見えざる女帝(4) 職安へGO!
これまでのあらすじ
【 みえざる女帝(1)】
【 みえざる女帝(2)】
【 みえざる女帝(3)】
※LINEのスクリーンショットは匿名化していますが、インタ君の発言は電球 or 電灯 or 黒塗りで統一しています。
※それ以外の左側の吹き出しはすべて長い夢氏、右側はすべて私です。
*
長所と短所を書かせたものの、インタがハローワークへ行く気配はまったく見せなかった。業を煮やした長い夢と私はインタを詰めはじめる。
「インタいつハローワークいくの?今日いくの?今日は散歩だからキツいかな?明日行くのかな?昨日おじいちゃんを病院に連れてったから明日は暇だよね?明日なにするの?」
あさちゃんもそうだが、この手のタイプは罪を咎めたり詰めたりすると返信が極端に遅くなる。現実世界なら1時間くらいまったく返事しないこともあるかもしれない。
「明日、行けたらいく」
インタからやる気のない返事がかえってきた。
「インタ、お前はあいるを幸せにするんじゃないのか?好きな人と結婚してハワイの綺麗な島で結婚式あげて年収50億稼ぐんじゃないのか?まずはハローワーク行かなきゃ始まらないだろ」
「わかってる」
「明日なにやるの?」
「明日は祖父のおつかいしてゴミ拾いボランティアやる」
「ゴミ拾ってる場合じゃないだろ。ゴミ拾ってお金稼げるの?」
「稼げない」
「じゃ生きていけないよな。これから家族を養うならお金稼がないといけないよな」
「わかってる」
「わかってるならゴミは拾うな」
公安警察のような詰問に耐えかねたインタはいつも通り「もうすぐ25時ですね、明日早いので寝ます。おやすみなさい」という定型文を打って逃げだした。
正直素直な性格が取り柄のインタがこんなことを言ってはいけない。私と同じことを長い夢も感じていたに違いない。
午前9時45分。おそらく仕事の集中力が切れたと思われる長い夢から長い長いガトリングが放たれる。
時間を見てもらえばわかるように、この間わずか3分弱だ。きちんと数えるとわかるが60秒足らずで120文字を打っている。ワンピースのエニエスロビー終盤で描かれたゴムゴムのJETガトリングよりも手数が多い。
インタは2つのことを同時に考えることが脳の構造的に不可能なので、このように連続的に意見質問を浴びせると頭がショートして返事が来なくなる。
案の定、「うん」とだけ返ってきた。連続で質問するとこのように何に対して「うん」と言っているのかわからなってしまう。「うんこ」と書く途中で絶命した可能性もある。
長い夢が核心に迫る。
この警告が2019年12月末の出来事である。
その後3日間に渡って「ハローインタ!インタハローワークいきましたか?」と常人なら気が狂うほどのLINEを送り続けるも
「今日は買い物があって」
「祖父の通院がある」
「犬の散歩」
と躱し、
「夜ご飯の支度」
という昼に行けない理由にならないものを経由して、最後には
「高校のフィリピンの友達にドンキホーテのアダルトコーナー勧められた」
もはやインタの行動とまったく関係ない言い訳をしてきた。彼はもう、彼の自称する「正直素直」な人間ではない。
この度重なる「ふりだしに戻る」により、ついに長い夢が飽きてしまう事態が勃発。
「インタはさ、本当に何度言っても俺たちの話を聞いてくれないよな。もうお前が俺たちのことトモダチだと思ってるって言葉は信用できないよ。俺はこのグループを抜ける。またしばらくしたら、成長した姿を見せてくれよな」
そう言い残し、長い夢はライングループを抜けて鳳東へ帰ってしまった。合計10000戦に向けて鬼打ちするためだ。
自分で持ってきたウイルスを残して勝手にいなくならないでもらいたい。インタがウイルスだったらテロと同じことですよ。
こうして我々のインタ補完計画は使途アイルの前に完全敗北し、彼を更生させようとしたという結果のみが残った。もうこんなことはやめればいいのだが、一度背負った責任は放棄できないのが我々の不器用なところだ。
もはや完全に福祉である。
*
2020年に入ってからは、長い夢はインタとはほとんど関わらなくなった。
私のほうは、インタに強く言い過ぎたのだと反省し、北風と太陽作戦に計画を移すことにした。要は「ハローワーク行け」ではなく、「ハローワークは通過点だよ♪インタは正直素直だから面接なんて簡単だよ♪将来の就職先が君を待ってるヨ♪」と宗教の勧誘のようなポジティブ100%で後押しすることにしたのだ。
この頃、私は個人的にアフリカのコーヒー農園と契約していたのだが、その契約先が紛争で消滅するという災禍に見舞われる。仲介の商社が「fired」と言っていたような気がしたので「勝手に契約取り消すなよ」と思っていたところ、カタコトで「モエマシタ」と教えてくれた。
そんなこともあって少しばかり余暇があったため、インタからLINEが来ればすぐにポジティブ全開で対応し、彼の中での私の存在を大きくしていくことに成功した。
そして1月30日 木曜日。インタから吉報が入る。
「俺ハローワーク行ってきました」
(ついにきたか!!)
私は感激した。いままで頑張ってきたことが報われ、身体が宙に浮くような感覚になった。
「インタ、俺はお前がいつかやる男だと信じていたよ。応援してきて良かったよ。でもハローワークへ行ったことはゴールじゃない、スタートだ。これから仕事は選びたい放題だよ。職員は何て言ってた?」
「14日後にまた来てくださいって」
「いやそれ追い返されとるやないかい、その対応はもう完全に塩対応やがな、すぐわかったやんこんなんもう。ほなもうちょっとなんか言ってなかった?」
「説明がむずかしい」
【 見えざる女帝(5) へ続く】