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YAU × サッポロ・パラレル・ミュージアム エクスチェンジプログラム

有楽町ビル10FのYAU STUDIOを拠点にYAUの活動が始動してから、YAUはアーティストによる展示やワークショップ・トーク、またリサーチの場としてさまざまな場所の可能性とあり方を探求してきた。

他方、YAU STUDIOと有楽町という場所の空間性をさらに広げることができないかと模索し、別の場所で行われているアートイベントやプロジェクトとの協働に関心が高まって、札幌の中心街で展開されている「サッポロ・パラレル・ミュージアム」と初めてエクスチェンジプログラムを実施した。
YAUとサッポロ・パラレル・ミュージアムによる協働の芽生えに立ち会ったアーティストと、それぞれのアートマネージャーがレポートする。

写真=サッポロ・パラレル・ミュージアム、Tokyo Tender Table


サッポロ・パラレル・ミュージアムは、札幌駅前通のまちなかとウェブサイト上の2ヶ所同時でアート作品を楽しめる展覧会で、新型コロナウイルスの流行で減少したまちの回遊性を高めるとともに、世界中どこからでもアクセス可能な展覧会として、2021年に誕生した。

Sapporo Parallel Museum2021作品 / 玉山拓郎「Basket Case」 / 札幌第一ビル(4F)

主催の札幌駅前通地区活性化委員会(事務局:札幌駅前通まちづくり株式会社)は、この地区に働き、集うみなさんが快適に、楽しく過ごせるようさまざまな取組みを行っている。にぎわい創出の手法検討と実施を目的に、駅前通沿道企業や札幌市などが参加して設立され、札幌駅前通地区の魅力・地域価値向上を目的に運営されている団体だ。
こうした取り組みは、都市とアートについて関係を探るYAUのDNAにも似たところがある。

サッポロ・パラレル・ミュージアム2023 会場マップ

2021年の初回から2回目となる「サッポロ・パラレル・ミュージアム2023」は、2023年2月4日(土)〜12日(日)の9日間にわたり、6会場・アーティスト5名を迎え札幌で開催された。

今回初の試みとして、エリアマネジメント団体としての繋がりからYAUと協働して、それぞれが推薦したアーティストによる作品をそれぞれの場所で展示するエクスチェンジプログラムと、YAUでのトークイベントが実現した。

SO+丸尾隆一 作品展示の様子 / 札幌駅前通地下歩行空間

エクスチェンジプログラムの反応

文=柴田未江(札幌駅前通まちづくり株式会社 経営・企画グループ)

今回、YAUから推薦したアーティストのSO+丸尾隆一による作品《SO: Urbanism Ambience》と《Maruo: Landscape for 2 buildings at Yurakucho》を設置した場所は、北海道・札幌屈指のオフィス街であり、モニターに映し出された映像をみた来街者は、足を止め、映像に見入っている様子が多く見受けられた。地元で店を営む方は「これは札幌の風景なのかと思った」という話も聞き、有楽町の姿を札幌のそれと錯覚した方も多かったようだ。

札幌のまちは、1972年アジア初の冬季五輪が開催されてから約50年が経過し、札幌駅前通とその周辺では、建て替えラッシュが続いている。有楽町で撮影された風景がまさにシンクロするような札幌のまちで、SO+丸尾隆一による作品を展示できたことは、偶然であって必然のような感覚でもあった。また、この作品が設置された札幌駅前通地下歩行空間(通称:チ・カ・ホ)は、1日に約12万人が行き交う空間だ。

沼田侑香「Imaginary farm」/ 札幌駅前通地下歩行空間

さらに、展示期間は、札幌にとって大規模なイベントである「さっぽろ雪まつり」と同時期であったため、市民だけではなく国内外から旅行者も訪れていた。

ビジネスマン、スーツケースを運ぶ旅行者の家族、授業から帰る学生。様々な人の雑踏が交わる中、SO+丸尾隆一の都市音響が映像とともにチ・カ・ホで発信され、作品を鑑賞した方々に共鳴した。

YAUとの連携で生まれたパラレルの可能性

文=赤坂文音(札幌駅前通まちづくり株式会社 経営・企画グループ)

