SaaSという魔物。手懐ければ一生の相棒に。
どうも!Arts JapanのCOO網敷(アミシキ)です。
今年の5月にArts Japanへ入社し、早くも7ヶ月が経過しました。
人生で初めてSaaSというビジネスモデルと対峙することになったのですが、これまた難しいビジネス!
今回は「SaaSという魔物。手懐ければ一生の相棒に。」というタイトルでSaaSの難しさや面白さを語っていきたいと思います。
SaaSってどんなイメージ??
これを読んでいる皆さんは「SaaS」というビジネスモデルについて、どのような印象を持たれているでしょうか。
ITなどのソフトウェアサービスかな…?
買い切り型ではなく、サブスクリプション方式で提供される…?
サブスク型だから販売しやすそう!セールスもいらない!?
継続モデルなので安定的な収入を作ることができそう!
ユニコーン(評価額が10億ドルを超える、設立10年以内の未上場のベンチャー企業)が多い!
このような印象をイメージした方も多いのではないでしょうか。
実はいずれも正解で、SaaSモデルやそれに関わる企業の特徴を表したものだと思います。
(全てがSaaSに当てはまる訳ではありません)
SaaSというビジネスモデルにどっぷり浸かったことがない方の印象は大半がこのようなものだと思います。
かくいう自分も、以前まではこのようなイメージを持っていました。
今までは売り切り型ビジネスの事業経験しかなかったので、この時はまだSaaSという魔物を知らなかったのです。
SaaSの構造を分解してみよう。
SaaSとは一体何なのか。
なぜ、アミシキは「SaaSは難しい」と言っているのか。
これらは構造を分解してみると、よく分かってきます。
「SaaSというビジネスモデルにおいて一番重要な構造を選んで!」と言われたら、私は下記が一番重要だと答えると思います。
LTV > CAC
LTVは「Life Time Value」の頭文字をとったもので、日本語では顧客生涯価値といいます。
企業と顧客との取引期間中に、顧客がどれくらいの利益をもたらすか?というものを表した指標になります。
CACは「Customer Acquisition Cost」の頭文字をとったもので、日本語では顧客獲得単価といいます。
1顧客を獲得するにあたり、どれぐらいのコストがかかったのか?を表した指標です。
ここまで読んで勘が良い方は既に察しているのではないでしょうか。
そうです。
要するに「LTV > CAC = 顧客を獲得するコストは得られる収益よりも小さくしようね」という当たり前のことを言っています。
商売の鉄則で言うところの「安く仕入れて高く売ろう」的なやつです。
これを読んでいるそこのあなた!
「なーーーんだ、そんなことか」と思いましたか!?
思いましたよね!!
思ってるでしょ!!
僕も、こんな当たり前のことはすぐ実現出来るだろうと思っていた訳なんですが、これが本当に難しい。
SaaSは比較的低単価なサービスが多いので数を稼ぐ必要があります。
この「LTV > CAC」を何千、何万回と反復させる訳です。
なので、再現性のある仕組みの構築がSaaSには求められる訳です。
SaaSビジネスをこれから始めようと考えている方。
「SaaSって今どきじゃん!?」
「SaaSって始めやすいかも!」
「SaaSで不労収入!」
こんなことが動機であれば、これだけ言わせてください。
「 SaaSだけはやめといた方がいい! 」
他のビジネスモデルを選ぶだけで、あなたの会社の生存確率はちょっと上がるかもしれません。
SaaSはビジネスオタクが四六時中対峙してようやく手懐けられる魔物です。
前置きが長くなってきたので、そろそろ本題の構造分解をしていきましょう。
LTVの構造を紐解いてみよう
まず、LTV(Life Time Value)の構造から見ていきましょう。
LTVの算出方法は人によって異なる場合もありますが、私が指すLTVとは以下の計算式で算出されています。
ARPA(Average Revenue per Account)は1アカウント当たりの月間平均収益
COGS rate(Cost of Goods Sold rate)は売上原価率
CCR(Customer Churn Rate)は顧客の月次解約率
を意味します。
