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Artist Note vol.3 河野未彩

「Art Squiggle Yokoyama 2024」では、「アーティスト・ノート」というコンセプトを掲げ、各参加作家に本フェスティバルの準備段階で、まだ頭のなかにしか存在していなかった展示についてのインタビューを行いました。作品に込める思い、悩みや葛藤、インスピレーション源についてなど、まさに「Squiggle」の最中にいたアーティストの声がここには綴られています。

光と影の現象そのものを可視化し、変化し続ける色彩を楽しむインスタレーション

《RGB_Light × HONEY》(2017)

今回の展示作品《HUE MOMENTS》についてご説明いただけますか?
混合する光から生まれる色と影、変化する色相という現象自体をコンセプトにした作品です。 光を一方向からあてていると影は真っ黒になってしまいますが、複数の光源で多方向から色彩を照らすことで、影も色鮮やかになるんです。 その原理を利用して、影や色面の色相が変化しながら空間を彩るインスタレーションになります。

光の三原色の原理を応用して白い光のなかに色鮮やかな影をつくるペンダントライト 「RGB_Light」も製品化されていますよね。

はい。 今回は、製品としての「RGB_Light」をそのままインスタレーションにしているのではなく、発想の起点となった光や影といったものを改めて作品に落とし込んだものです。 三原色の光と影は大学時代の2005年からプロジェクトのテーマにしていました。

最初に光や影に興味をもったきっかけはなんですか?
学生時代に音楽のカラーライトの演出で、一瞬影に色がついたのを見たことがきっかけでした。 やがてその仕組みを理解して、それをわかりやすく表現してみたいと思ったことが作品や製品づくりにつながりました。 大学ではプロダクトデザインを学んでいたのですが、造形だけをつくるよりも、仕組みや現象、体験といった本質的なものを見せるための何かをつくりたいと思っていたんです。 そのなかで、視覚表現の根源であるプリミティブな現象としての光や影に注目しました。

常に物理現象をインスピレーションの源として、制作をされてきたのでしょうか?
10代のころは宇宙や音楽に興味をもっていました。 60年代のカルチャ ーだったり、日本では横尾忠則さんの極彩色の表現だったりに衝撃を受けた覚えがあります。 特に音楽は作品づくりの恋人、あるいは相棒のようなイメ ジで、常に私のそばにありました。 最近は物理現象やそこに付随する議論の影響をより濃く受けている気がします。 特に物理学の世界で研究されているミクロの世界のールの現象に共話に触れていると、心のなかで起きていることと、宇宙の起源のような大きなスケールの現象に共通項があると感じる感覚があり、それが作品のさまざまな面で大きなヒントになっています。

《HUE MOMENTS》 model, 2024

ちなみに、アーティストではなく「視覚ディレクター」を名乗っている理由は?
2006年に大学を卒業してからずっとフリーランスとして活動を続けてきたのですが、その間にも活動の内容が流動的に変化してきました。もともとはアートディレクションの仕事が多かったものの、だんだんとそこで掬い上げきれない表現を個人の作品として展示させていただく機会も増えてきたので、アートディレクターという肩書がはまらなくなっていったんです。そうした理由もあり、今は視覚ディレクターを名乗っています。ただ実際には、肩書きにこだわりはなく、デザイナーでもありアーティストでもあるような気がしますね。

アートディレクションの仕事と、今回のようなアーティストとしての作品制作ではつくりかたも違いますか?
どちらも感覚的なところから入っていく点は同じです。伝えたいことや現象、やってみたいことがフラッシュのように頭に突然浮かんで、そのアイデアがなぜ良いのかという理由を後から探してさらに詰めていくケースが多いです。一方で、興味をもった素材から発想していく場合もあります。大きく異なる点はクライアントの有無です。クライアントがいる場合は相手のイメージや方向性、あればゴール設定を聞きながら、そこへの回答としてつくっていきます。けれども、作品制作や個展の準備では自分自身がクライアントです。私が私自身であるための答えを頭の中で話し合いをしながらかたちにしていっています。最近の傾向は、自分の意思の軸がいくつか同時に発生していて、どちらかを早い段階で決めずに、ブレーキとアクセルをどっちも踏んで問答している状態が長い気がします。

《Hue Moment》(2024)Art Squiggle Yokoyama 2024
Photo: 市川森一

今回の作品でもそうした試行錯誤が生かされているのでしょうか?
そうですね。やってみたいことをすべて含んだ「全部盛り」のプランがありつつも、そこからどれだけ引き算をしていけるか、特に今回は空間が作品そのものになるので、会場の設計から展示の安全性、メンテナンスの仕方まで、さまざまな制約と照らし合わせながら最適な演出方法を考えています。10分の1スケールの模型とをつくりながら、実機と照らし合わせ日々模索しているところです。最終的には、5つの可変する要素(3灯の光の色と2灯の動き)の周期をずらすことで、会期の45日間一度も同じ瞬間が現れないというコンセプトが軸になりました。

同じテーマを20年近く追求されていますが、常に進化があるのですね。
製品の「RGB_Light」を発表した当初は、プロダクト自体を世に放つためのプロセスや、白い光にカラフルな影ができるという原理を見せることに注力していましたが、今は光が生み出す現象自体がどういう雰囲気をひとつの空間に作り出すできるかという、よりニュアンスを重視した視点で作品をつくっています。光や影は異なる空間にもっていけばまったく違う意味や表情をもつ作品になります。物理現象という普遍的なものを扱っているからこそ応用できることがその魅力だと思います。

Interview Date: 2024/06/26
Text by Asuka Kawanabe


PROFILE
1982年神奈川県生まれ。視覚ディレクター/グラフィックアーティスト。音楽や美術に漂う宇宙観に強く惹かれ、2000年代半ばから創作活動を始める。多摩美術大学プロダクトデザイン専攻卒業後、現象や女性像に着目した色彩快楽的な作品を多数手がける。多色の影をつくる照明「RGB_Light」(https://rgblight.net)は、日米特許取得から製品化までを実現。


About "ARTIST NOTE"
会場では、それぞれの作家ごとに用意されたテーブルの上に普段制作に使用している道具やアトリエにあるもの、影響を受けた書籍などが並ぶほか、インタビューや制作プロセスが垣間見れる写真などが掲載された「アーティスト・ノート」が2枚置かれています。会場を巡りながらそれらを集め、最後にはご自身で綴じ、自分だけの一冊をお持ち帰りいただけます。

河野未彩のアーティストテーブル


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