
【あっさじーん伝記】 手荷物クラッシュ
【前回の話】
6月8日(月)
彼の遊図出勤が2日後であることが判明した。
主役不在のエビスバーからの帰り道、すごろくメンバーに予定を伺ってみた。
私 「みなさん水曜はすごろくやりますか?」
森 「あー水曜?ちときちいな・・・昼?」
私 「13時から。あさちゃんが遊図出勤だってさ。」
森 「・・・勝負だろうがっ!!」
稚児&平沢 「いきます」
およそ8秒でセットが確定した。
*
6月10日 セット当日 昼前
我々4人は新宿に集合してピザ屋へ。


いつものように私と森くんが同時に飯画像をアップしてしまうと、いくらあさちゃんでもこれから突撃することに感づいてしまう。
そこで私はりょうさんのnoteから学んだ技であさちゃんの警戒を解くことにした。

これで彼が我々の来店を警戒することはないだろう。
前回、同じ面子で遊図を訪れたときは、あさちゃんと初対面の稚児さんに先陣を切って入店していただいた。「初来店の方かな?」と思わせてからの「実は森とフィリアの連れでした」というドッキリをプレゼントをした形だ。
これは上げてから落とす構造だったため、私たちへの接客には1ミリも感情がこもらず、全てカタコトの対応になってしまった。
しかし今回は違う。初手は森くんと私のツインバズーカに始まり「はぁ、また森とフィリアかよクソが」と思わせた後、稚児さんがあさちゃんの大好物である「二人静(ににんしずか)」を携えて登場。つまり下げてから上げる構造だ。こうすれば素晴らしい接客になる可能性がある。終わり良ければすべて良しということだ。
森 「でもね稚児さん、二人静はあさじ式スーパー減点法の前では無力なんですよ」
稚児 「というと?」
森 「彼と関わったことない人も含め、彼の中の他人の評価が50だとします。稚児さんもいま50です」
稚児 「うん」
森 「稚児さんが二人静をこれから一生あさじに与え続けたとしても、50から上がることはないんです」
稚児 「そんなことある?」
森 「例えば二人静を持っていかず、ずっと僕らと一緒に遊図で騒いでいたら50から30に下がります。そしてそのあと二人静をプレゼントしても30からは上がらないんですよ」
稚児 「地獄じゃん」
森 「これがあさじ式スーパー減点法の恐ろしさですよ」
森くんの説明したとおり、あさちゃんのスーパー減点法で評価を上げることはかなり難しい。例を挙げるなら川崎競馬で勝ち続けるくらい難易度が高い。
稚児さんはあさじ式スーパー減点法の歴史を変えるため、今回は二人静だけでなく、同じく両口屋是清が発売している「よも山」という和菓子も持参していた。
よも山はまんじゅうのような菓子で、上品な餡子を香ばしい皮で包んでおり、良い触感と適度な甘さがとても美味しく感じられた。


同じ会社が作っているのだから甘さの方向性が近いこともあり、あさちゃんが気に入ってくれる可能性はあるだろう。
そうなれば今までの評価の限界値50を超える可能性は十分ありえる。歴史の転換点に立ち会える瞬間を想像し、期待に胸をふくらませて遊図へと向かった。
*
12時40分 遊図着弾。
勝負だろうがっ………… pic.twitter.com/pDkri2OG3A
— きみ@ (@kimi3906) June 10, 2020
私&森 「ちゃす」
澤田 「あれぇ?みんな今日来る予定だったの?」
あさ 「・・・・・・」
今回は遊図店主の澤田さんにも来店を伏せていた。敵を騙すには味方からである。というより澤田さんは悪意なく口を滑らせ、あさちゃんに我々の来店を知らせてしまう危険があるのでやむを得まい。
あさちゃんはこちらを一瞥し、無言でドリンクサーバーのほうへ向かっていった。ここまでは予定通りに気分が下がっている。そのダウナー接客に気づいた澤田さんが、上司としての指導30%・馬鹿にする気持ち70%の表情であさちゃんに叫ぶ。
澤田 「あさじんくん!お客さまにはちゃんと挨拶しないとダメだよぉ!あと、検温と除菌ジェルもお願いね!」
緊急事態宣言解除以降、麻雀遊図では徹底したウイルス対策を行なっている。
1日のスタートは床の消毒から。
— 麻雀遊図澤田 (@yuzu_sawada) June 5, 2020
薄めた塩素系漂白液でウィルスを殺します。 pic.twitter.com/e0u04p0Voe
SNSを利用していると、間違ったウイルス対策の話がよく流れてくる。強アルカリ性水溶液を軽く薄めた程度で手指の洗浄に用いたり、次亜塩素酸水を加湿器にそのまま入れて散布したり、とにかくネットで少し読んだだけで実行してしまう店舗が後を絶たない。
店舗側が気を付けなければならないのは当然だが、身を守るために我々も一定の知識を身につけないといけないのである。
そんな中で遊図オーナー澤田さんは、自分の店に来てくれたお客さんを正しく守るため、あらためて化学の勉強をした上で対策をしている。
あさちゃんはいくら煽られたストレスでさまざまな体調不良を起こしたとはいえ、そんな素晴らしい上司の元で働けることを誇りに思ってもバチは当たらないだろう。
上司の期待にあさちゃんが応える。
あさ 「ハイ!ワカリマシタ!デハ、シツレイシマス、検温させてイタダキマス」
ひらさわ 「おねがいします」

