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初めてできた友達がマルチ商法だったこと

初めてできた友達は、マルチ商法をやっている子だった。

社会人3年目、私は田舎から都会に出てきて昔からの夢を追いかけることにした。
初めての都会に心躍っていた。
しかし、知らない地で知り合いもおらず、少し孤独も感じていた。

「そうだ、友達を作ろう!」

そう思ってマッチングアプリを始めた。
マッチするのは女の子だけに限定して、同性の友達を作ろうと思った。
アプリに登録してすぐに「いいね」が飛んできた。
なっちゃん、という子。
少しメッセージでやり取りして、私たちは会う約束をした。

数日後、カフェで待ち合わせた。
会って話すうちに、私たちは同い年で、しかも2人とも田舎から出てきたという共通点が見つかった。
話が弾んでとにかく嬉しかった。
なっちゃんも大きな夢があって今頑張っていること、
仲のいい友達グループと集まってよくご飯を食べていること。

まさに私の憧れの姿だった。
いい友達ができたと浮かれていた。

後日またなっちゃんから連絡があった。
仲のいい友達を紹介してくれるとのこと。
家に集まってホームパーティをするから来ないかと誘われた。
私は即返事をした。
私も仲間に入れるかも。
元々友達が少ない私は、大勢の友達とワイワイするのは昔からの憧れだったから。

約束の日、招かれたのは、都会の真ん中にある立派なマンションだった。
ドキドキしながら入った。
中には数人の男女となっちゃんがいて、明るく招き入れてもらった。
みんな優しくて明るくて、緊張もすぐにほぐれた。
ホームパーティではご飯もびっくりするくらい美味しかった。

「このマヨネーズは体に優しい成分でできていて・・・」
「この鍋はとにかく使い勝手が良くて・・・」

といろんな話をしてもらった。
私は興味津々で聞いた。

年末の寒い日だったのに、解散した後も嬉しくて心がぽかぽかした。
またみんなで会う約束をして、その日が来るのが待ち遠しかった。

次の週も私はみんなの元に遊びにいった。
その日はご飯を食べる前に、男の人から大事な話があると言われた。
ホワイトボードを出してきて、何やら授業みたいなものが始まった。

現代社会では私たちの健康は脅かされていること。
だからこそ自分でいいものを選んでいかなければならないこと。
特に生きる上で大切な水と空気は綺麗なものを取り入れていかなければならないこと。

私はふむふむと真剣に聞いた。
元々健康には興味があったし、怪しむこともなかった。

なるほど、この浄水器と空気清浄機がいいんだな。
ちょうど引越しのタイミングで欲しいと思っていたし買おうかな。
そう思いながら帰った。

帰宅後、5年間付き合っている彼氏と会った。
仲間ができて嬉しかった私は、都会でいい出会いがあったこと、うまくやっていることを興奮気味に話した。

そして
「○○という空気清浄機を買おうと思っている」
ということを伝えた。
その瞬間、彼氏の目の色が変わった。

「それってマルチだよ。」

「あさちゃん騙されてるよ。」
「お願い、一度ネットで調べてみて。」
「もしこの先マルチをやるっていうんだったらもう付き合えない。」

と言われた。
意味が分からなかった。

マルチ・・・?
マルチってマルチ商法?
学校の授業で名前だけは聞いたことがある。
ネットで検索してみたらいろんな情報が出てきた。
正直悪いことばかり書かれている印象だった。

あの人たちはマルチ商法の人なの・・・?
私は騙されているの?

信じられなかった。
信じたくなかった。
なっちゃんは都会でできた唯一の友達。
その仲間たちもみんな優しいし面白いし、一緒にいて居心地がいい。
私も仲間に入れると思った。

複雑な気持ちになった。
その時ちょうどなっちゃんからまた連絡があった。

「来週またみんなで集まるんだけどあさちゃんもおいでよ!」

どうしよう…
だけど断る理由が思いつかなかった。
私はその後、何度もなっちゃんと仲間たちと会った。

招かれたホームパーティ。
食材や調理家電について毎回詳しく紹介してくれる。
スキンケアとメイクを教えてくれる日もあった。

「この調理家電はすごく万能で私たちはみんな持ってるよ!」
「この化粧水を使ってると肌荒れしにくくて・・・」
「このアイシャドウは肌馴染みが良くて・・・」
「このサプリは食物繊維がとれるからみんな食事の前に飲んでるよ!」

みんな親切なのは間違いない。
だけど、何気ない会話にもだんだん疑心暗鬼になってきた。
そしてだんだん自分も買わざるを得なくなってきた、
とりあえずサプリとプロテインを買った。

大丈夫。
みんな飲んでるし、体にすごくいいらしいから。
そんな思いでいた。

だけど、なんか腑に落ちない。
みんな優しくて明るくて一緒にいて居心地がいい。
仲間ができて嬉しい。
なのに。

私は本当に仲間なの?
本当はただの金づるなんじゃないの?

そんな思いもどこかになった。

なっちゃんからは頻繁に連絡がくる。
毎週ホームパーティに参加した。
みんなで出かけたりもした。
気の置けない仲間になった。
なったつもりだった。
だけど、会うたびに商品の説明をされる。
なんの話をしていても、絶対に商品の話になる。
それがどうしても引っかかった。
家電も、食材も、メイク道具も、サプリも、プロテインも。
もう飽きるくらい説明を聞いた。

ある日、なっちゃんから2人で話したいと連絡が来た。
なっちゃんが私の家に遊びに来た。

「私は○○というグループに所属している。」
「自分が紹介した会員が商品を買うと自分にこれだけお金が入ってくる仕組みになっている」
「私は仕事を辞めて、これ一筋で頑張っていきたい」
「そこであさちゃんも一緒にやらないか?」
「2人で力を合わせればきっと稼げるようになる」

そんな誘いだった。
考えておいてほしい、それだけ言ってなっちゃんは帰って行った。

あれから何度かなっちゃんから連絡がきた。
けど私は一度も返信をしなかった。
SNSもフォローを外した。

普通の友達に、仲間に、なれると思っていた。
そう思っていたのは私だけだった。
なっちゃんが欲しかったのはビジネスパートナー。
仕方ない。
ただ、「友達の目的」が違っただけ。
自分にはそう言い聞かせて無理やり納得した。

あれから数年が経った。
何度かなっちゃんから連絡はきたが、返信はできなかった。
フォローは外したけど、なっちゃんのSNSはたまに覗いた。
仲間たちとホームパーティをしたり、旅行に行ったりしている投稿を見るたびに、少しだけ胸が痛んだ。

LINEはブロックできないでいる。

「私、マルチやめたよ!」

そんな連絡がいつかくるかな、なんて期待している自分がいる。

本音はただただ、普通の友達になりたかった。
でも「普通の友達」ってなんだろう?
とりあえず、仕事や商品やお金のこと抜きで、一緒にご飯を食べたい。
一緒に出かけたい。
たわいもない話をしたい、
それだけ。

いろんなことがあったけど、それでも明るくて、よく気が利いて、優しいなっちゃんのことが今でも大好きなのは変わらない。

切ないけれど、
今は普通の友達にはなれないかもしれない。
きっとなれないから、

どうかどうか私の知らないところで笑っててね。
夢、叶うといいね。
そしていつか「普通の友達」になれた嬉しいな、なんて思いながら今日も過ごしている。


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