【法令が改正されます】不登校児童生徒が欠席中に行った学習の成果の成績評価について
文部科学省から法令改正についての文書が発表されました。
以下、要点をまとめます。
1.不登校児童生徒の現状
近年、日本の教育現場では不登校児童生徒数が急増しており、深刻な問題となっています。令和4年度の調査によると、小・中・高等学校における不登校児童生徒数は約36万人に達し、10年連続で増加しています。特に小・中学校では約29万9千人が不登校状態にあり、過去最多を記録しています。
さらに懸念されるのは、90日以上欠席している児童生徒数や、学校内外で相談・指導等を受けていない児童生徒数も過去最多となっていることです。具体的には、90日以上欠席している児童生徒が約16万6千人、学校内外で相談・指導等を受けていない児童生徒が約11万4千人に上っています。
2.不登校対策「COCOLOプラン」の概要
このような状況を受けて、文部科学省は令和5年3月に「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)」を発表しました。このプランは以下の3つの柱を中心に構成されています:
(1) 不登校の児童生徒全ての学びの場を確保し、学びたいと思った時に学べる環境を整える
(2) 心の小さなSOSを見逃さず、「チーム学校」で支援する
(3) 学校の風土の「見える化」を通じて、学校を「みんなが安心して学べる」場所にする
これらの施策を通じて、不登校により学びにアクセスできない子供たちをゼロにすることを目指しています。
3.法令改正について
不登校児童生徒の学習機会を確保し、その努力を適切に評価するため、文部科学省は法令改正を行うことを決定しました。具体的には、学校教育法施行規則の一部を改正し、義務教育段階の不登校児童生徒について、一定の要件の下で欠席中に行った学習の成果を成績評価に反映できることを規定します。
この改正により、例えば以下のような取り組みが可能になります:
1人1台端末を活用して、教育支援センター等から学校の授業にオンラインで参加している不登校児童生徒の学習成果を成績に反映
学校から届いたプリントや実技教科の作成キット等を自宅や教育支援センターで学習し、その成果を成績に反映
フリースクールでの学習成果を、学校とフリースクールの連携のもとで成績に反映
民間のeラーニング教材を活用した学習成果を、教育支援センターの職員が状況を把握し、学校に情報共有することで成績に反映
4.不登校児童生徒への支援の基本的な考え方
文部科学省は、不登校児童生徒への支援に対する基本的な考え方を以下のように示しています:
(1) 支援の目標
「学校に登校する」という結果のみを目標にするのではなく、児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて、社会的に自立することを目指す。
不登校の時期が休養や自分を見つめ直す等の積極的な意味を持つ可能性を認識しつつ、学業の遅れや進路選択上の不利益、社会的自立へのリスクにも留意する。
(2) 学校教育の意義・役割
義務教育段階の学校は、個人の能力を伸ばし、社会で自立的に生きる基礎を養う重要な役割を担っている。
学校教育の一層の充実を図るための取り組みが重要である。
既存の学校教育になじめない児童生徒については、学校としてどのように受け入れていくかを検討し、なじめない要因の解消に努める必要がある。
(3) 支援の方法
不登校となった要因を的確に把握し、学校関係者や家庭、必要に応じて関係機関が情報共有し、組織的・計画的な支援策を策定する。
社会的自立へ向けて進路の選択肢を広げる支援を行う。
5.具体的な支援策と予算措置
文部科学省は、COCOLOプランの実現に向けて、令和6年度予算として89億円(前年度予算額86円)を計上しています。主な支援策と予算配分は以下の通りです:
(1) 学びの多様化学校の設置促進(2億円)
学びの多様化学校(旧称:不登校特例校)の設置準備や運営支援
教育活動の充実に関する調査研究
廃校や余裕教室等の既存施設を改修して活用する場合の支援
(2) 校内教育支援センター(スペシャルサポートルーム)の設置促進(29億円)
校内教育支援センターの設置促進
学習指導員等の配置充実
(3) 教育支援センターのオンライン体制・アウトリーチ機能の強化(5億円)
教育支援センターのICT環境の整備
総合的拠点機能形成に係る調査研究
(4) 多様な学びの場、居場所の確保
関係機関との連携を支援するコーディネーター等の配置
不登校児童生徒支援協議会等の設置及び教職員研修会等の実施
夜間中学の設置準備・運営支援及び教育活動の充実
高等学校における教育の質確保・多様性への対応に関する調査研究
(5) 1人1台端末を活用した心や体調の変化の早期発見の推進(10億円)
1人1台端末等を活用した「心の健康観察」の全国の学校での導入推進
(6) 「チーム学校」による早期支援の推進(84億円)
スクールカウンセラー(SC)・スクールソーシャルワーカー(SSW)の配置及び重点配置校数の拡充
SC・SSWによる緊急相談支援
(7) 保護者支援
SC・SSWの配置、保護者学習会等の実施を支援
(8) 学校環境の整備
公立小・中学校等の施設整備を行う自治体に対する支援
これらの施策を通じて、文部科学省は不登校児童生徒への支援を強化し、誰一人取り残されない学びの保障を実現することを目指しています。学校、家庭、地域社会、関係機関が連携しながら、個々の児童生徒の状況に応じた多様な支援を提供することが重要です。
また、不登校の予防的な取り組みとして、魅力ある学校づくりや、ICTを活用した柔軟な学習環境の整備、教職員の資質向上なども重視されています。これらの総合的な取り組みにより、不登校児童生徒の社会的自立と健全な成長を支援し、日本の教育システムの質の向上を図ることが期待されています。