障害者手帳を更新した。2年使って見えたメリットデメリット
今日、役所にて障害者手帳の更新手続きを済ませてきた。社会福祉制度上の「障害者」を2年やったことになる。
2年間の振り返りとして、手帳を取得・利用する上で実際に感じたメリットとデメリットをまとめてみる。将来障害者手帳の取得を考えている方の参考にもなれば幸いである。
【はじめに 合併症・服薬なしのASD単体でも手帳は取得できる】
私が手帳の取得に向けて動き始めた時、最初に、そして最も不安に思ったのが「自分の状態が“障害”と認められるのか?」ということだった。
ASD、自閉スペクトラム症の多くは鬱や統合失調症などの合併症を抱えていてそれらを治療するために服薬している。(前にどこかで何らかの合併症を持つ割合が7割と聞いた)
だが私の場合、鬱っぽさが常態化する一歩手前で自分が発達障害であることを知り、結果的に合併症も服薬も無い(元々ASDには治療薬が無い)状態での申請となったため、ASD当事者の中でも「軽い」が故の「通るのだろうか」という不安や「こんな自分が申請しても良いのだろうか」という後ろめたさがあったことを憶えている。
この記事を書いている通り無事に障害等級3級で申請は通ったので、ASDはそれ自体で十分社会福祉制度上の“障害”であるのだ、ということは言葉にして残しておきたい。今後取得する方の周囲に手帳保持者がいない時、インターネット上でどんな等級・状態で利用している人がいるのか探し、妙に他人と自分を比べてしまい…といった悪循環が減るように、私というモデルケースを電子の海に放流するのだ。
・メリット① 映画・公共施設が安く利用できる
障害者手帳のメリットとして最も挙げられるのがこれ。この2年間、美術館や博物館にはあまり足を運ばなかったが、映画館に行くことは確実に増えた。
チケット予約の際に障害者手帳割引を選択すれば所持者本人とプラス1名まで通常の約半額で鑑賞することができる。一人1,000円の所が多い。なお、手帳割引を適用した上でIMAXをキメるのが一番満足度が高い。
割引を実施してくれている各施設に感謝。めちゃくちゃ助かっています。
・メリット② 運転免許取得費用が最大10万円助成される
個人的に「支援のデカさと注目度が釣り合っていないと思う制度No.1」が、自動車運転免許取得費用の助成である。
一人一回まで、最大10万円で免許取得にかかった費用の1/3を自治体が負担してくれる制度だ。自動車学校を卒業する際に提出すれば、申請に必要な書類を書いてくれる。普通免許に限らず、バイクや中型・大型免許も対象である。
手帳取得時私はな〜んにも資格を持っておらず、進路不定で大学を卒業したから「せめて免許取ろう」という家族の勧めもあり本制度の利用に至った。
10万円助成されたため約20万円で取得でき、お金の不安もあった当時は大変ありがたかった。10万円って大きいよ。
ちなみに、免許取得によりASDのことを親戚に話した際(同時に話した)も「コイツもとうとう運転できるようになった!」という反応の方が圧倒的に大きかったため、親戚に障害のことを話して嫌な目にあったらどうしよう…と考えている方は利用してみるのもありかも知れない。というかもっと広まれ。
・メリット③ 本人確認書類として利用できる
これは限定的なメリットだが、役所で住民票を取得する際に顔写真付きの本人確認書類が求められることがあり、その時に一度だけ障害者手帳を提出した。当時は運転免許取得前だったから、取得後やマイナンバーカードを持っていればもう出番が来ることはほとんど無いだろう。だが切羽詰まった時の本人確認書類になりうることは頭の隅にでも留めておきたいと思う。
・メリット④ 所得税・住民税が安くなる
年末調整や確定申告の際に障害者控除が適用されると一般障害者で所得税課税対象である所得が270,000円、住民税課税対象である所得が260,000円控除される。
所得税の適用税率が5%であれば、270,000円×5%=13,500円年間の所得税が安くなるという計算だ。
これも障害者手帳の有名なメリットではあるが、障害者自身の年収が相対的に低い現実がある以上、金額的に大きなメリットとはなり得ないかもしれない。私は去年の年末調整で手帳を提出したが、勤め先に知られたくない方は年末調整後、3月15日までに障害者控除にチェックを入れて確定申告をした上で、住民税の徴収方法を特別徴収(給料から天引き)ではなく普通徴収(自身で納付)に切り替えることをおすすめする。
・デメリット① 申請にかかる費用は高い
