武蔵野美術大学公開講座2019 第二回「あたらしい仕事をつくるビジョン力を学ぶ!」 レポート
登壇:稲葉裕美さん(OFFICE HALO代表取締役)、鈴木菜央さん(NPOグリーンズ代表理事/greenz.jp編集長)、ナカムラケンタさん(日本仕事百貨代表/株式会社シゴトヒト代表取締役)
武蔵野美術大学による「デザインとアートの力」をテーマにした、全3回の講座ですが、先週に引き続き第2回に参加してきました。
内容を可能な範囲でレポートしていきます。
ナカムラさんのご活動について
こちらのサービスをはじめたきっかけは、不動産系の会社でかなりハードな(エキサイティングな…)仕事をしていたとき、週6でバーに通っており「ここまで通ってしまうこの店は、めちゃくちゃ魅力的な場所なのではないか?」と気づいた。
では何がそこまで魅力的なのか?考えた時、「人」であると気づいた。そんな魅力的な「人」を集めたら、さらに「良い場所」が生まれるのではないか?と思い至った。
そこから発想したのが、求人系サービス。仕事についての定性的な「良さ」や、「ネガティブなポイント」もわかるようにしたかった。例えば不動産では「内見」が一番大変だが、物件情報にいいところばっかり載せたら内見の予約が増えて、大変な作業が増えてしまう。はじめからネガティブな点を見せたほうが打率が上がる。求人系も、入った後のミスマッチ問題などがあるため、同じように「ネガティブなポイント」を明らかにしたほうが良いと考えた。
そこで作り出したのが「日本仕事百景」。コンセプトとしては読み物と写真がメインで、求人を探している人以外が見ても楽しめる、一見求人サイトとわからないようなデザインになっている。(ランチタイムに見る人が多い)
事例紹介:カフェをオープンした風間さん
はじめは、仕事で挫折し地元に戻り、ニートになったことがきっかけ。近所でバーのアルバイト募集をしていたのでなんとなく応募したところ、採用。店をDIY的に作り上げていくところからはじまった。
ここでの気づき
① 店って手作りできるんだ!
② 店に来るお客さん、面白い人ばっかりだ!地元面白い!
その後、自宅でカフェを開業。試行錯誤しながら増築していったところ、周囲の空き家でも店をやる人が増えていき、また人の縁が縁をよび、別の地域でも展開していくことになった。
面白いか、面白くないかで動いている。
ビジョンを実現していくループ
情報収集→編集→まずやってみる→また情報収集…
プロトタイピング
いかに連続できる環境をつくり、精度を上げるか、が大事
なにかをはじめるときは、
①はじめる人が現れる
②興味を持った人が集まり始める
③ここで、集まった人同士をつなげるのが大事
→場をデザインする
鈴木さんのご活動について
有限な地球の有限な僕は
活かし合う関係性をデザインする
地球という小さなエコシステムの中で遊び、仕事し、暮らしている。
→いかしあうつながり
→関係性のデザインをしている
現在の活動にいたった経緯
幼少期は絵を描いて過ごすことが多く、高校時代に先生に進められ美大へ進学。ただし王道的なデザインやアートにはあまり乗っかれず、もやもやしていた。そんな最中阪神淡路大震災が起き、ボランティアに参加する中で人生観が変わってしまった。
→デザイナーとしてかっこいいものを作り出すのは向いていないので、社会に目を向けて形のないものを作り出すことに興味を持った。
アジア学院で世界が今直面している問題に触れた後、日本に戻りシステムアドミニストレータとして勤務しつつ「どうやったら社会を作り出せるのか?」を考えた結果、「雑誌の編集をしよう!」という結論に至った。
月間ソトコトの編集に数年携わったのち、自身でgreenz.jpを創刊。その後縁があって「ソーシャルデザイン」という名称のもと様々な記事を作り出していった。
しかし仕事に邁進しすぎたためか、幸せのドーナツ化減少が発生。(家族のために頑張っていたはずなのに、家族から別れを切り出されたり時間を全然作れていなかった…) ソーシャルデザインに意識がいきすぎて、自分の人生がデザインできていなかった。活動が自分に還元できるような行動に変えていった。
またソーシャルデザインは、キラキラしている・余裕がある人向けのメディアであるという認識があるということが分かり、あらためてソーシャルデザインについて考えさせられた。
