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進化思考というイノベーション 進化思考 / 太刀川 英輔 読書記録 2

はじめに

「読み・深く考えて・読む」
という作業を繰り返す本に長らく手を伸ばしていなかったので、この書籍が出版されたのを聞いたときに最適な書籍だと思い購入しました。

書籍の内容は期待通りというか、期待以上に深い内容で、ノートを取りながら読み進めて読了するのに1週間以上かかりました。

今までに読んだイノベーションの考え方関連の書籍の中でも特に重く、全てを網羅しているような内容だったので自分の中でも整理したく今回まとめることにしました。

進化思考とは

生物の進化と同じく「変異適応」を繰り返すことで、誰もが創造性を諦めることなく発揮できるようになる思考法
- 書籍カバーより

進化思考と聞いてダーウィンが「種の起源」で唱えている進化論を思い出す方も多いのではと思います。

<種の起源>
1. 変異によるエラー:生物は、遺伝するときに個体の変異を繰り返す
2. 自然選択と適応:自然のふるいによって、適応性の高い個体が残りやすい
3. 形態の進化:世代を繰り返すと、細部まで適応した形態に行き着く
4. 種の分化:住む場所や生存戦略の違いが発生すると、種が分化していく
- P44より

進化思考では「変異」という概念を進化論を参考に、独自の考え方で思考法を体系化していました。

私たちは書籍に記載されていた、間違った発想例をしがちです。

<間違った発想例>
・よく調べれば発想はおのずと生まれる
・ともかく思いつきを書くのが発想法だ
・今までと異なる意見はすぐ是正すべき
・アイデアはクオリティとは関係がない
- P58より

今後新しい何かを考える上で、進化思考の考え方が参考になることは間違いないと思いますので、この機会にまとめていきたいと思います。

創造について

言語によって発現した「擬似進化」の能力であると書籍では書かれています。

また、私の好きなアドラー心理学の書籍では「人類の身体的劣等性に対する補償」という表現をされており、ニュアンスとして近い部分があるのではと思ったのでこちらに記載しておきます。

