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武蔵野美術大学公開講座2019 第一回「0→1を生むアートとデザインの思考を学ぶ!」 レポート

講座90分(前半:スライド、後半:トークタイム)・振り返り30分
稲葉裕美さん・長谷川愛さん

武蔵野美術大学による「デザインとアートの力」をテーマにした、全3回の講座の第1回に参加してきました。長谷川愛さんによるスペキュラティブデザインの事例紹介、デザインによる問題提起と、どうすれば新しい価値・問題提起を発送できるのか?についてのお話を聞いてきました。

めちゃくちゃおもしろかったです…恥ずかしながらスペキュラティブデザインについて初めて知ったのですが、思考の深さと本質的な問題提起の数々に、いかに自分が普段安穏と狭い世界で生きているかあらためて実感しました。普段考える機会がないトピックについて講座中触れ、スペキュラティブデザインについてもっと知りたくなりましたし、自分の視野を広げる活動をしていきたいと改めて思いました。

また、講座と並行してグラレコが作成されていたのですが、クオリティがすごかったです…。(後日公式ページで公開されるとのこと)

以下、講座内容を流れに沿って(可能な限り)書き起こしております。

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講座全体の概要

アート・デザインを産業・社会を統合させていく流れがきている。
BDT(Business・Design・Technology)を統合できる人材を今後増やしていく必要がある。
例えばBusinessに基軸を置く人が、Design、Technologyの分野に領域を広げていけるような人物が今までイノベーションを起こしてきたが、このような人材はなかなか生まれない。教育が必要。

全3回の講座で学ぶことはなにか

発想はどこからくるのか
新しい価値を作る とはなにか
未来の創造的リーダー像とは

今回のテーマ「0→1を生むアートとデザインの思考を学ぶ」

IAMAS、RCAを経て、2014年よりマサチューセッツ工科大学メディアラボのデザイン・フィクション・グループにて研究員を務める。「Expand the Future(未来を拡張する)」というコンセプトのもと、アートやデザインを用いて日常の当たり前に問題提起を行う。その手法はスペキュラティブ・デザイン(Specurative Design)と呼ばれ、未来の起こりうる姿を提示することで、社会に重要な問いを投げかける。科学技術の発展に伴う倫理的課題など、作品が扱う社会的テーマは広範に渡るが、近年はバイオテクノロジーの進歩がもたらす未来の生殖や家族のあり方について問う作品を多く発表している。

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今は、多様な人間がいて、複雑な世界で、テクノロジーのスピードも速く、そして何が起こるかわからない。

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今のデザインは、「ふつう理解されている」範囲のデザインが多いが、そうじゃないものでもいいんじゃないの?という提案

デザインの使われ方が「買わせるため」の浅いものになっていて、そこに問題意識を感じている。デザインで、もっと未来を拡張できるはず。

スペキュラティブ・デザインによる問題提起

たとえば…

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・歯のなかに電話できる装置を仕込めば直接電話できるんじゃないか
・人の顔を借りることができる装置
・嗅覚情報のみでマッチングをする
・ロボットに脇がついていて、ホルモンを分泌させ人を安心させたり集中力を高めたりする
他、多くのデザイン事例について紹介いただきました

バイオやテクノロジーなどの技術と、デザインを掛け合わせることで今まで発想したことがないアイデアをまずプロトタイプ的に実現していく。

スペキュラティブデザインとはなにか?

社会的夢想のための促進剤
創造性、空想製、挑発製を失わない
答えを提示するのではなく、問いを投げかける

そもそも、どんな世界を欲するのか?誰の基準で「良し」を決めるのか?を考えながら「問いを生む」ような作品を作っている。

スペキュラティブデザイン:ジレンマチャート

下図は、上記記事より引用。子供を産みたいという欲求と美味しいものが食べたいという欲求を満たす為に、食べ物として動物を出産してみてはどうか?という議論を提示し、そして如何に可能にするかという方法も示されている。

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スペキュラティブデザイン:Impossible Baby 同性同士で子どもが生まれるとしたら?

文章だけでは、よくわからずふんわり拒否されてしまう可能性のあるアイデア。これを、遺伝子情報を元に子どもの顔をシミュレートし、家族写真を作り出しビジュアル化したら?アート・デザインによってより問題の解像度があがり考えやすくなる。

スペキュラティブデザイン:HUMAN x SHARK

人間とコミュニケーションをとり親密になっていくのも骨が折れるので、いっそ人間以外と親密になっても良いんじゃないか。たとえばサメとか。という発送のもと、サメを誘惑できる香水を作った。

スペキュラティブデザイン:体外配偶子形成

Shared baby

二人の人間からそれぞれ得られた配偶子を利用して受精卵を作成した後に、その受精卵からさらに配偶子を作ることができる。そのように作られた配偶子同士で受精卵を作れば、4人の親を持つ子どもが生まれる

(倫理的な問題はあるものの)遺伝子操作により精子・卵子が作れるようになることで親が複数いる子ども、というのが技術的にはありえるようになる。そのときに人々のライフスタイルはどうなるのか?

