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井上真編『躍動するフィールドワーク 研究と実践をつなぐ』

井上真編 『躍動するフィールドワーク 研究と実践をつなぐ』 世界思想社 2006年7月

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お薦め度: ★★★★☆

一口コメント:

フィールドワークに関心のある方、特に国際開発や地域研究の‘実践’面にに関心にある方は必読です^^?

直接、国際協力の現場や、村落開発に役立つハウツーものではありませんが、フィールド、すなわち現場に向き合う心構えみたいなものを若い研究者や実務者が自らの苦労や悩みもさらけ出して読者に語りかけています。

私にとっては、執筆者23名中、直接の知り合いが3名もいるのは、なぜかうれしい(この数が多いのか少ないのかは別にして)。また以前から関心をもっていた井上先生や関良基氏のフィールドにいたる道が読めたのも、うれしかったです。でもまあ、同世代というか私より若い研究者(博士課程)も活躍しているのをみると、いよいよ自分もがんばらねばと思います。

ちなみに井上真氏は、コモンズ論との絡みで2000年ごろから研究動向や著書をウオッチしていました。

森林(資源)管理に個人的に興味を持ったのは、東ティモールの農林水産業開発計画のJICA開発調査に参加したことと、フィリピンでの案件に主体的にかかわりあうようになってからです。

考えてみれば、私の記事のほとんどがフィールドワークからのフィードバックとか気づきがきっかけになって書かれています^^?

内容について、三点ほど。

まず一点目。

今、‘開発(援助)’と‘(文化)人類学’やいわゆる理系の研究者(井上氏は林学が専門)との接点が非常に近くなっており、たとえばアジア経済研究所の佐藤寛氏も、もともとは社会学が専攻の地域研究者(アラビア半島のイエメンが研究の始まり)が、地域研究の対象地(フィールド)が現実に‘開発(事業)’に巻き込まれていくことを体験して、否応なく開発研究の場に眼を向けざるを得なくなったという背景があります。

いわゆる‘学者’の‘研究’から実務者の‘実践’を考えざるを得なくなった、井上氏もご本人も語っているように、‘研究’から‘実践’をつなごうという井上スクールの格闘を語った本でもあるのです。

その意味で、各執筆者の心の葛藤というか気づきの過程が丁寧に書かれていることに、大変共感を覚えました。

第二点目としては、また逆に開発コンサルタントの実務者として物足りないのは、彼らの気づきは、実は、われわれが常日頃の開発援助の現場で日夜考え格闘していることでもあるのです。

わたし自身の反省でもあるのですが、もっと早くから学界との交流を考えればよかった。ともに現場(フィールド)での苦労や経験を分かち合えればよかったと思います。私個人の開発コンサルタントとしての‘フィールド’との格闘については、「歩きながら考える」や「開発民俗学への途」で赤裸々に語っているとおりです。

「‘開発民俗学’への途 <連続講座> (第1部) 完結」 2000年7月15日~2007年4月29日 

「歩きながら考える・・・‘世界’と‘開発’」 2000年3月18日より継続中。 特に1999年から2000年の最初期に書かれた記事を参照。

とはいえ、今でもこの井上氏のような‘学者’はまれですし、私は基本的に、日本の援助関係者という面に限りますが、NGOとODAの中でもJICAの青年海外協力隊と技術協力プロジェクトの専門家と、開発調査や無償資金協力、円借款をいわば‘開発援助のプロ’として実施している「開発コンサルタント」とは似て異なるものだと思っております。

あまりに「開発コンサルタント」の現場からのフィードバックが少なすぎる。個人的には、コンサルタント仲間がブログやHPをもっている例をいくらかは知っていますが、受注業務の、つまり発注者があるなかでの守秘義務によって、肝心のプロジェクトのことは、ほとんど公開することが法的にも倫理的にも‘原則’できません。

ですが、最前線の「開発コンサルタント」を抜きにした開発援助論は、不毛というかかなり限られた議論になりがちです。なんとか、これはあと数年間でなんとかならないものかと私はもう十年近く考えています。

第三点目として、「フィールドワーク」の先にあるものといいますが、その次のステップを考えたいと思います。

例えば、私はといえば、ひそかな望みとして、開発コンサルタントとして‘実践’から‘研究’へ道筋を探ることと同時に有意な実務者やアカデミシャンを育てたいと考えています。
つまり井上氏のいわく「総合格闘技」である「フィールドワーク」の先にあるものとして、「共同・協同作業の場」としての「ワークショップ」を通じた「たまり場・フォーラム」を私は構想しております。 そんな試みが、2000年3月18日にHPを立ち上げた「歩く仲間」の一連の歩みです。

また、ミクシーをやっている方は、「mixi開発民俗学 「地域共生の技法」」もよろしくお願いします。紹介文はこちらを参照ください。

P.S.

この本はいわゆるフィールドワークの教科書ではありません。フィールドワークで感じたことを綴った本です。方法論的なフォローは、基本的に井上氏の「序章 フィールドワークを語り伝える」だけです。

また逆に、氏が紹介している参考書のほとんどは、私もかなり以前に紹介しています。

ご参考までに、「mixi開発民俗学 「地域共生の技法」」に書き込んだ私の文章を以下に転載します。

トピック: 「(現状)認識論」 方法論や着眼点など(リテラシー、フィールドワークなど)」

私は、大学生時代から調査の方法論について非常に関心がありました。1990年代の初めは、やはり学問的にも大きな転換期であったと思います。例えばコンピューターの本格導入、文献サーベイからフィールドサーベイへの調査方法自体の変革などがありました。

特に海外の地域研究において、日本の戦争直後までは文献サーベイが中心であったのが、戦後20年たって1960年後半からようやく日本人研究者の本格的な現地調査が始まった。つまり1955年前後生まれの研究者から実際に海外に留学や現地調査にフィールド調査にでるようになって実証的な調査に取り組めるようになったと考えられます。

1990年代の初めは、それらの本格的に現地調査を行なった人たちは、まだまだ35歳前後でまだまたその研究成果や方法論を語ることが少なかったように思われます。

ここでは、文献中心の調査方法諭とフィールドワークを中心にした方法諭を紹介します。

【リファレンスワーク入門】 1991年11月

【開発学研究入門-基礎理論編】

【民俗学の視点-現状分析の視点】 2000年8月12日 2005年7月3日補筆

個人的な覚書で当然、見落としも多いかと思います。また最近、インターネット時代に対応した新しい調査方法も、調査の分析手法もどんどん発達していると思います。 」

以上、引用おわり。

2008年4月 7日 (月)

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