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【第2回】再生医療抗加齢学会学術総会 山下准教授発表レポート
4月13日に東京の日本橋で第一回 再生医療抗加齢学会 学術総会を開催しました。
岡山大学の山下准教授から「ALS患者に対する新たな幹細胞(Muse細胞)を用いた治療法の開発」という発表についてご紹介させていただきます。
ALSの成因と現状
筋萎縮性側索硬化症(ALS)という名前から見ると筋肉の病気だと考えますが、実際の成因は運動ニューロンの変性と減少です。非常に残念ですが、現在の療法は症状進行の抑制だけで、根治の療法はありません。
様々な既存の療法の中、自家由来間葉系幹細胞(MSC)療法はすでにALS症状進行の遅延に有効だと検証しました。MSCから分泌された増殖因子である血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、神経増殖因子(NGF)などにより神経・血管新生を促進することは主な原因だと考えられます。
Muse細胞について
山下准教授は間葉系幹細胞から単離できる特殊な幹細胞‐Muse細胞‐に着目しました。Muse細胞はさらにALSに対する治療効果が期待できます。
Muse細胞とは、間葉系幹細胞と同様に自己複製能と分化能を持つ多能性細胞であり、骨髄、皮膚、脂肪などの間葉系組織にメインに存在し、また様々な臓器の結合組織にも内在します。そもそも体内に自然に存在する細胞であり、腫瘍化の危険が極めて低いという特徴もあります。細胞表面にあるSSEA-3というマーカーを認識することで異なる細胞から分離できます。
Muse細胞の非常に魅力的な特徴は各臓器共通の損傷マーカーS1Pに誘導されて自動的に損傷部位に遊走する事が可能です。この特徴があることから、点滴投与で全身の疾患が対応できます。それに加え、免疫回避マーカーを持っているので、他家由来細胞であっても、免疫抑制剤を使わなくても投与可能です。事前にドナーから回収したMuse細胞を凍結保存し、必要な時に解凍して直ちに投与でき、様々な病気の急性期の対応が可能になります。
前臨床研究・臨床試験の結果
山下准教授はALSマウスにヒトMuse細胞を投与し、前臨床研究を行いました。
投与方式の検討で分かったのは脊髄注射より静脈注射の方が効果的です、Muse細胞は腰部脊髄への遊走を認めました。治療効果については、ALSマウスの運動機能を有意な改善が見られました。
上記の結果を踏まえて、山下准教授は初めて人にMuse細胞を複数回投与し、臨床試験を行いました。主要な評価項目は安全性ですが、投与開始後12ヶ月まで重大な副作用はありません。特に投与されたのは他家細胞でありますが、免疫拒絶が見えませんでした。有効性評価については、ALSの進行速度を50%遅延することができました。
山下准教授によると、今後より多くのALS患者を対象とした二重盲検比較試験を実施する予定となります。
自分の考え
Muse細胞が発見された時点から色々と議論になりました。疾患部位に自動的に凝集でき損傷細胞を健常細胞に置換することで非常に治療効果が期待できる一方、このような細胞は本当に存在するかという疑問もあります。
自分はMuse細胞の存在と優れた機能を持つことが信じていますが、心配するところも二つあります。
一つ目は免疫回避です。今回先生からの発表で分かったのは先生たちもいつも免疫反応について心配しています。臨床試験で常に免疫抑制剤を用意しましたが、一回も使ったことがありませんでした。ですが、これで本当にMuse細胞が免疫回避できることが証明できないと自分が考えています。他家細胞であれば免疫拒絶のリスクはないとは言えません。
二つ目は今回の臨床試験での結果は非常にいいですが、まだALSの根治を実現できていません、症状の遅延だけです。根治するために細胞の加工かほかの細胞の開発などが必要だと思います。