ピッ
あさ 「ハイ、35.1℃デス!」
澤田 「え?そんな低いことある?」
私 「検温器ってその距離で使うもんなの?」
ひらさわ 「だいぶ遠いです」
澤田 「も~~ほんと困るよぉ!ちゃんとやってよぉ!」
あさ 「アッッ!シツレイシマシタ!」

ピッ
あさ 「エー、36.5℃デス!ハイッ!」
あさ 「ツギ オネガイシマス!」
私 「お願いします」
ピッ
あさ 「36.5℃、ハイッ!じゃ、お前もオッケーな!」
いきなりカタコトが消え、検温器で私の頭をコツコツ叩いて満足していた。私が織田信長だったらあなたクビチョンパですよ。
あさちゃんは森くんの検温も済ませると、最後に稚児さんのほうを見てすぐに声を上げた。
あさ 「ああっ!稚児さんじゃないですか!」
驚くべきことに0.5秒かからず思い出したのだ。やはり二人静のパワーは絶大だったのかもしれない。お菓子を受けとって上機嫌らしいあさちゃんはルンルン気分でセット卓の準備に向かった。
ここで事件が発生する。
案内された卓上には2種類の麻雀牌がキレイにセットされていた。背の色は青と黄色。
あさちゃんはそこに、ゲタに積まれた別の青い背の麻雀牌セットを混ぜてしまったのだ。どちらも背の色が青だったため、これでは見分けがつかない。本人としては卓上の牌が足らないと思い、ゲタの牌を合わせて136枚になると勘違いしてしまったらしい。実際には足すと272枚にもなる。
ちなみにゲタとは麻雀牌を入れる用具のことである。

