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新・夢十夜(七)




一 尻を掻く


 職場の研修か何かで宿泊をしている。AとBは同室で、近くで寝ていた。Bが次のように言っているという話がどこからか聞こえてきた。「僕もAもお尻が好きなんです。特に僕はお尻を掻くのが好きです。昨夜もAのお尻を掻いてやりました。」僕はお尻を掻いたら気持ちはいいけど、人のお尻を掻くのが気持ちいいなんてわけがわからないなあと思う。そしてAに向かってきっぱりと言う。「俺はそんなこと言われるのは絶対いややな。ちょっと何か言い返してやればいいのに。」僕は自分が職場で誰かに対して自分のことを俺と言い、きつい言い方をしていることを不思議に思っている。

二 無銭飲食


 妻と娘と僕の三人でレストランに来ている。コース料理で、次の料理が出るまでにはかなり時間がかかるようだ。僕たちは部屋に戻って少し休んでいる。僕は服を着たままベッドに横になっていたのだが、どうやら完全に寝てしまったらしい。次の日の朝になっている。妻も寝ている。僕は妻にどうして起こしてくれなかったの、と言っている。次の料理ができたと言ってこなかったの?お金払ってきたの?などと問い質している。お店からは何の連絡もなかったらしい。お金も払っていない。今から続きを食べに行こうか。それともお金払わないで、もうこのままにしておこうか。せっかくおいしいと思っていたのに、こんなことがあると、大した料理ではなかった、と思えてきた。いやでも無銭飲食になるだろうか。向こうから何も言ってこなかったのだから、このまま放っておいても問題ないだろう、などと考えていたら急にお腹が空いてきた。

三 U and I


 中3Uの家庭に電話する。受験に向けての取り組みについて話をする。自宅から自分の携帯電話でかけている。近くには父がいて、僕の話を聞いている。僕もちゃんと仕事をしているのだということを伝えようともしている。電話が切れる。向こうからかかってくる。向こうの電話代になることを気にする。既に僕は教室にいる。Iに向かって今日お母さんと話したよ、と言っている。Uがやって来て「今日うちに電話したやろ」と笑いながら言ってくる。しまった、相手を間違ったと僕は心の中で思う。IとUは親友で同時に入会してきた生徒だ。どちらも5年近く通ってくれている。中学受験では失敗しているから、高校受験では絶対第一志望に合格して欲しい。そんな長い付き合いなのに、どういうわけか話をする相手を間違ってしまった。

四 思い出のレコード


 川原を歩いている。女の子たちがやってきて騒いでいる。「ここ、ここ」と言いながら埋まっていた白い箱を取り出す。中には大量のレコードが入っている。見たことのあるジャケットがある。レッド・ツェッペリン「天国への階段」、ザ・クラッシュ。下の方にはアニメの音楽もある。スーパー・ジェッター、宇宙少年ソラン。僕の方が夢中になってレコードを探す。場所はどこかの部屋に移っている。レコードを片付ける。入れる順番をどうするか女の子に聞く。思い出深いものはなるべく上の方に入れておくけど何かある? 女の子は悩んでいる。

五 スーパーはくと


 7時6分発スーパーはくとで帰省する予定で長男と駅に向かう。途中ふと時計を見るとすでに8時を過ぎている。どうやら8時6分と勘違いをしていたようだ。しかも、それすら遅れそうである。同じ日の指定席はもう取れない。1日出発を遅らせて、駅の近くで泊まることにした。家族でやっているような小さな旅館である。僕たちが部屋でくつろいでいると、廊下をいかつい兄さんが汗だくで上半身裸で歩いていく。えらいところに宿を取ってしまった。

六 イリンクス(眩暈)


 「あの子についてこれからいろいろな施策を打っていくからその記録をつけておくようにしなさい」僕は面倒だなあと思いながら軽く返事をした。部屋に戻るとその子と準備体操を始めた。他に二人の子どもたちも参加する。脱力してその場で繰り返しジャンプする。僕は次第に浮遊感を感じて気持ちよくなる。これがイリンクスなのか、と思っている。遊びの4分類についてその子たちに話をしようかどうしようか迷っている。

七 貧しい青年


 バスの前から2番目の席に座っている。前の紳士が隣にいる青年に聞く「君も次で降りるのかね」「はい」「どこに行くのだね」「えっと、ハインツホテルです」紳士は急に上着を着始めた。バスが停まったらすぐに降りられるようにだ。きっとこんな貧しそうな青年と一緒だと思われたくないのだろう。じゃ僕もとコートを着る。バスを降りると大変な人出で、大通りの信号が青になって渡り終わったときには青年の姿はもう見えない。僕は後ろにいた妻に向かって聞く。「Aは付いてこなかったのか」「あなたがどんどん先に行くからですよ」貧しそうな青年は息子であったのか。

八 結婚・離婚・再婚


 僕は学生時代の友人Мに「仕事はいつまで」と聞く。「次の誕生日までだと思うんだけど、分かんねえんだよね」と言っている。僕は結婚しておらず、サークル活動などで交友関係の多かったМに合コンでもしてもらって価値観の合う女性をそこで見つけたいと思っている。早く結婚したいと思っている。もしうまく行かなかっても、離婚、再婚すればいいとさえ思っている。そこに学生時代、吹奏楽をやっていた女性が僕たちグループに近付いて来て、「マーチングしてたとき見に来てくれてたよね」と話しかけてくる。僕の名前も知ってくれている。僕は相手の女性の顔には見覚えがあるのだが名前は全く知らない。ひょっとすると、僕に好意を持っているのではないかと思う。しかし少し話すと、その女性はどうやら別の男性のことを知りたくて近付いて来たようだ。僕も、その女性は、少し派手なタイプで自分とはきっと合わないだろうと思っている。

九 家事分業


 家事分業について思うところを僕は妻に話している。料理は女性がするとしたら、掃除は男性がしたらいいのではないか。そう決めてしまう必要はないが、それぞれが得意なことをやる方が合理的ではないか。僕はそんなことを熱弁したあと、冷蔵庫の中の棚か何かを外に出して一所懸命拭いている。霜が融けてしまったためか、どれもこれも汚れているというよりビチョビチョに濡れている。その水分を、畳んだ新聞紙か何かで丁寧に拭き取っている。その後、職場の僕よりずいぶん若い上司と一緒にいる。「君は料理が好きなのだから料理をして、僕はキッチン周りの掃除をしよう。」スポンジを持って擦り始めると、とても汚れているところが見つかってしまい、そこの汚れを念入りに落とす。しかし、内心、どうしてこいつの尻拭いをしなければいけないのか、と思っている。

十 夜中にテレビを見る妻


 夜中に起きてトイレに降りると妻が下で毛布にくるまりながらテレビを見ていた。「明日朝早いよ、時間ラインしといたよ」と言うと眠たそうに「うん」と返事をする。僕はベッドに戻って眠る。しばらくして、さっきトイレに入るのを忘れていたことを思い出して、もう一度下に降りる。妻はまだテレビを見ている。

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