世界的な社会問題として絶滅危惧種の増加、気候変動、プラゴミ問題などいろんな問題があるなかで、今の取り組みを振り返ると敗北感を感じてしまった。
あらためて、「僕らが幸せに生きるデザインはなにか?」を考えた
パーマカルチャーとの出会い
パーマカルチャーの基本になる3つの要素は、
自然のシステムをよく観察し、手を入れる
収穫を得る
無駄を出さない
小さくシンプルなシステムに
伝統的な生活(農業)の知恵を学ぶこと
現代の技術的知識(適正技術)を融合させること
それによって、自然の生態系よりも生産性の高い「耕された生態系(cultivated ecology)」を作り出します。
事例) 太陽光で湖から水を引き上げ、また太陽光の力で温水に変えシャワーを浴びられる
関係性のデザインのチャレンジ
小さく暮らすのが目標。DIYで小屋を作ろうというときに、せっかくなのでみんなでDIYを学ぼう!と思い立ち、興味がある人達を呼んで一緒に作った。その結果、参加した人たちがスキルを得て自分たちでも小屋を作れるようになった。
地域通貨を作ってみている。Facebook上で困りごとの共有をしていて、洗濯機をもらったり、テレビを貸す、困っている人がいたら助け舟を出す。誰かの困りごとが誰かのチャンスになる。
→地域全体の資源がなにか?見えてくる。
NPOグリーンズの組織の作り方としても、関係性のデザインを実践している。MTG開始時にはチェックイン(体調・気分の共有)からはじめる。それをはじめにすることで会議でやることの見通しが立つ(体調の悪い人がいたら早めに切り上げる計画ができたり、インターンの子がいたらはじめに自己紹介からはじめられたりする)
いすみローカル起業プロジェクトとして、集まった人たちで悩み事を話し合ったりグループコーチングを行う。質問するだけでどんどん解決したりする。これを続けることで、すでに12組くらい起業に成功している。
これから
持続可能な社会を誰でもデザインできるメソッドにしたい。
トークセッション
自分ごとの発見の仕方
ビジョンとは、自分ごとの発見が大事とよく言われるが、原点・方向性をどのように見つけていけば良いのか?
鈴木さん
自分とつながること。瞑想で、自分の感覚や呼吸に意識を向けると心が落ち着くようになる。そのうえで自分にインタビューしていく。「結局何やりたいの?」「何を考えているの?」
未来日記を書いてみる。いろんな条件がフリーになったらどんなことをしてみたいのか?そのときに浮かぶにおいや感覚を大事にする。
内なる自分と仲良くなり、しっかり会話し協力関係をつくっていく。
ナカムラさん
恋愛に例えるとわかりやすいと思う。みなさんは初恋の人と、今付き合いたいと思いますか?自分は今となってはもう全く思わないが、それは色んな人と出会う中で考え方が変わっていったということ。
いろんなことを試して、体験することで変わっていくのではないか。方向性を調整し集約していくイメージ。
可能性を常に探って考えている。それが楽しい。いろんなアイデアを見て組み合わせて、可能性を見出す。作ってみて反応を見る。打数が多い分、失敗もいっぱいしている。赤字のサービスもあるが、長期的な目で見ている。
ビジョンの種を見つけるための行動としては、「身軽な状態でいる」こと。すぐに反射的にやれる状態。また、無理やりやるよりは、好きなこと・苦にならないことをやっている方が良いと思う。余裕・余暇を使ってもやりたいようなこと。
自分の好きなことはそこまではっきりしていないし、変わっていくこともある。なので、実際に経験して確認する作業が大事。
稲葉さん
はじめから強固なビジョンを持つ必要はなく、小さな種を実践していって膨らませていくことでよい。
鈴木さん
試していく内容の、ステップを短くすることも大事。例えばカレー屋さんがウケるかどうか、はカレー屋さんを開店する前に試すこともできる。小規模な段階で失敗しておく。はじめから完成させる必要はない。
ナカムラさん
ビジョン力というものがあるとしたら、「自分がそのサービスに対してお金を継続して払えるか?」ということを考えられることは大事。コンセプトを突き詰めすぎて、結果嫌いになってしまうようなこともままある…。