今回、サッポロ・パラレル・ミュージアムとして初の試みとなる他都市との連携ができたことで、事業におけるまちづくりとアートの役割をどちらも高めることができたと感じている。

YAU STUDIOでの展示最終日には、トークイベント「YAU × サッポロ・パラレル・ミュージアム 〜札幌と有楽町でのアートプロジェクト連携の可能性」が行われた

作品展示のほかYAU STUDIOでの展示最終日にはトークイベントも企画され、そこでは単にアーティストが作品について話す形態ではなく、時に苦労話を交えた企画運営側からの話も紹介されたのが印象的だった。都市空間で作品を展示するという同じミッションと課題を共有し、立役者としてプロジェクトに関わる者同士の交流も、こうしたエクスチェンジプログラムならではの体験だった。

サッポロ・パラレル・ミュージアムは、リアル空間とウェブサイト上の2会場で楽しむことのできる展覧会としてコロナ禍に生まれた企画だが、札幌会場を離れ、有楽町のYAU STUDIOで展示を実現できたことで、リアル空間とウェブサイト上だけではない、「パラレル」という言葉の枠組みを広げることができたのではないだろうか。まちなかでの作品展示・ウェブサイト会場の在り方、どちらも時代に合わせて進化させていきたい。

参加アーティストより、東京と札幌での展示を終えて

文=大橋鉄郎(YAU × サッポロ・パラレル・ミュージアム エクスチェンジプログラム参加アーティスト)

大橋鉄郎「リプロダクトチェア」 / テラス計画

2022年末、偶然にもYAU STUDIOで展示されていた作品を鑑賞する機会があった。有楽町ビル内にあったオフィスをそのままに作品展示の場としているYAU STUDIOの空間がとても面白く、印象的だったのを覚えている。

大橋鉄郎 作品展示の様子 / YAU STUDIO

サッポロ・パラレル・ミュージアムとの連携としてYAUのエントランスに作品を展示する機会に繋がり、エントランスから入って廊下の角を曲がると作品が目の前に現れる面白さを活かす展示構成とした。

大橋鉄郎 作品展示の様子 / YAU STUDIO
大橋鉄郎 作品展示の様子 / YAU STUDIO

札幌では商業施設内のアートスペースで展示を行い、商業施設は建物自体が公共の空間であるため、半ば公共的なエントランスから中に続く空間のYAU STUDIOとはまた違った性格になったと感じた。これらの異なる会場で展示することで、作品が公共空間でどのように受け入れられるかについて、多くの学びを得ることができた。

YAUとサッポロ・パラレル・ミュージアムのこれから −まちにグラデーションを作るマネージメントの重要性−

文=今村育子(アーティスト、札幌駅前通まちづくり株式会社 経営・企画グループ)

サッポロ・パラレル・ミュージアムは、札幌駅前通の空きスペースに現代アートの領域で制作された作品展示を行うプロジェクトで、官民が連携してメディアアーツ都市・札幌(2013年ユネスコ創造都市ネットワーク加盟)の発信と、まちの魅力と回遊性を高めることを目的として実施している。

山本雄基+巴山竜来「organism」 / ヒューリック札幌建替計画(仮囲い)

現代美術館のない札幌のまちなかのパブリックスペースに、アートと出会う場をつくり、その場の特性を背景に、つまりサイトスペシフィックに展開することは、作品と設置場所のどちらが欠けても成立しない。さまざまな人の知恵と協力によって状況が作られているのだ。それは、企画者・鑑賞者ともに多様な視点を獲得する機会となり、わたしたちの暮らす環境に寛容さを取り込むきっかけにもなるが、異なるものを混ぜ合わせるためにはマネージメントが欠かせない。

わたしたちまちづくり会社は、さまざまな専門家とまちの人を繋ぐことで、まちに多様なグラデーションを作る役割を担っており、その点においてYAUの取り組みも似ていると考えている。

山下拓也「The Woodcuts from the bedroom」 / 大丸札幌店(6F)

