小説「幼児狩り」 ~昭和に書かれたショタ好き独身女性の生態~
うちには祖父母の代からの蔵書や、かなりの年代物の本もあって
暇なとき気まぐれに引っ張り出して読むことがあります。
先日母の部屋に文房具を借りに行ったら
ベッドの上に「筑摩書房 現代名作集(二)」が開いたまま置いてあり
なぜか「河野多恵子篇 幼児狩り」のページが出ていました。
ホラー風の題名に反応してチラリ読んだら引き込まれてしまい、拝借して自分の部屋に持ち帰りました。
実際はモンスターや連続殺人の話ではなく、アラサーでショタコンの独身女性の生活を描いたディープな小説だったのですが
驚いたのは、最後の(昭和37年1月)の文字。
なんと半世紀以上前に書かれたものだったのです。
にもかかわらず晶子の人間性は、私が日頃ショタ好きの女性としてイメージしている人物像と、あまりにぴったりと合致していました。
私はそのイメージをどこから得たかというと、作家のインタビュー記事やツイッターです。
ツイッターは一度離れた後新しくアカウントを作ったのですが、
以前にもイラスト投稿用のアカウントを持っており、当時千人を超す相互フォロワーがいました。
自分と同じく美少年を描く人たちと優先的に繋がるので
腐女子はもちろんのこと、ショタ好きの女性たちのツイートを目にする機会もたくさんありました。
自分の性癖を画で表現するのみならず、言葉で赤裸々に語る女性も多かった。
そういう人はだいたい日常生活がうかがい知れるツイートもするので、およその事がわかってしまいます。
そこから私の中に、「ショタ好きの女性とは(その中でもある程度の自信をもって堂々と言葉を発する人は)だいたいこんな人たちなのだろうな」という、ひとつの類型が生まれたわけです。
ですが著者の河野多恵子は、ネットもSNSもない時代に、晶子の人物像をどこから手に入れ、どうやって練り上げていったのでしょうか。
その洞察力、観察力には頭が下がるばかりです。
私にはショタに対する特別な執着はありません。
「たまにはショタを描きたいこともある」という程度で
どちらかというと八頭身のイケメンとか筋肉なんかの方が好きですし。
しかし日本はロリコン大国といいますが、ショタ好きの男女もまた一大勢力であり巨大マーケットです。
幼いもの、いたいけなもの、かわいらしいものを是として愛でる文化が強くあると思います。
ショタへの熱狂を、またそれを利用して人気を得ている絵師たちを
絵描きの末端にいる私は、どうしても一歩引いた目で見てしまいます。
そこまで同調できない 乗っかり切れない
幻想に参加できない
微妙に居心地の悪い気持ち。
同時に、ショタ好き女性たちのことを「理解したい」とも思っています。
でもそれは、彼女たちが描く短いマンガや、
ツイッターで好んで発するような言葉を見ていたい ということとは少し違います。
彼女たちが、同好の士に対してだろうと匿名のアカウントだろうと
決して口にしない 書かない(または書けない)部分こそを知りたいのです。
これは、そういった興味をある程度叶えてくれる小説です。
晶子の生い立ちの中に、事件やトラウマなどの明確な答えはありません。
晶子がショタを愛する一方で、3~10歳くらいの女児に対し生理的嫌悪感を持っていること
それは彼女自身が幼少時代に持っていた奇妙な感覚に起因すること
その嫌悪感と、同じ年頃の男の子への愛着は表裏一体であることなどが語られているだけです。
最後の方では、彼女がショタに抱いているサディスティックな幻想や
その一方での、神格化に近い感情も綴られているのですが
このあたりはまったく驚きません。
かつてお姉さま方のツイートで散々目にした程度のものを一歩も超えはしませんから。
ただ困ったことに、晶子はアニメキャラや同人誌が好きなのではありません。
一応文化的な女性ではあるのですが、絵だの文学だので満足するタイプではなく
その視線は常に身近にいる生身のショタに向けられています。
晶子の行動に対し、無防備で疑うことを知らない周囲の人々の描写には胸がざわざわします。
違和感を持つ人がいても「独身で子なしの女性が母性を持て余している」という解釈に落ち着いてしまうことも書かれています。
もし他人の娘にやたら注目して接近してくる男性がいたとして
「独身で子なしの男性が父性を持て余しているのね」などという能天気な解釈で納得する母親がいるでしょうか。
この小説は、晶子の持っている感情が「持て余した母性」などという生易しいものではないことを、最初からはっきりと突きつけてきます。
しかし彼女もまた、まぎれもなくこの社会から誕生した存在の一つであり
異形となり歪みながらもギリギリ踏みとどまり、
彼女なりのやり方で巧みに折り合いをつけているようにも見えるのです。
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幼児狩り 河野多恵子著 現代名作集(二)収録
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イラストbyありしゅ
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