申請に関する出費は主に診断書代、証明写真代、診断書をもらうための通院費及び交通費、役所に行くための交通費または郵送費であり、トータルで10,000円ほどかかったと思う。診断書代は医療機関によって異なるため一様には言えないが、私が通院する病院は7,700円だった。更新のたびにこれがかかると思うと、決して安くない金額である。私たちは経済的な困難を抱えやすいというのに。
少し逸れるが、発達障害と障害者手帳をめぐる議論でよく出されるのが「発達障害は生まれつきで治るものではないのになぜ更新があるのか」という意見である。現状精神障害者手帳は状態が改善・変化する見込みがある疾患(勿論、それらの当事者には一生をかけて病と付き合っていく人もいる)とそもそも治らない発達障害を一括りにした上で交付されており、2年間の有効期限が設けられている理由が「改善・変化するため」であるなら発達障害には有効期限なしの手帳が相応しい、という考えだが、確かに今後大して変わらない特性のために定期的に10,000円をかけるのか…という気持ちは私にもある。ASD単体であるから尚更だ。しかし、発達障害の特性が周囲の環境によっては障害たりえないという社会モデル的な定義がある以上、そして実際にも、2年経てば状況は変わっている可能性があるため、現行制度を変更することはかえって自分自身の可能性を閉じてしまうのではないか、とも思う。
問題が解消されれば返納するとか、状況が悪化すれば手帳の再交付を申請するように、こちら側も色々取れる行動を柔軟に探っていくべきなのだろう。
・デメリット② 人に嫌なことを言われることはある(ある意味メリット?)
実生活でも基本はオープンなASDをやっているので、手帳の話をして揶揄されることは残念ながらある。「水戸黄門の紋所」みたい、とか。サラッと言われるので本当にびっくりする。
このような障害者手帳に対する偏見を恐れて申請をしないことを選んだ当事者も身近にいた。その場合は、手帳を持っていることを無理に人に言わなくて良いし、言わなければならない義務は無い。
ただ私の捉え方を述べると、手帳持ちであることを話すことは「親密になるべきではない人間をフィルタリングする」ことだと考えていて、その点においてこれはある種のメリットだとも言えると思う。手帳を持っていると話すだけでわざわざ相手の方から自分を傷つけてくれるのだから、こちらはこれ以上仲良くするに値しないと判断できる格好の材料なのだ。「相手は障害者手帳の偏った社会的意味を修正する機会に出会わなかっただけだ」という意見もあるだろうが、その負担を当事者に背負わせるな、と言いたい。差別やマイクロアグレッションを扱った本は沢山あるのだから、当事者から学ぶ前に誰かを傷つける可能性を減らす努力を私たちはし続ける必要がある。
【結論、自分がどう利用するか。情報戦を攻略する気持ちで】
今回自分が障害者手帳の更新手続きをしたのは、親の定年に伴う転居によって、私が独り立ちしなければならない可能性が高まっているからだ。現在私は週4パートで働いていて、正直経済面でも体力・家事能力の面でも、何らかの公的支援を受けなければ神奈川に残って一人暮らしなどできようがない。そこで家賃が安い県営住宅への入居申し込みやホームヘルプサービスの利用を選択できるようにするために更新に至った。
2年の間に状況は変わっているかも、と書いたが、私の場合は求められるハードルがより高くなる形で状況が変化してしまった。だが自力で申請をしない限り、自治体からは助けが必要だと気づかれない。自分で調べたり相談しなければ自分にとってどの支援が適切なのかは見えてこない。これが申請主義の弊害か…と嘆きもするが、幸い自力で申請できる元気はあるので、障害者手帳・福祉の利用は「自分の人生をより生きやすくするための情報ゲーム」と楽しめに捉えるようにしている。
振り返れば、2年前まで役所がどのような場所か、どのような窓口があるのかを全く知らなかった。その中で障害者手帳を取得したことは、初めて自分の体で公的支援に繋がった経験であり、何か困ったことがあったら助けを求めるという考え方が実体験として身についたのは、自分にとって最大のメリットであったと思う。
障害者手帳も含め、何らかの公的支援を受けようとする人に対して「税金の無駄だ」などの言葉を投げかけるカスが目立つ世の中だが、其奴らはただ助けの求め方を知らない、今まさにスマホという調べられる道具を手にしているのに調べようとしない、無知なまま受け身で人生を送るような有象無象である。そんな奴らに私たちの選択を閉ざされてたまるかい。絶対生きてやるからな。
確か熊谷晋一郎氏の言葉であったか。自立とは自分で何でもできるようになることではない。依存先を増やすことである。