以降のまとめ方

書籍の中で重要な概念である「変異」と「適応」についてまずまとめた後に、感想を記載していきます。

それぞれの項目に書籍のページ数をできる限り載せているので、すでに読了された方もまだ購入していない方もページ数を参考に読んでいただければと思います。

変異という概念

私たちは身の回りにあるものを当然だと思ってしまいますが、完璧なものは存在しないといいます。

例えば、エジソンは京都の竹の繊維をフィラメントに採用しましたが、現在はLEDが当たり前のように利用されています。

本当に創造的な人は、より良い方法があれば自分のアイデアを即座に捨て去り、他社のアイデアであっても躊躇なく採用する。
- P72より

「生物の進化から見つけた9つの創造的変異のパターン」について下記にまとめていきます。

1. 変量 P90
異常な量的な変異を発生させることで、有効な偶発は生まれる。

例)
椅子を長くするとベンチ、iPhoneを大きくするとiPad、スピーカーを小さくするとヘッドフォン

2. 擬態 P104
学ぶことは真似ること。別の形態に学び、宿すことは、理由そのものを獲得することができる。

例)
手紙→Eメール、電話→iPhone
- 当たり前のものに擬態することで、違和感なく文化に溶け込んだ
- P105  真似:特徴を抽出して再現すること

3. 欠失 P118
脳の性質として、欠失はつきもの。何かをなくすこと=生き方の哲学

例)
羽のない扇風機、馬のいない馬車→車

4. 増殖 P128
言語の性質上発生しやすい。増殖する時には、共通のルールが必要。

例)
トランプ、鎖、図書館

5. 転移 P142
場所が変わると意味が変わる。別の場所に移す勇気を持つ人だけに、新しい創造に出会う幸運は降りてくる。

例)
口に入れたブラシ→歯ブラシ、腕の中にある時計→腕時計、子どもの職業体験→キッザニア
- モノ・ヒト・場所の転移

6. 交換 P156
言語特有のエラー。言語もモノも交換可能性を前提としている。

例)
お金
- 物理的・意味的・概念的な交換

7. 分離 P164
概念の膜に包まれている。分離可能性は、純度を高めることにもつながり、代謝を促す。

例)
リサイクル、弁当箱、スイッチ、ジッパー

8. 逆転 P176
反対の意味の言葉のセット。常識の逆からの発想。

例)
自撮り・ビデオ通話、潜水艦、相対性理論
- 物理的・意味的・関係的な発想

9. 融合 P190
言葉に備わっている足算的性質。足しても尚、シンプルな状態を保つ工夫が必要。

例)
スマートフォン

適応という概念

動物行動学を確立したニコ・ティンバーゲンからヒントを得た考え方。

1. 解剖:理解 P216
内部に秘められた機能や作られ方を理解し、モノが備えている可能性を発見すること。

形態を解剖して、内部の構成要素を理解する。
生理を解剖して、要素間の関係性を理解する。
発生を解剖して、本来の特性を理解する。

2. 系統:敬意 P260
そのものがどんな経緯を辿って、どう進化を遂げてきたのか。

進化図を描き、過去からどう影響を受けたのか探る。
分類学で、現在の事象を収集する。
系統学で、過去からの流れを理解し、進化図を描く。

- 電気自動車の特許は1835年だったが、実際に使われ始めたのは最近になってから。技術が追いついたときに初めて実現される。

3. 生態:共感 P302
動物行動学で生態系を俯瞰する方法によって、人やモノとの関係性を探り、マクロなシステムとしての構造を発見する。

生態系で人や自然の関係を確認する。
5W1Hを使って、繋がりを理解する。
生態系マップを使って、普段あまり意識しない繋がりに目を向ける。
複雑系で、繋がりの法則性を理解する。

※ 複雑系
P364
1967年 心理学者スタンレー・ミルグラム 「スモールワールド実験」 見ず知らずの人にボストンに住む友人に転送してほしいと依頼したら、平均6回で届いた。

P367
規則的なグラフの中にランダムさを少しだけ加えたグラフでは、全体の本数は変わらないのに、遠いところまでの繋がりの経由回数が、七分の一近くまで激減していた。

P368
人の幸福度に関係するのは、友達の人数よりも友達の種類の多さだと証明されているという。その理由は、越境的な繋がりによってスモールワールドをつくり、広い世界にアクセスできるからかもしれない。
- P372 If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together. - アフリカの諺

P383 2013年 Bye Bye Plastic Bags 運動@インドネシア
10才と12才の姉妹が2人で始めたプロジェクト。レジ袋をなくすことをクラスメイトを巻き込んで始めた。オリジナルのエコバッグやステッカーを作り、親世代を仲間にしていくうちに島全体を巻き込むムーブメントになった。

2015年にバリ島の州知事は、2018年までにプラスチックバッグを撤廃すると公約し、そのニュースが全世界へ流れた。

2020年からプラスチックのカップやストローの使用を禁止する法律 @フランス

4. 予測:希望 P392
データから導きだすフォアキャストと未来にゴールを設定するバックキャストによって、未来を現実に近づける。

未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ
ーアラン・ケイ(パーソナル・コンピューターの父) 
- P420より

創造性の五原則

9つの変異と4つの適応を常に意識して考えるのは訓練が必要なため、創造性の五原則という形でまとめてくれている。

変異:明確で非常識な挑戦を繰り返したか
解剖:シンプルで無駄がなく揺るぎないか
系統:過去からの願いを引き受けているか
生態:人や自然の間に美しい関係を築くか
予測:現在を触発し未来に希望を与えるか
- P449より

何か物事を考えるときはこれを常に意識していきたい。

具体例

書籍の中で紹介されていた9つの変異の具体例。私の中で感動したポイントの一つなのでこちらにもざっと載せたい。

変量:10秒授業。極めて短い時間でどれだけの内容を相手に教えられるか
擬態:落書きテスト。答案用紙の落書きの芸術点をテストに加算
欠失:先生ごっこ。先生がいなくなり、生徒が教える
増殖:世界ゲーム模試。授業が全世界でつながり、ゲームバトル
転移:アルバイト社会科。バイトで現場の人から社会を学ぶ
交換:先生と「信長の野望」
分離:サイコロ時間割。授業の時間割をサイコロで決める
逆転:ガリ勉ゲーム。クラスで競争して英語版のRPGをクリアする
融合:ドッジボール英単語。投げた人が英単語、受けた人が日本語を答える
- P465より

感想

変異はとにかく数を増やすことが大切だといいます。そして偶発性を高め、先鋭的に突き抜けることを著者も奨励していました。

「仕事は楽しいかね?」についての読書メモも書きましたが、とにかく試していくことが重要なんだと改めて認識しました。

最後に載せた具体例は、9つの変異を利用してアイデアを考える方法を明瞭に伝えていて感動しました。(特に個人的に教育のあり方について変えたいなと思う部分があったので一際感動でした)

進化思考は自分のものにして、物事を考えるときに使えるようになってやっと意味があるものですので、「難しい書籍を読み切れて満足」で終わることなく、しっかりと自分のものにしていきたいです。

その他

面白かった記事note:https://note.com/haru_yk_16/n/n8f32e609440b

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MANOEL M. PEREIRA VALIDO FILHO MVALIDOによるPixabayからの画像

書籍

進化思考――生き残るコンセプトをつくる「変異と適応」

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