あるいはimpermeabilityにおいて
ある夜の不浸透性。
君は薄い膜に覆われている。帷が落ちて青に染まったとき、君の不浸透性は揺らいだ。まるで胎児だった。母親という不浸透性に覆われていたような。そうしてやがて君にとっての夜は母親になった。
くちなしの不浸透性。
木漏れ日が射している。朝露に濡れていたはずだった。きっと昔は。色に音はつきものだ。だから、くちなしの白は音がしないという形容の音がした。その不浸透性をもってして。しばらくして雨が降った。甘い匂いを伴って、いつからか僕らはくちなしの音を忘れてしまった。
白昼夢の不浸透性。
今朝のことはよく覚えている。朔太郎の詩を朗読していた。彼女の横顔まで覚えている。まつ毛の先に燦々と降った日差し、キッチンに舞って乱反射する埃。きっとその時からだ。現実を介さない。ひどい不浸透性によって。もっと違う言葉で言いたかった。美しいことを白昼夢のせいにしてみたかった。はじめから、不浸透性を都合よく盲目な理由にしたかった。
ガラスの不浸透性。
「水槽は割れてしまうと大切にしていた水中を失ってしまうらしい」
「実際、僅かだけどガラスは溶けていっているから、本当に失っているのは自身のほうだよ」
「そういうことじゃないよ」
「どういうことだよ」
「美しいものは儚いってこと」
「美しいものは美しいってことじゃないのか」
「なんかズレてるよ」
「うーん、僕は美しいってそういうことだと思うんだけど」
「この会話ってガラスみたいだね」
「美しいってこと?」
「私たちで全く外と内みたいに分かれてるってこと」
「あぁ、そんな性質のことを指す言葉があって、確かね」
「うん」
「不浸透性って言うらしい」
「そうなんだ。でもちょっと違うかも」
「そうかな」
「だって、私はあなたに寄り添おうとしている」
「いや、不浸透性っていうのは互いが寄り添うとか関係なしに仕方のないことなんだよ。たいてい神様が決めてるような」
「そっか、神様が決めてるなら仕方ないね」
「うん、でも」
「ん?」
「ガラスはやがて溶け切ってしまうから」
「その時、神様はびっくりするだろうね」
「いや、僕らにとって不浸透性は関係ないってこと」
「うーん、難しいよ」
「そういうのを不浸透性って言葉に今は任せておこう」
「うん、そうだね」
「うん」
彼らは聡明ではありませんでしたが、とても繊細で大切なものがなんなのかをよく知っていたので、静寂まで愛せました。話はここで終わりです。
不浸透性は寂しさの象徴ではありません。ただ、みんなが忘れてしまったような詩において、ひた隠しにして語られることがしばしばあるようです。