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Artist Note vol.9 藤倉麻子

「Art Squiggle Yokoyama 2024」では、「アーティスト・ノート」というコンセプトを掲げ、各参加作家に本フェスティバルの準備段階で、まだ頭のなかにしか存在していなかった展示についてのインタビューを行いました。作品に込める思い、悩みや葛藤、インスピレーション源についてなど、まさに「Squiggle」の最中にいたアーティストの声がここには綴られています。

都市インフラが自ら動き出す風景は現実か?
それとも架空なのか?

《群生地放送》(2018)

今回の展示作品について教えてください。
3DCGアニメーションによるふたつの映像作品を展示します。《群生地放送》は、2018年に東京藝術大学大学院のメディア映像専攻の修了制作で発表した作品からです。その後もシリーズとして制作し、なかにはマルチチャンネルなどで作ったものもあるのですが、今回展示しているのはシリーズのうちいくつかをひとつにまとめたアニメーションです。 もうひとつの《朝の楽しみ方》は2020年に発表した作品です。2作品とも、現代の都市空間に存在する工場などの巨大な建築物や、高速道路や配管設備などのインフラ、産業製品なとが自律的な動きをしているのが特徴だと思います。

《群生地放送》(2018)

工業地帯や臨海都市など、現代の都市空間をテーマにしている理由とは?
私が生まれ育った埼玉県郊外の風景は大きな着想源になっています。駅周辺には規格に則ってつくられたような住宅地がある一方で、車で10分ほど行けば延々と田んぽが広がっている。その一見素朴な田園風景の中を巨大な高速道路が突き抜けていたりする。ただ、その風景に虚しさを感じるというよりは、測り知れない大きさや重呈を感じる構造物や機械なんかを見ることが好きだったんです。年が経つにつれて、どうしてそのような風景が形成されたのかを考えるようになり、ロジスティクスや物流に興味を持つようになりました。物流に革命を起こしたコンテナの形はとても象徴的ですが、それは世界中の規格化された都市風景にも繋がっていると思います。関東圏でいえば、東京や神奈川、千葉などの湾岸エリアが物流拠点となっていますよね。 かつては倉庫も湾岸部にありましたが現在は内陸部へと侵入し、埼玉の私の地元周辺にも次々と物流施設が建設されていて。そのような都市の風景について考える表現をしたいと思うようになったんです。

《朝の楽しみ方》(2022)

東京藝術大学大学院で学ぶ前は東京外国語大学でペルシア語を専攻されましたが、どのようにアートヘ興味が向かっていったのでしょう?
意外に思われるかもしれませんが、ペルシア語への興味も制作に繋がっている部分が大いにあるんです。関東の都市に広がる無機質な景色がふと砂漠のように感じることがあって、高校生の時に中東の乾燥地帯に興味を持つようになりました。図録や本を見ていると、水もない乾燥した広大な平野に突然、巨大な四角い建物やドーム状の建築物があることや、そこに細密な装飾が施されていることが面白くて、中東の美術や文化、思想に関心を持ちました。在学時にはペルシア語学のほかにも広く学び、イスラムの神秘主義思想にも触れ、その「奥行き」の捉え方にはとても影響を受けました。奥行きというのは、イスラムの世界では神秘や神の領域といったものなどを細密な幾何学模様で表現しますが、一見アウトプットとしては平面的でも、X、Y、 Z軸を超えた思想や時間軸が凝縮されている感じに似ています。主観と客観が何層にも重なった垂直方向の奥行きというか、3次元には存在しない方向の軸も持っているようにも思います。そのように合理的には説明のつかない、主観的で漠然としたものも入り混じった表現を模索したい、制作してみたいと思ったんですよね。

3DCGアニメーションを制作することになったきっかけを教えてください。
もともと美術を学んでいたわけではなく大学院に入ってから制作をスタートしたこともあって、1人でも、CGを使えば巨大な規模のものも扱えることはすごく魅力的でした。無限に広がる土地のような場所をつくって、その中で様々な要素を自由に設計できることが面白いなと思いました。さらに、3DCGのソフト上ではカメラを使ってその世界を覗けるということも。

《朝の楽しみ方》(2022)

海や川がビピッドなピンク色で着色されているなど、極彩色が藤倉さんの作品のひとつの特徴ですね。また、リアルに描かれたアニメーションの中にビットの粗いオブジェクトが置かれていたり、手書き風の文字による標識が現れたりと、目を留める仕掛けがあります。人物が登場することもほぽありませんが、現実と架空の世界はどのようなバランスでつくられているのでしょうか?
3DCGを制作するソフトで、実際に見ている身の回りの物をモデリングしていって、その隣にあるべき形はなんだろう?と想像を織り交ぜて描いていくのですが、例えば、こういう形、色、質感のチ ーブのようなものが動いていたらいいなとか、光っていたら面白いなと試しながら進めていく感じです。最初から明確に人物を入れないと決めていたわけではないのですが、人間はカメラの外にいることが前提になっているように思います。

近年多くの展覧会に参加されてきましたが、自身の制作に対して変化を感じていることはありますか?
今、1歳の子ともと一緒に、夫の仕事の関係で茨城県日立市に住んでいます。 まさに工業都市の代表 ともいえる街ですが、大きな国道が走る景色や、過疎化や高齢化の問題を目の当たりにして、この風景は都市を維持するために造られていることを実感するようになりました。考えていかなきゃいけないと、以前より現実的なものとして感じるようになって。3DCGだからこそ表現できる架空の世界や想像力を活かしながら、社会のなかでより実践的なアプローチができないかと思っています。


PROFILE
1992年生まれ。都市・郊外を横断的に整備するインフラストラクチャーやそれらに付属する風景の奥行きに注目し、主に3DCGアニメーションの手法を用いた作品を制作。2018年東京藝術大学大学院メディア映像専攻修了。近年の参加展覧会に「都市にひそむミエナイモノ展」(SusHi Tech Square、東京、2023-4年)、「エナジー・イン・ルーラル [展覧会第二期]」(ACAC、青森、2023年)など。


About "ARTIST NOTE"
会場では、それぞれの作家ごとに用意されたテーブルの上に普段制作に使用している道具やアトリエにあるもの、影響を受けた書籍などが並ぶほか、インタビューや制作プロセスが垣間見れる写真などが掲載された「アーティスト・ノート」が2枚置かれています。会場を巡りながらそれらを集め、最後にはご自身で綴じ、自分だけの一冊をお持ち帰りいただけます。

藤倉麻子のアーティスト・テーブル



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