今後の連携として、活動のキーとなるマネージメントのプロセスや課題、人材育成のノウハウを共有し、プロジェクトの円滑な進行と継続に繋げていくことが重要ではないだろうか。また、今回のエクスチェンジプログラムは都市を跨いだ交流となり、アーティストに新たな活動の機会を提供することができると同時に、関係者にとっても異なる文化をシェアすることができる貴重な機会となった。今後も継続を期待したい。

周辺を見渡しても「アートとまちづくり」をキーワードにしたエリアマネジメントの取り組みはまだ少ないため、連携して活動を発信し、全国に広がるようネットワークを構築していきたい。

Sapporo Parallel Museum2021作品 / 加納俊輔「Pink Shadow(Sapporo 2021)」 / ヒューリック札幌 仮囲い

まちと私、アートの関わりに接続点を増やしたい

文=山本さくら(YAU実行委員会)

YAU(有楽町アートアーバニズム)およびYAU STUDIOの運営は、主にフリーランスのアートマネージャーや建築家、現代写真やパフォーミングアーツのプロジェクトチームが合同で行っている。それぞれがプロフェッショナルな経験を持ち寄り、大半にとっては新しく踏み入れる有楽町と関係性を築きながら話し合いを重ねている。

内田聖良(左) 作品展示の様子 / YAU STUDIO

本企画に並行して札幌を訪れた際、サッポロ・パラレル・ミュージアムの運営チームから「札幌には現代美術館も、美術大学もない。」と聞いた。有楽町は、20世紀前半は劇場街ではあったものの、その半ばから新聞社やラジオ放送局が立ち並び、日本有数のビジネス街へと発展していった。近頃は、ビジネス街という側面だけではなく、現代アートのギャラリーや起業家が集うワークスペースもできている。

高橋喜代史 作品展示の様子 / YAU STUDIO

私は普段から有楽町以外でもアートマネージャーとして働いているが、こうしたまちの環境下で「アートと出会う場をつくり、街の中で交流を起こす」というミッションを持つYAUは、サッポロ・パラレル・ミュージアムと土地は違っても、親近感が沸く。展示の交流をきっかけにこの取り組みを継続して、互いのまちについてもっと知ることで、有楽町にその知見を戻したいと思っている。

参加アーティストより、札幌での展示を終えて

文=SO、丸尾隆一(YAU × サッポロ・パラレル・ミュージアム エクスチェンジプログラム参加アーティスト)

都市生活者としてこれまでも自分が往来する空間をどのような情報断片の集積で認識しているのか、興味を持っていた。楔を打たれたような都市の決定的要素やスペクタクルの足元で忙しなく往来する人々やその摩擦、もしくは自身が移動をすることで採取される都市の手がかりを、音という媒体に絞って調査・録音を行った。

恣意的な展開や抑揚が起きないように設定され、不規則に発せられる音の断片を即興で加工・増強し、録音された最終的な音響は都市を特定するまでの解像度を持ち合わせてはいないものの、一方で我々が必ずしも具体的な情報によってこの空間を認識しているわけではないというよそよそしさと、シーケンシャルに連続する情報の知覚によって得られる運動的な都市の実像を表徴するものとなった。(SO)

SO+丸尾隆一 作品展示の様子 / 札幌駅前通地下歩行空間

Landscape for 2 buildings at Yurakucho》は、取り壊しが決まった向かい合う2つのビルの風景をモチーフにした映像インスタレーションだ。そして、展示風景の記録映像も1つの映像作品として残すことを意識して制作をした。

その映像が遠く離れた都市で、また「パラレル」をキーワードにした展覧会で展示されたことは、当初の着想と無関係ではないように思えた。
かつて光の軌跡が映像の役割を果たした時代があったように、映像と現実の風景を溶け合わせた本作の記録映像が、同じモチーフを持つ札幌という都市で再生されたことで、日々の風景に対する感覚を研ぎ澄ますための試みとなったのではないだろうか。(丸尾隆一)


▼サッポロ・パラレル・ミュージアム2023記録集は、次のウェブサイトで閲覧(PDF)可能。
https://www.parallelmuseum.com/2023/shared/pdf/Parallel_2023_Report.pdf






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