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マデイラ島の伝説 3

「恋の病ってやつだね」
「それに加えて、ドーリーってひとは、人一倍多感な女性だったんでしょうね。ロバートの方も、彼女に劣らず情の深い男性だったみたいで、友人たちは見かねて一計を案じた」
「それで誘拐ってことになったんだ? で、ロバートも脱獄させたとか?」
「いいえ。彼女の結婚式がつつがなく終わった後、ドーリーの親族たちはロバートを釈放させてたの。そこで、友人たちは彼とともにブリストルへと馬を走らせた。そうしてロバートは浜辺で小舟の用意をして待つようにと言いおいて、新婚夫婦が乗馬をしている公園へと、馬に拍車をかけて全速力で走っていった」
「そこで花嫁略奪となったわけだ」
「ええ、あっさりとね。彼らは意気揚々と浜辺まで行ってロバートと合流して、彼が抑えていた小舟に乗って沖合へと出て行った。二人はフランスに逃げ延びて、そこでひそかに暮らすつもりだったのね。ところがところが、リザード岬沖合にやってきたとき嵐がやってきて、その後十三日間も吹き荒れた暴風のせいで、舟は進路を大きく外れてしまった」
「十三日か…。それじゃ、小舟が自力で引き返せる見込みはなかったろうね」
「そうなの。だから、ドーリーは喜びと安堵の絶頂から深い絶望の淵へと沈んでしまったのね。でも、十四日目には暴風雨も止んで、夜明けごろ一行は前方に鬱蒼と木々の生い茂る陸地を見つけた。そうして、日の出とともに島に上陸した」
「そこには堂々たる木々が生い茂り、その周りを小鳥たちが歌いながら飛び回り、甘美なフルーツが生り、愛らしい花々が咲き誇り、清く澄み渡った水がたっぷりとあった。だろ?」クリストバルは納得顔でうなずいて見せる。「つまり、ほかならぬこの島だ」
「うん、その通り。一行は、穏やかな谷の中の花の咲く牧草地に野営地を設営して、三日の間、海岸を散策したり、親し気に近寄ってくる鳥たちや動物たちと遊んですごした」
「ところが、一難去ってまた一難?」
「そうなの。次の日にはまた嵐がやってきて、夜通し島の上を吹き荒れた。 そして朝になって、彼らは自分たちの舟がきえてしまっていることに気づいた。彼らの絶望も極限に達した。しかも、それに追い打ちをかけるように、可哀そうにドーリーは恐怖と悔いに襲われ、その心労ゆえに三日後に死んでしまったの」
「いやにあっさりと死んじゃうんだな」ついそう行ってしまった彼は、フェリパの非難の視線にたじろぐ。「いや、ごめん、ごめん。話を続けて」
「一同は、大きく枝を張った巨木の下に彼女を埋葬した。一方、そこまで勇気を振り絞って彼女を護ってきたロバートは、不幸のあまり石化したようになってしまった。後悔と悲しみの荒廃が彼を圧しつぶしたのね、彼女の死の瞬間から彼はほとんど何も食べず口も利かなくなった。そして五日後、彼も傷心にさいなまれながら死んでしまった。 遺された友人たちは、ドーリーの傍らにロバートを合葬した。そしてその上に木製の十字架を立てて、いつか島に来るかもしれないクリスチャンが救世主イエスの礼拝堂を建設することを祈ったの」

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ジーン大門
映像プロモーションの原作として連載中。映画・アニメの他、漫画化ご希望の方はご連絡ください。参考画像ファイル集あり。なお、本小説は、大航海時代の歴史資料(日・英・西・伊・蘭・葡・仏など各国語)に基づきつつ、独自の資料解釈や新仮説も採用しています。