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ムンクが描く夏はなぜか気持ちがひんやりする

【今月の名画】
この季節にぴったりの名画を紹介します。

暑さ真っ盛りのこの時期は、夏をテーマにした絵を見てみましょう。

今日紹介する夏の絵は、あの ムンク が描いたもの。ムンクといえば『叫び』ですよね。

『叫び』(1893年)


何だか夏のイメージと結びつきませんが、一体どんな絵を描いているのでしょうか。早速見ていきましょう!

ムンクの夏は暑くない

ムンクは意外にも夏の絵をたくさん描いています。今日紹介するのはこちらです。

『夏の夜、人魚』(1893年)


作品の舞台はノルウェーの海。ノルウェーはムンクの故郷であり制作拠点でもありました。
北欧の夏は日照時間が長く、場所によっては白夜となるところもあります。この作品にも明るくて涼しげな北欧の雰囲気が表れています。

ですが目立つのは、夏の風景というより中央にいる人魚です。

『夏の夜、人魚』拡大図


魚の下半身はよく見えません。ですが夜の海に白い肌が浮かぶ光景は何だか異様で、彼女が人間でないことは明らかです。
表情がぼやけている分、こちらをじっと見据える目(特に白目)は存在感があり、思わず魅入ってしまいます。
異世界にトリップしてこの世ならざるものと遭遇したような、不思議な感覚です。
ちなみに背景にある黄色い線は月明かり。この光の筋が幻想的な雰囲気を強調しています。


さて、この絵。夏がテーマなのに全然暑さを感じないのは私だけでしょうか。(もちろんムンクの過ごした北欧の夏と日本のそれとは全然違うと思いますが。)
この絵だけでなく、ムンクの描く夏はどうも夏らしくないものが多いです。

『声/夏の夜』(1893年)


実はこれらの夏の絵が描かれたのは、最初の『叫び』が描かれたのと同じ年です。(『叫び』はシリーズものでいろいろなverがあります。)
このときムンクは30歳。ですが既に様々な苦労を経験していました。

ムンクの苦難①肉親との死別

ムンクは子供時代に母と姉を亡くしており、幼い頃から死の恐怖に苛まれていました。そのうえ30歳になる頃には既に父も亡くなっていました。

先ほどの『夏の夜、人魚』は死を直接扱ったわけではありませんが、登場人物は亡霊のようで、人肌の温もりが感じられません。これは当時のムンクの作品に共通する傾向です。

『幻影』(1892年)


『絶望』(1894年)


ちなみに『夏の夜、人魚』を描いた数年後にはムンクの弟も亡くなりました。このときムンクはまさしく亡霊のような、ちょっと衝撃的な自画像を残しています

度重なる肉親の死がムンクの心に暗い影を落としていたことは、想像に難くありません。

ムンクの苦難②女性とのままならない関係

実はムンクは美男子&高身長。さぞかしモテたことでしょう。しかしその恋は順風満帆とはいかなかったようです。

ムンクは22歳にして初恋を経験します。相手は社交界の花形ミリー・タウロー。ムンクはミリーと数年間交際を続けることになります。
問題は、ミリーが人妻だったことです。そのうえ彼女はムンク以外にも複数人と関係を持っていました。要するにムンクは弄ばれていたのです。

そんなミリーとの関係は、制作に大きな影響を及ぼしました。ムンクはミリーとの交際期間中も破局した後も、男女関係をテーマにした作品をたくさん残しています。(ちなみにムンクはミリーと別れた後も、女性関係で様々なトラブルに見舞われました。)
絵の中の女性は化け物じみていたり、表情が全然見えなかったり、何だか不穏な雰囲気です。

『吸血鬼II』(1895年)


『別離』(1896年)


先ほどの『夏の夜、人魚』でも、人魚が少し不気味に描かれています。
女性に対する屈折した思いが作品に表れているのかもしれません。

ひと味違う夏

前回は夏にぴったりの風景画を紹介しましたが、今回はちょっとひと味違う夏をお届けしました。
灼熱の太陽に辟易したときは、ムンクの夏がちょうどいいかもしれません。


ムンクの面白いところは、作品に自身の境遇や内面が分かりやすく示されているところです。特に自画像には、ムンクの人生そのものが表れています。


それにしても毎日暑い。暑すぎて美術館に行く気力もないときは、おうちでゆっくり過ごしましょう。







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