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競馬場の廃人 中編
【 競馬場の廃人 前編 】
第1レースのルックを終えた我々4人は、喫煙所から戻ってきた長い夢と合流し、第2レースのパドックへと向かった。次の馬の様子を見に行くのだ。
平沢 「あさじんさんの今日の軍資金いくらなの?」
あさ 「あの・・・使えるお金は5000円くらいなんですが」
森 「どういうこと?」
私 「5000円は自由に使えるけど、不自由に使えるお金が2万円くらいあるってことだと思う」
森 「あっそうなんすね。まあ当たるから関係ないよ。転がしてきましょ」
あさ 「はい。ところで、長い夢さんはさっきのレースを買ったんですか?」
長い夢 「単勝が当たったけど、2番人気だから大してつかなかったよ。まずは当て癖ってことで」
そう言いながら単勝9番の当たり馬券を見せた。そう、この男も競馬は超純黒なのだ。
あっさじーんさんは「え!?まさか1レース目からもう当てるとは・・・!」と目を丸くしていた。彼の中の信頼度ゲージは3メモリくらいは上がっているだろう。
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*
■第2レース
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あさ 「ここは何をするところなんですか?」
私 「パドックと言って、レース直前の馬の状態を見られるんすよ。汗をかきまくってたら少し疲れてる可能性があるとか、暴れてたら精神状態が悪いとか。要は、馬の体調と精神を見て、レースに悪影響がないかどうか見定めるんです」
あさ 「そういうことなら、僕は動物が好きだから大丈夫です」
そう言い残し、あっさじーんはそそくさとパドック最前列へ歩を進めた。
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長い夢 「ジーンさん、めっちゃ真剣じゃん。馬の声が聞こえるのか?」
私 「彼は動物が好きだから馬の声も聞こえるよ。ちなみに彼の前世は彼のおじいちゃんが飼っていた犬らしいよ」
長い夢 「なんで?」
私 「じーんさんがお爺さんを好きだかららしいよ」
森 「理由ザツすぎでしょ」
雑談をしていると、馬の心を読んだあさじんが戻ってきた。
私 「どうだった?」
あさ 「2と7が良い気がするな。安定してる。」
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2番のピンクペルレ、7番のモンゲージョーカーは1番人気・2番人気の馬だ。
しかし彼はオッズを見たのではなく、本当に馬の挙動だけを見てそう発言していたのだろう。
なぜなら彼に単勝オッズ・複勝オッズなどの数字の意味はわからないからだ。
長い夢 「ジーンさん、1番のアサミンってめっちゃアサジンぽくね?これは流れあるだろ」
長い夢お得意の流れ論だ。意見の最後に「これは流れあるだろ」とつければ誰でもかんたんに使うことができる。
あさ 「そ、そうかぁ長い夢さんが言うなら1も買ってみるか」
私 「6のマグレも良くない?アサジンマグレ」
あさ 「1と2と7で行きます」
私 「え?マグレは?」
いつも通りあさじんは私の意見を完全スルーし、速歩きで馬券を買いに行ってしまった。
パドックでルックを済ませた私は「アサジンマグレ♪」と手を叩きながら彼を追った。
*
私 「結局なに買ったの?」
あさ 「これです」
彼は自信なさげに馬券を見せてくれた。
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普通馬複とは馬連のことだ。選択した二頭が順不同で1・2着になればいい。それぞれのオッズは
1-7 馬連 81.7倍 300円
1-2 馬連 48.2倍 300円
2-7 馬連 3.6倍 300円
となっていた。
この買い方だと2-7の馬連が当たっても1080-900=180円しか儲けが出ない。
儲けるには3.6倍の馬連により大きく賭けると良い。
しかし、まずは当てることが大切だ。彼の当てる喜びが我々の幸せだからだ。
結果。
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森 「やっぱ2は強ええなあ~」
私 「あれ?アサミンは?」
森 「途中で『あ、これ無理だわ』って走るのやめてたよ」
私 「あさみんさん残念だったね」
あさ 「廃」
森 「あさあさのみん」
そこへ長い夢がやってきた。
長い夢 「また当たったわ。単勝だけど」
あさ 「ええっ!!また当たったんですか!?これで二連続じゃないですか?やっぱすごいんだな・・・」
彼の中にある長い夢の信頼度ゲージがぐーんと上がった音がした。
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流れ論でアサミンをゴリ押しした長い夢がアサミンを1ミリも買っていないことには気づいていないようだった。
*
競馬はレースとレースの合間に投票時間が30分ほど設けられており、第2レース終了時には集合してから2時間ほどが経過していた。
小腹が空いた我々は銀だこへ向かった。
