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ほんの記事

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2021年4月の記事一覧

月収200万から借金300万のどん底生活へ…男がタクシードライバーになって救われた理由

 ノンフィクションライター・山田清機氏による『東京タクシードライバー』(朝日文庫・第13回新潮ドキュメント賞候補作)。山田氏がタクシードライバーに惹かれ、彼らを取材し描き出した人生模様は、決してハッピーエンドとは限らない。にもかかわらず、読むと少し勇気をもらえる、そんな作品となった。事実は小説より切なくて、少しだけあたたかい……。 ■「流し」は「なか」に向かう  中央、千代田、港の3区を、東京のタクシードライバーたちは「なか」と呼ぶ。「なか」は、必ずしも地理的な中心を意味

人生の底にいた私に、「来年こそいい年にしましょう」とタクシー運転手は言った

 もうかれこれ20年以上前になるが、新卒で就職した会社を1年半で辞めてからというもの、一貫して金がない。  なぜ、長い受験勉強のゴールであったはずの大企業をやめてしまったのか、理由は自分でもよくわからない。当時は「管理社会」という言葉が流行っていて、管理されることへの反発のようなものがあった気もする。親に敷かれたレールから一度降りてみないことには、自分の人生にならないような気もしていた。本当の理由はいまだによくわからないのだが、ただ、何かが無性に耐え難かったことだけは間違い

ファミコンで泣いたあの頃の自分への懺悔と知ったかぶりからの卒業

 新刊が出る度に、広告を作り、POPを作り、チラシを作る。宣伝課のしがないスタッフが、独断と偏見で選んだ本の感想文をつらつら書き散らす。おすすめしたい本、そうでもない本と、ひどく自由に展開する予定だ。今回は、アサヒオリジナル『スマホで困ったときに開く本 2021-2022』(ムック)を嗜む。  以前、籍を置いていた出版社の社長がこう話していた。 「実用書って、なにかについて本当に困った人が、悩みまくって、どうにもならなくて、最後の頼みに書店に行って、すがる思いで手にするも

合計1250人逮捕した横浜のドヤ街「寿町」の名物刑事の“悔いなき人生”

横浜の一等地に存在する「日本3大ドヤ街」のひとつ「寿町」をご存じだろうか。6年にわたる取材により、「寿町」の全貌を明らかにしたノンフィクション『寿町のひとびと』。著者は『東京タクシードライバー』(新潮ドキュメント賞候補作)を描いた山田清機氏だ。さまざまな人生が渦巻く寿町。そんな寿町を拠点に、1250人逮捕した「名物刑事」について、本書「第八話 刑事」から一部を抜粋・再構成して紹介する。  昭和46年、宮崎県からひとりの若者が上京して、横浜の本郷台にある神奈川県警警察学校に入

歴史的事実の“隙間”に見えてきた美しい“虚構” 21世紀メアリー・アニングの映画の出現

 いま最も注目される監督、フランシス・リーが描く“女化石ハンター”メアリー・アニング。映画「アンモナイトの目覚め」でメアリーを演じたケイト・ウィンスレットがよみがえらせたのは、貧しく無学でも堂々と上流階級と渡り合った生き様だ。地質学、古生物学に大きな貢献を果たしたメアリー・アニングとはどんな人物だったのか。メアリーの生涯を追ったノンフィクションの書籍『メアリー・アニングの冒険』(朝日選書、2003年)の著者の一人で地質学者の矢島道子氏(もう一人の著者は数々の名作アニメ映画を生

「青天を衝け」の予習に最適! 慶喜・栄一・海舟の三角関係とは?

 新刊が出る度に、広告を作り、POPを作り、チラシを作る。宣伝課のしがないスタッフが、独断と偏見で選んだ本の感想文をつらつら書き散らす。おすすめしたい本、そうでもない本と、ひどく自由に展開する予定だ。今回は、朝日新書『渋沢栄一と勝海舟 幕末・明治がわかる! 慶喜をめぐる二人の暗闘』を嗜む。 「こんばんは、徳川家康です」  日曜夜8時、家康から挨拶と自己紹介されるシュールなオープニング。カメラ目線の語りかけにドラマ「古畑任三郎」世代はデジャブに襲われ、Twitter上で生き

1年360日、日本3大ドヤ街のひとつ「寿町」を見守る 日本人の“最後の砦”帳場さんとは?

横浜の一等地に存在する「日本3大ドヤ街」のひとつ「寿町」をご存じだろうか。6年にわたる取材により、「寿町」の全貌を明らかにしたノンフィクション『寿町のひとびと』。著者は『東京タクシードライバー』(新潮ドキュメント賞候補作)を描いた山田清機氏だ。さまざまな人生が渦巻く寿町。そんなドヤで、なくてはならない存在である「ドヤの管理人」について、本書「第六話 帳場さん二題」から一部を抜粋・再構成して紹介する。  寿地区の入り口には、結界に相応しい人物が睨みを利かせている。扇荘新館の帳