。「絶対白シャツ」というルールは、「あるべき自分」にこだわり続ける、ということにも通じます。そういう固定観念が、知らず知らずのうちに自分を縛り、苦しめてしまっていることがあります。そこで、単に着るシャツを変えるだけでも心の窮屈さが取れて、気持ちが楽になるのです。
私の場合、地方で講演や研修を行った後に、ホテルで仕事着のスーツからカジュアルな黒い服や夏なら賑やかな柄のシャツに着替え、サングラスをかけて飲み屋街に繰り出すことがあります。
同行している営業スタッフに「見波さん、その恰好はちょっとまずいですよ。お客さんに偶然会うかもしれませんし……」と言われてしまったこともありますが、私にとっては自分の心のバランスをとるための工夫なのです。
講演や研修に加え、複数の方のカウンセリングを行うことが何日も続くと、どうしても自分が一つの枠にはまってしまうような感覚になります。
そんな時は、いつもとは正反対の自分を楽しむようにしています。そうすると自然とバランスが取れてくるのです。
もちろん、黒い服を着て羽目をはずすわけではありませんが、いつもの枠からあえてはみ出すことで、心の均衡を保つことができるのです。
みなさんも時々、「いつもの自分ではない自分」になってみてください。
(文:見波利幸/写真:Gettyimages)