私が事故を指摘してすぐにあさちゃんも気づき、慌てて何枚かをゲタに戻した。幸い、卓上の牌は角のほうにきちんとセットされていたため、混ぜてしまったゲタ側のほとんどの牌を綺麗に戻すことができていた。
しかし、卓上の青牌を数えてみると134枚しかない。ゲタのほうに2枚持っていってしまったのだ。こうなるとどの2枚が混ざってしまったのか、すべてを表返して足りない牌を確認するしか解決手段はない。
あさ 「あっ!しまった!!た、大変申し訳ございません!」
あさちゃんは精一杯謝ってくれた。普段の無意識な煽りならともかく、これは悪気のないただの事故なので、彼を責める気には全くならなかった。
私 「仕方ないですよ。一緒に牌を探しましょう」
あさ 「 灰 」
あさちゃんがすべての牌を表に返し「じゃ僕はマンズを数えます!」と宣言して1mから集めはじめた。
私は偶然にもパッと見て4pが3枚しか見当たらないことに気づいた。もう一度確認してみても3枚しかない。
長いこと麻雀を打っていると、ゲーム中に3枚、4枚壁を見つける力が自然に鍛えられる。おそらくそれが影響しているのだろう。
私 「あれ?4p3枚しかないよ。足りない2牌のうち1つは4pだね」
彼に解答を伝えると、悪気のない無意識な煽りが返ってきた。
あさ 「なに言ってるんですか、みてわかるわけないでしょ(笑) ほら、ちゃんと数えてください」
私が4p3枚を彼の顔面に押し付けて12pの焼き印をつけようかと悩んでいると、手洗いうがいを済ませた森くんがやってくる。
森 「あれぇ~どうしたの?」
私 「同じ色の麻雀牌セットを混ぜちゃったみたいで、2枚足りないんだよね」
森 「そうなんだ、じゃ数えるか。あれ、中足りないやん」
森くんにも当然同じ能力が備わっている。中を3枚を集め、4mあたりまでコンプリートしていたあさちゃんに見せた。
あさ 「ほ、ほんとですか?でもちゃんと確かめないと・・・」
森 「こっちの牌は少し汚れてるけど、ゲタのほうは新品みたいにキレイやん。ゲタのほうに汚い4pと中があればいいんじゃないんすか?」
あさ 「・・・確かにそうだな」
マンズ集めゲームを途中でぶち壊されたあさちゃんがゲタの牌を探り出す。
あさ 「ああっ、これですかね?4pと中ありました」
3人で力をあわせてアクシデントを解決。雀荘メンバーとして大変すばらしい接客だと言えよう。若干気になる言い方はあったものの完全にペッパーくんを凌駕している。
あさ 「それでは皆様お楽しみください」
森 「あさじさんもガンバってくださいね」
あさ 「ハイ」
*
麻雀遊図にはN森さんというお客さんがいる。
あさちゃんから何度も名前を呼び間違えられており、澤田さんによりツイッターでたびたび語られてきた。正確には呼び間違えられているのではなく、あさちゃんが他のお客さん2,3人のこともみんなまとめてN森さんと呼んでしまっているのである。
彼は、仕事はできる方だが、人の顔や名前を覚えるのだけは苦手だ。
— 麻雀遊図澤田 (@yuzu_sawada) February 11, 2020
「西」がつく全員別名のお客さんが複数いるんだが、全員西森さんって呼んでた。
更に注意深く観察してたら、西がつかない人も西森さんと呼んでた。
店内のほとんどの人が西森さんになっていた。
我々が和気あいあいとすごろくをしていると、立ち番中のあさちゃんに向けてN森さんが冗談を飛ばした。
N森 「いやぁもう9000点しかないよ。あさじんくん代わりに入らない?」
あさ 「・・・・・・」
N森 「・・・・・・?」
あさ 「・・・・・・」
代走ならともかく、半荘の途中でメンバーがお客さんに代わり本走に入るという現象はメンバーマニュアルには存在しない。存在しないはずの事態には対応できるはずがない。
おかしな空気を感じ取った澤田さんがツッコミを入れる。
澤田 「あさじんくん無視はやめようねぇ!無視はいけないことだよ!N森さんは冗談言っただけだから!何か答えないとまずいよねぇ!!」
あさ 「アッ!、スッ!」 「・・・スミマセン!」
アスペッ!!と叫ぶのかと思って冷や冷やした。
N森 「いや、こっちこそいきなりごめんね。サワちゃんはさすが関西人だねぇ、わかってくれて嬉しいよ」
澤田 「とんでもないです」
雀荘メンバーというのは麻雀さえ打てればいいわけではない。お客さんを卓外で楽しませるのも接客の一つだ。
あさちゃんは自身の接客力を他でも通じる、Z〇Oでも通じると宣言していた。