目的は「うまいことやる」のではなく、「誰かが行動する」こと。客観性が考える中で失われていったりする。
鈴木さん
はじめに「読後感」「店を出た後の気持ち」を明確にする。そこにめがけて組み立てるようにすると、迷ったときの道標になる。
また自分が怒っていること、困っていることは強烈な「自分ごと」になる。解決策は、問題の中にすでにある。(別のところから持ってくるものではない)
3つの問いについて
発想はどこからくるのか
→自分を形成しているインプット
ナカムラさん
常に色んな情報を仕入れて、組み合わせたら何が起きるか?考える。
鈴木さん
幅広く大量に摂取すること。ある分野に興味もったらGoogle検索、書籍、動画などあらゆる手段で調べる。子供向けの本から入ると理解しやすくなる。また友人・知り合いの情報は頼りになる。(自分も面白いと思ったことはよく共有している。)
新しい価値をつくるとはなにか
ナカムラさん
狙って作れない。組み合わせた結果、新しい価値になるような場合が多い。打席数を多くすればするほど、新しい価値を作れるチャンスが増える。
鈴木さん
「新しい」価値を作り出す必要はないと思っている。自分が心の底からワクワクすることが出てきた時、仲間がそういうものに出会ったときに結果として価値になる。
未来の創造的リーダー像とは
ナカムラさん
自分で創造するというよりは、関わっている人たちが自ら何かを始められる状況を作り出すこと。ひっぱるというより、ファシリテーション。
はじめは全部自分でやっていたが、何も生まれなかった…。
鈴木さん
弱いリーダーが良いと思う。「これしかできない」「今日は体調が悪い」「なんとなく落ち込んでる」など自ら明かしていくことで、他の人も言いやすくなる。サポートし合える体制が作れる。自分でやらず、やる人と仲間になって、その人を応援する。
稲葉さん
話を聞いていて、お二人は「生きるとは?」「人生とは?」について向き合い突き詰めて考え続けており、可能性を探求し続けていると思った。そこがデザイン力・ビジョン力に結果的につながっているのでは?という印象を受けた。
振り返り・会場の質疑応答
色々やるにあたって、諦め時はどうすればいいのか?
ナカムラさん
こんまりメソッド「心がときめかないものは捨てる」が良いと思う。
鈴木さん
MTGのチェックインで、「やりたくない」ということも気軽に言える環境にできるといい
仲間・人はどうやって集めればいいのか?
ナカムラさん
無理やり集めるのではなく、自分でやり続けるのがいい。自分が楽しそうにやってると、よってきてくれる。人集めのことは考えないくらいのほうが良いと思う。囲い込む、みたいなことはやらないほうがいい。
鈴木さん
選挙キャンプというのをやったことがあるが、いろんなメディアが集まって大変なことになった。ルールとして「心から聞く」「心から話す」というのを設けたら、泣いて変える人が多かった。「普段生活する中で、人に心から話を聞いてもらうことがなかった」ということだった。
意見がすれ違っている人とは、「なにが望みなのか?」4回でも5回でも聞いてみたら本意がわかっていい。妻と険悪になってしまったきっかけとして、「何時に帰ってくるか教えてほしい」と言われていた時、「忙しいから無理だ」と突っぱねてしまっていた。勝手に「早く帰ってきてほしい」のだと思いこんでしまっていた。しかし何が望みなのか、根気強く聞いていくことで「一週間の予定を立てること」が目的だったことがわかった。
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今回の講座では、以下のようなことが個人的に印象に残りました。いろんなことに興味をもってかじってみて、気になったことがあったら、フッと試せるようになっていきたいなーと思いました。(小並感)
・小さくはじめて多く失敗することが鉄則
・やるだけではなく観察・再試行のループをまわす
・ビジョンは好きを突き詰めることが大事
・人同士の関係、場をデザインしていくことでビジョンを広げていくことができる
・気軽さ、身軽さをもって取り組んでみること
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