スペキュラティブデザイン:Alt-Bias Gun

この銃は「非武装で警察に銃殺された黒人」の過去数年のデータから殺されやすい人を学習判別をし、条件にあった場合は銃の引き金を数秒止めます。

人種差別によるバイアスで、誤って殺されてしまうような事件が後をたたない。「誤解によって殺されやすい人の顔」を識別できる銃を作り出すことによる問題提起。

アートとデザインの違い

デザインは、産業においてはじめのころは「問題解決のみ」を求められてきたが、「スペキュラティブデザイン」においてはアートの領域と考えられてきた「問題提起」までカバーするようになっている。

デザインは産業との関わりで存在・発達してきたもの。
アートは人間の精神に寄り添った表現活動。
スペキュラティブデザインは、これらの中間に位置する。

長谷川さんへ質問

Impossible Babyについて、発表したことで世間でどんな議論が生まれましたか?
テレビで紹介された際に、偶然見てくれた人のコメントが、番組が進むにつれ変わっていくのが見られたのがよかった。ストーリー化したことで共感や意識の変化を生み、考え方が変わっていっていた。
スペキュラティブデザインは、やり方を間違えると、「洗脳」のような形になってしまう。それは避けたかったので、公平さを保つことを意識した。マジョリティ・マイノリティに寄り過ぎない。(その結果、冷たく感じたと言われたことも…)
反響のなかで面白かった意見をいくつか紹介する。

養子を認めない、伝統的な血縁主義に戻ってしまう危険性がある。
結婚・出産なしは同性愛者の特権だったのに、揉め事ができるのは嫌。
欲しい物すべてを技術や金で手に入れる高慢さが気に入らない。
同性間の結婚や出産が一般的になったら、LGBTQが培ってきた多様性需要文化が脅かされるのでは?
現在の「男女」で分ける風潮がどうかと思う
「非論理的」「浅はか」と安易に否定するのは対話が起こらない
将来男は不要になるのでは?
女性が不要になり、ますます男性中心の世界にならないだろうか

などなど…

こういう議論が起こることが、アート・デザインによるビジュアライズの力。難しい用語のみだと漠然としていてわからない・実感が薄いが、作品を見ると深いところに突き刺さる。普通に暮らしていてもこういう考えには至らない。当たり前だと思っていることを掘り返すことで、違う視点が生まれる。

考察のプロセスにおいて、スペキュラティブな思考を作り出していくには?
違和感に気づく力が重要。ただしトレーニング方法が難しい。生徒さんには、SFを多く読むように言っている。今ではタブーとされていることが多く書かれていたりする。1つの大前提が変わることで、多くが変わっていくところと、変わらないところがある。そこを観察していく。多文化に触れているか?が大事。旅に行くとかもいい。自分がマイノリティになる場所に身を置くと、効率がよく気付ける。

なるべく自分から離れているものを見て、その上で自分を観察してみる。いつもルーティンでやっていることが変だった、と気づいたり。

本屋・図書館に行ったときには、興味がなかったところも回ってみる。マニアックな雑誌を見つけたり。どれだけ世界を広げられるか?は大事。毎年1つ新しいアクティビティをする、新しい国に行く、などもおすすめ。新しいことを始めたら、その世界の新しい哲学を知ることができる。

アーティストは快楽主義者が多く、不器用な人も多い。そのぶんいろんな人がいるので、「できないことがあるのが当たり前」で多様性を知ることができる。我慢強さが逆に進歩につながらなかったりする。

イノベーターは「なにかに納得行かない」という思いを抱えている。「そもそもこれじゃなくてもよくない?」という気持ち。

最近は生理用品の議論#NoBagForMeが面白かった。

まずは自分の情熱を探すこと。

発想はどこからくるのか?
自分の悩み、怒り。

新しい価値を作る とはなにか
情熱を探すという話で、へうげもので利休が同じようなことを言っていた。

利休が侘び寂びという新しい価値を作り出した。自分のぐっとくるもの、価値を探す。

未来の創造的リーダー像とは

いろんなところに出て、いろんな人と話をして、自分が弱者になる体験をたくさんすること。

それによって自己の客観化ができる。当たり前、王道だと思っていたことが覆される。価値観がゆらぎ、視野が広まる。

参加者からの質問

普段、気づきがあまりない…
怒っている人の話を聞くといい。

スペキュラティブデザインが社会実装された例はあるのか?
海外である地域の再開発があった。ビルを建てるよりどういうものがあったらいいか?を住民に妄想させるという取り組みがあり、それが実現したという例はある。
スペキュラティブデザインの役割は、みんなに問題提起して考え方を変えることだと思っている。

スペキュラティブデザインのビジネス化は可能なのか?
できるといえばできる。同じ思いを持った人を募り、ビジネス化していくようなアプローチは想定できる。だが、ビジネスは時間がかかるものだし苦手な分野なので、そこを掘り下げるよりは次のプロジェクトに取り掛かりたい。
ビジネス的な成果をはじめから求めると発想が狭まってしまうように思う。フェーズが異なる。

広げすぎた議論はたたまなくてよいのか?
自然と淘汰はされていくが、議論が記録に残っていないと浅いところで無限ループしてしまう。議論ができるようなアーキテクチャが必要。

当たり前を疑うためのパワーはどうすればできる?
基本生きづらさはある。ヨーロッパは「権力を疑う」姿勢が強く、抗ってる人が多い。そういう人たちは大変そうだが、それが彼女ら(彼ら)の生き様。
普通をいきなり疑って、サービスを断つのはとてもむずかしいこと。仕組みに対して懐疑的・批評的な人は多い。

誰がプロジェクトにお金を出している?
だいたい自腹。成果は、海外のキュレーター・アーティスト仲間に褒められると嬉しい。値段だと、PRしたもの勝ちになる。そこに価値が収束されると意味がなくなってしまう。

疑問を持たない人に問を持たせるにはどうしたらいい?
今に満足しているということなので、今立たされている状況を理解してもらうことが大事。
これを掘り下げていくことでプロジェクトになっていく。

入りやすいスペキュラティブデザインを教えて下さい
・自分の痛みを掘る→こうだったらいいのに→社会背景でこういう技術が来たときにこういうことができますよね、というのを140文字くらいでまとめる
・SF小説の短編をまとめる
などがおすすめ

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以上です。すばらしい講座をありがとうございました!
第二回、第三回も参加するので今から非常に楽しみです。

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