森 「あさみんさんもたこ焼きでいいっすか?」
あさ 「%#?%◎&@□(^ω^;)」
森 「いや、もう一文字もわからんて」
私 「魚介類は食べられないんです、だって」
森 「まじで通訳おらんと何にもならんやんw」
あさじんさんは食事のときとトリップするとき以外には口を1cm以上開けないので、人がたくさん集まっている場ではほとんど聞き取ることができない上に、読唇術すら効果がないのだ。
たこ焼きを食べられないあさじんさんは、小走りでクレープを買って戻ってきた。
長い夢 「おっ、ジーンさんのクレープ美味そうじゃん!」
あさ 「ハイ、OCです!」
森 「それいくらなの?」
あさ 「500円ですよ」
森 「いや、なにやってるんですか。それ食うなら500円単勝買えますよ。そういうとこですよ。軍資金少ないなら真面目にぶちこんで行かないと」
あさ 「灰」
自腹でクレープを食べて怒られている40歳を人生で初めて見た。
*
■第3レース
第3レースは8頭立てだ。レース内容は若干荒れ模様となり、7番人気、2番人気、1番人気の着順となった。
あさじんさんはパドックで良いと見た1番ウィードソウル、2番マリガン、7番フェノワールの三連複を購入していた。
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あさ 「はぁ・・・また外れた。みんな当ててるのになんで俺だけ当たらないんだろうか・・・」
長い夢 「いや、今回は荒れたから無理だよ。それにパドックだけでこれ選べるなら大したもんだよ。全部惜しかったじゃん。次いこう次!」
あさ 「そ、そうなんですか。次はもっとがんばります。」
8頭立ての3・5・7着の何が惜しかったのか聞きたかったが、あさじんさんが納得していたようなので、空気を読んで口にしないことにした。
*
■第4レース
第4レースのパドック。
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あさ 「はあ・・・当たんねえよ・・・」
彼は馬のいなくなったパドックで虚空を見つめていた。
第5レースは上位人気が4.9倍、5.4倍、5.5倍、5.8倍とバラけていて、なかなかに難しいレースだ。
私 「あさじんさん~、どの馬が良かった?」
あさ 「悩みますね。あまり差はなかったですが、5の単勝でイキます」
5番のクインズベンチは3番人気の5.5倍だ。悪くない賭け方だろう。
私 「もうこんなのどれが来ても仕方ないですよね。一緒に頑張りましょう!」
あさ 「はい・・・」
*
第4レース開始直前。我々はゴール前に集まり、馬券を見せあっていた。
あさ 「平沢さんは何を買ったんですか?」
平沢 「4のフラットサーブ、複勝にポットベットよ」
複勝とは3着以内に入る馬を当てる買い方で、ローリスク・ローリターンだ。
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複勝2.1倍の馬に5000円を打った平沢先生は、「大井競馬場を、ぶっこわす!」と連呼していた。彼もまたYoutuberとして成功しそうだ。
第4レースがスタートし、あさじんさんの5番は絶好のポジションを取った。
森 「あれ?5番いい感じじゃん。あさじんさん全然あるよこれ」
あさ 「えっ!!本当ですか!?ハァ・・・ハァ・・・!」
あさじんさんの買った5番クインズベンチは中盤で先頭に出て、逃げ切りを目論んでいた。
観客の怒号が飛び交う中、あさじんさんは緊張のせいか拳をつくって身体を硬直させていた。まるでオードリーの春日だ。
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私 「あさじんさん5番来そうじゃん!・・・あれ?馬券クシャクシャだけど大丈夫?」
あさ 「ハァ・・・ハァ・・・!」
もう私の声は届いていなかった。彼のご尊顔を前から見られないのが残念である。
平沢先生が複勝5000円を打った4番は最後の直線で3着に付けており、このまま行けば入賞だ。
平沢 「残せぇー!!残せぇー!!!たのむゥ!残してくれぇー!!」
「残せぇ!」とは最後の直線でその位置のままゴール、もしくは入賞してほしいという意味である。「そのままァ!」も同じ意味だ。
それとは逆に、前の馬を追い抜いてほしいときは「差せぇー!!」と叫ぶのがマナーだ。騎手の名前を叫んでも良い。
結果。
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あさじんさんの買った5番はゴール直前で10番に差されてしまい、クビ差の2着に転落。
平沢先生の4番は3着をギリギリのハナ差でキープし、配当10500円をゲット。プラス5500円だ。
森 「いやぁー5まじで惜しかったわー」
平沢 「大井競馬場を、ぶっこわーす!」
長い夢 「ヒラサワやるなぁ!よっしゃ!切り替えて行こ!あれ?ジーンさんは?」
私 「・・・あれ?そういえばどこへ行ったんだろう?」
硬直していた場所を見ると、すでにあさじんさんはいない。
第1レースのエア馬券を当てて以降、3連続で外したあさじんさんは、我々の前から姿を消してしまった。
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