LTVの計算では1アカウントあたりの収益から売上原価を差し引き、それを顧客の月次解約率で割ります。これにより顧客がもたらす平均的な生涯価値が求められるわけです
月次解約率で割る(割り戻す)という箇所で躓いた方は、
「月次解約率で割り戻す ≒ 顧客の継続期間を掛け算する」
という考え方をしてもらうと、より理解が進むかもしれません。
例えば月初時点の顧客数が100として月末までに2件の解約が発生したとしましょう。
この場合の月次解約率は2%となります。
顧客数の増減が発生しないと仮定した場合、
約50回繰り返すと全顧客が解約することになります。
つまり、その時点においての平均的な顧客継続期間は50ヶ月ということになります。
LTVの構造をこのように分解してみると、LTVを高める為の策がいくつか見えてくるかと思います。
ARPAの増加:1アカウント当たりの売上を増やす。
COGSrateの低減:コスト効率を改善する。
CCRの低下:長期にわたる顧客の維持。
SaaSは低料金でお客様が手軽に始められるので売りやすそうというイメージがありますが、実際にはそれほど単純ではありません。
特に価格設定は重要で、販売価格は売上原価を上回る必要があります。
・・・。
・・・・。
・・・・・。
これを読んでいるそこのあなた!!
また思いましたね!?
さっきから何を当たり前なことを言っているんだと。
「販売価格が売上原価を上回るのは当たり前だろ」と。
実は僕も同じことを思っていました。
けれども、SaaSの世界ではこの「当たり前」が意外と難しい。
PLG(Product Led Growth)を目指して、セルフサーブできるような価格帯にしたい。とか、リッチな顧客体験を提供する為にCS(カスタマーサクセス・カスタマーサポート)は手厚くサービスも充実させて。とか。
これらをどんどん反映させていくと、あら不思議。
いつの間にか売上原価が販売価格を上回っています。
さらにSaaSはサブスクリプションモデルであるため、顧客を長期間維続させることが重要です。
でないと、顧客獲得のコストを取り返すことすらできません。
低単価で攻めすぎると、頻繁なCSが原価を押し上げるジレンマとなって顔を出してきます。
例えば月額2万円のサービスでCS(時給2,000円)を1時間もつけてしまった場合、売上原価は10%も上昇してしまいます。
サーバー代やCSの人件費も売上原価に含まれるため、これらのコストを考慮に入れる必要があります。
ここにSaaSの難しさがあるわけです。
特にSaaSは経営に複雑なバランスが要求されます。
CACの構造を紐解いてみよう
次に、CAC(Customer Acquisition Cost)の構造に目を向けましょう。
CACの計算式はシンプルです。
これは、該当月の総マーケティング費用と営業費用を新規顧客獲得数で割って求めるものです。
要するに1顧客獲得にかかるコストの合計がいくらかということです。
もちろん、このコストは安ければ安いほど良いのですが、簡単に低減させることは難しいのが現実です。
今回の説明ではフォーカスをあてませんが、事業運営には会社全体の固定費やその他費用もかかってきます。なので、CACを低く保った上で、顧客数を増やすことがSaaSビジネスには求められます。
さらに、これらの指標が安定してきたら資本コスト(加重平均資本コスト:WACC)を上回るROIC(投下資本利益率)の実現が求められます。
ROIC > WACC
創業期や成長前期に「ROIC>WACC」を求められるケースは少ないと思いますが、成長前期ではランウェイ(現預金が不足に陥るまでの期間を表します)を常に気にかけないといけません。
これまで説明してきたものは全て「今(N月)」に起きることではありません。
顧客への価値提供の手段としてSaaSを選んでいる経営者達はN月の想定から始まり、顧客が解約するまでの「N+t(月)」までの期間を考えなくてはいけません。
遠い不確定な未来を想定しながら「今」をコントロールする必要がある訳です。
ここまで読んで、SaaSは生半可な気持ちで始めてはいけないのがご理解頂けましたでしょうか。
SaaSはビジネスオタクなドMがチャレンジする激ムズビジネスです。
表面的な印象でSaaSビジネスを始めようと思っていたあなた!