しかし、むしろZ〇Oの店員さんはこういった卓外で楽しませる接客のほうが優れている印象がある。要はコミュニケーション能力が必要で、場を盛り上げる力が求められているわけだ。
静かな接客が好きなお客もいれば、面白いトークで盛り上がりたいお客もいる。いま自分の目の前にいる人がどちらのタイプなのか、いち早く見極めて順応してこそ真の接客力があるといえるのではないだろうか。まあ本当に接客力の高い店員は「自分の接客はどこでも通用する」などと公言しないものだが。
惜しい接客を終わらせたあさちゃんがこちらのすごろくセットにやってくる。
あさ 「すみません、お客様が暑いとのことなのですが、窓を閉めて冷房をつけてもよろしいでしょうか?」
森 「もちろんっす」
店内にいるお客さん全員に訊いてまわったあと、エアコンのスイッチを入れる。ここまでは完璧な仕事だ。
それから数十分ほどしたころ。あさちゃんが再びやってくる。
あさ 「あの、失礼ですが」
森 「なんですか?」
あさ 「エアコンのリモコンいじりました?」
なにか起こるとすぐ人のせい!本当によくないです。
森 「え?いじってないですよ。そっちの卓の上に置いてあるやつ違うの?」
あさ 「アッ!!シツレイシマシタ!」
私 「探す前にいきなり疑うのはまずいっす」
あさ 「 灰 」
ここまで素晴らしい接客だっただけに惜しい失点である。そして彼はさらに失点を続ける。
あさちゃん効果のおかげか、そのあとも数人のお客さん来店されてフリー卓が伸びることになった。4卓しかない遊図では、フリー卓を伸ばすとなるとセット用の2卓のうち1卓を使うことになる。
その卓のサイドテーブルには、森くんの仕事用スーツを入れた袋が置かれていた。そこにあさちゃんがやってきて、フリー開始の準備を始める。
そして森くんの荷物を両手で持ち、軽快にポイッと放り投げた。

少し早めだけど解散、店忙しいし澤田さんにポルージン呼ばれるしめちゃくちゃストレス溜まってそうだったから頑張ってほしい。隣の卓のサイドテーブル動かす時に俺の置いてた荷物床に放りなげられたけどまぁそれは許します
— きみ@ (@kimi3906) June 10, 2020
実をいうと森くんと合流したときの私も(森くんはなぜゴミ袋を持ってきているのだろう?)と思った。それくらいほぼゴミ袋だったので、放り投げたのは良くなかったとはいえゴミ袋と勘違いしたというのは仕方ないところである。森くんがまったく怒らない人柄だったおかげでもめ事などは起こらず事なきを得た。
*
16時00分
私 「それじゃ今日は我々は帰ります」
あさ 「え?もう帰っちゃうんですか?」
私 「今日はみんな予定あるんです。また今度食事いきましょう」
あさ 「 high! 」
今回の下げてから上げる作戦のおかげか、あさちゃんは最後まで素晴らしい接客で対応してくれた。このレベルならZOO平均を上回っていると言っても過言ではない。
その夜。
今日はありがとうございました、食事をご馳走する気持ちはありますのでまた今度行きましょうと取ってつけたような挨拶メッセージをあさちゃんへ送り、私は地道なポイント稼ぎに励む。
それからしばらく経った18日 木曜日。
今度は「24日にすごろくやりませんか?」と送ってみるも、「お金がないからノーレじゃないときつい」という意味不明なやりとりで交渉は決裂。
その当日、あさちゃんの歓喜のツイートが目に入る。

「お金がないからノーレじゃないときつい」という理由を話した数時間後に給料が入った報告ツイート。いつも通りである。
そしてすぐに澤田さんから緊急連絡が入る。
澤田 「ウチの従業員がこれからあさじんくんと新宿でセットやるって言うから、それならウチ使ってよって声かけたんだよ。それで従業員が遊図でやりましょうってメッセージ送ってすぐ返ってきた言葉が『急用ができました。今日のセットは行けません』。これどう思う?僕は血管が破裂してしまいそうです」
あさちゃんは「澤田さんに煽られすぎてガンになったかもしれない」と疑うほどのストレスで体調不良になり、遊図を辞めることを私に相談してきて、その後の診察によって実際は逆流性食道炎だったという経緯がある。
そして澤田さんのほうはあさちゃんの無意識な煽りで血管破裂の危機。人は頻繁に血圧の上下が起こると血管がもろくなり、大動脈瘤ができる可能性が上がる。これが破裂した場合、血管の中の血液がなくなり低血圧ショック状態になり、命を落とす場合がある。
あさちゃんと澤田さんはお互いに助け合いつつも、お互いに命を削っている構図なのである。
結局、セット面子や澤田さんの説得によってあさちゃんは無事遊図へ向かうことを了承した。

最後に「一生奴隷」と自己紹介してこの日を終えた。
(続く)
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