いつか、また。
今年ももう少しであの日がやってくる。
僕の人生のなかで唯一、親友と呼べるシンヤがいなくなった日。
もう12年。
12年が経つというのに僕は、彼がいなくなってしまったことを納得はしていない。
それはあまりにも突然のことだったし、アイツがついた嘘も許すことができなかったからだ。
その日はとても暑かった。
確か、10:00頃だった。
携帯にシンヤからの着信があった。
作業中で手が離せなかったのと、割と頻繁に連絡はとっていたので、たいした用事じゃないだろうとスルーしてしまった。この仕事が終わってからでいいや。 と。
そして、作業に集中できないことを理由に僕は、携帯を車に置いてしまう。
作業が終わり、お客さんに挨拶をして車に戻るとシンヤからの着信履歴が何十回も残っていた。
リダイヤルすると、直ぐに繋がった。
「もしもし、どーした?」
そんなことを言ったと思う。
「シンヤが死んじゃった。」
シンヤの彼女の声だった。
「シンヤが死んじゃった。」
その後、何を話し、何を聞いたのか全く記憶がない。
まるで、時間が止まってしまったようだった。
いや、本当に止まっていたのかもしれない。
だって、実際シンヤ自身と、シンヤのいた世界は止まってしまったんだから。
シンヤと出会ったのは、小学校に入学した当初だった。気がついたときには友達になっていた。
なぜだか彼とは気が合った。
彼も僕も人見知りで、一緒にいてもあまり話すこともなかったのに。
それでも僕らは、長い時間一緒にいた。
僕は彼のことが好きだったし、彼も僕のことを好いてくれていたんだと思う。
中学に上がっても、変わることはなかった。
まあ、ケンカすることも増えたけれど。
僕らは二人とも品行方正なタイプではなかったから、
ケンカになるとどちらも怪我をした。ある時、彼に殴られて鼻の骨を折ったこともあるぐらい。
出血が多過ぎて、輸血しながら手術するぐらいの割と大きい怪我だった。
それまでは、ケンカをしてもお互い謝るということはしなかった。
そうしなくても、次に会う時にはケロッとしていたんだ。二人とも。
だけれど、その時だけは違った。
母親と一緒に僕の家まで謝りにきたんだ。
僕も僕の両親も、シンヤを責めることはなかった。もちろんおばさん(母親)のことも。
だって、たまたまそうなってしまっただけなんだから。
でも、シンヤ達は違った。
「ごめんなさい。」
そう言いながら、その場で土下座をしたんだ。
すごく苦しかった。
おばさんの姿を見るのも、シンヤの顔を見るのも。
「おばさん。こんなの大丈夫だよ。」
僕に言えるのはそれだけだった。
中学を卒業すると、二人は別々の進路を進んだ。
僕は高校へ、シンヤは高校へは行かずに、建築会社で働き始める。
段々と連絡することも少なくなり、しばらくして、全くの音信不通になった。
僕はぼくで なにかあったら連絡がくるだろう。 ぐらいに思っていたし、彼もきっと同じだったろうと思う。
20歳になった頃、実家から連絡があった。久しぶりにシンヤが立ち寄ったらしく、僕の母親はなんだか嬉しそうだった。もちろん、僕も嬉しかった。
だけれど、所謂『天然』なウチの母親はシンヤの連絡先を聞かなかったらしい。なにやってんだよ、、、、
「でも、アイツは律儀なやつだから、また近いうちに来るよ。もし来たら、その場で連絡してよ。」
あまり細かいことは覚えていないけれど、確かそんなことを伝えて通話を終えた。
それから1ヶ月もしないうちに実家の番号から連絡がきた。シンヤだ。あまりにも久しぶりだったから、緊張して何を話せばいいか分からず、久しぶり。とか、どこに住んでるんだ。とか、そんな他愛もない会話をするだけだったけど、最後にシンヤの携帯番号を聞くのは忘れなかった。
それからは、1週間に1度は連絡を取り合うようになり、お互いの都合が合えば飲みに行くようになった。
長い間離れていた距離は直ぐに埋まった。
仕事の事や、好きな女の子の事、シンヤと僕はなんでも話した。お互い隠し事はなかったハズだ。
少なくとも僕にはなかった。
僕らはアホのように飲んだ。
そんなことを10年ほどやっていた訳だけれど、ある時からシンヤからの着信が少なくなり、会う回数も減っていった。会ったとしても、シンヤはあまり飲まないようになってしまったんだ。
僕が「調子悪いのか?」と聞いても
「そんなことねーよ。」とか、「腹が苦しい。」
そんなことしか言わなかった。
また会わなくなった。
電話で話すことはあったけれど、シンヤからは元気を感じられなかった。
「お前、どこか悪いんじゃないの?」
「ちょっと肝臓がな。」
「マジか。それって良くなるの?」
「なるんじゃねーか?」
何故、その時気づかなかったんだろう。
それは、シンヤとの最後の会話になってしまった。
シンヤからの着信はないし、僕からかけても繋がらない。
それから1ヶ月も経たない頃
シンヤはいなくなった。
癌が進行していたらしい。
そして、最後は敗血症性ショックを起こしてしまった。
漠然とだけど、シンヤとはじいさんになっても一緒にいるんだろうなと思っていた。
もっと話しがしたかったよ。シンヤ
それから、毎年9月になるとシンヤの墓参りに行っている。
去年、墓参りに行くとそこにはシンヤの母親がいた。
鼻骨骨折の事件以来、シンヤの葬式以外では顔を合わせたことはなかったのに、彼女は僕に気づいてくれた。
「あら、今年も来てくれたのね。ありがとう。」
僕が毎年来ていることまで知っていた。
「お久しぶりです。もう11年も経つんですね。僕もだいぶおじさんになっちゃいました。」
350mlの缶ビールを墓前に供えながら
「おばさん、ちょっと待ってて。」
そう言って、寺の前にあるコンビニへ走った。
乾杯しようと持ってきたビールは2本しかなかったから。
「おばさん、乾杯しよう。」
ビールを手渡すと、おばさんは笑いながら泣いていた。
「そんな顔してないで、乾杯しよう。」
シンヤの分もプルトップを開けて、3人で乾杯をした。
おばさんの住所と連絡先を聞き、
「これからはここに来る前に連絡するから一緒に来ましょう。シンヤもまたな。」
そう言って、寺を後にした。
おい。シンヤ
よく聞けよ。
まだ、だいぶ先のことだけど、
そっちに行ったら1発殴らせろ。
ホントのこと言わなかった罰だ。
それから、
たんまり酒持ってくから
また乾杯しよう。
じゃあ、またな。