もう一度言いますよ!?
「 SaaSだけはやめといた方がいい! 」
魔物攻略の鍵はあるのか??
さて、これまでSaaSビジネスの構造について詳しく語ってきましたが、ここで最も重要な要素に焦点を当てましょう。
魔物(SaaSビジネス)攻略において最も重要なことは何か。
それは「顧客の設定と理解」だと私は考えています。
顧客が購入を決断する理由は主に2つに分けられます。
一つ目は「課題が顕在化している場合」です。
これはとてもシンプルで分かりやすいですね。
顧客には明確な課題があり、その課題に対して適切な費用対効果が見込めると購入に踏み切ります。
二つ目は「自分のビジョンに紐づけて興奮し、購買のしきい値を超えれた場合」です。
例えば、私はプロジェクト管理のAsanaを最近導入しました。
Asanaを選んだのは明確な課題があったからではなく、Asanaが描く「仕事のすべてを可視化し、スムーズな連携を実現する」という世界観に惹かれたからです。(もしかしたら生産性が上がるかも?という期待)
もっとConsumerに身近なもので言うとNetflixなども同様かと思います。
多くの人が具体的な課題を抱えているわけではなく、提供されるエンターテイメントにワクワクするから契約しているのではないでしょうか。
一つ目と二つ目の違いは「顧客が課題を明確化し、理解しているかどうか」だと思いますが、
いずれもターゲットとなる顧客を明確にし、特性を深く理解することが肝心です。
サービス設計や営業戦略を進める際には、これらの点を把握した上で適切に対応しなければ、
顧客が増えなかったり、
契約後の早期解約が頻発したり、
契約はしてくれてもサービスをほとんど利用しない。
といった問題が発生する可能性があります。
要するにSaaSの全ては顧客です。
サブスク型で安価に売りやすい訳でも、簡単に継続顧客が作れるものでもありません。
これらは幻想です。
顧客を誰よりも知り尽くした上で長期的な関係性を築き、彼らのニーズに応え続けることがSaaSには求められます。
(しかも先ほどの「LTV > CAC」を常に気にかけながら!)
SaaSがなんとなく良いかも!?なんてもってのほかです。
SaaSはあくまでも価値提供の手段。順序を間違えないように!!
僕らはSaaSという魔物を手懐けたい。
さて、この物語も終盤です。
なぜ、私は「SaaSだけはやめておいた方がいい」と言うのか。
なぜ、我々はそれでもSaaSを選んで戦っているのか。
これらの問いに対する答えは2つあります。
一つ目は「当社が顧客として設定している教育業界は小規模事業者が多く、SaaSでないとソリューションが届けられないから」です。
当社が主戦場としているリスキリングスクールの業界は事業者数が凡そ80,000件存在していると総務省の統計データで発表されています。
ですが、約80,000件のうち70,000件近くが個人事業主や小規模な法人です。
これらの事業者は売上も小さいのでオンラインの学習環境を自社開発したり、オンプレミスな導入をすることは難しいです。
ですが、これらの事業者には受講生が約一千万人存在するとデータで出ています。
当社が掲げるミッションの「世界中の人々の”もう一歩先”を創り出す」に少しでも近づく為にも、この事業者の攻略が欠かせないと考えています。
二つ目は「SaaSという魔物を手懐けると、一生の相棒になってくれる」と信じているからです。
私の古巣では成長企業に求められる重要な三要素はこの三つだと、とことん教え込まれました。
継続顧客
市場での優位性
高い独立性
こんなにも難しいSaaSですが、無事に攻略できた暁には他社の追随を許さない存在に我々はなれると信じています。
生半可な気持ちで始めるSaaSはやめといた方がいいですが、我々は本気です。
そしてSaaSである理由があります。
あなたのSaaSはまだ魔物ですか?
僕らのSaaSはまだまだ魔物です。そしてとんでもない魔物です。
毎日のように振り回されていますが、頼れる仲間たちと一緒に一生の相棒へ進化させていきたいと思います。
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