研究アソシエイト事業公開研究会#02後編「Token Art Centerの運営」
アーツカウンシルさいたまで実施している「研究アソシエイト事業」の一環として、ゲストに高村瑞世さん(Token Art Center代表)を迎え、公開研究会として事例紹介とディスカッションを行いました。
後編では高村さんが、東京都墨田区に立ち上げたアートセンター「Token Art Center(以下、Token)」の運営についてレポートします。
高村瑞世(たかむら みずよ)
1985年、静岡県生まれ。設計事務所、制作会社に勤務する傍ら、JR中央線沿線上で展開するアートプロジェクト「TERATOTERA(テラトテラ )」に2011 年よりボランティアスタッフとして関わり、約10店舗を舞台とした若手アーティストによる展覧会などを企画。2014年より、「TERATOTERA」の事務局長を勤める。2013年よりアートスペース「モデルルーム」、2019年より「Token Art Center」の企画運営をしている 。
まちなかよりも自由なスペースをつくりたい
高村:テラッコをやりながら、2013年から「モデルルーム※1」というスペースを東京都東青梅でオープンさせます。テラッコでの経験として、やっぱりまちなかで実施することはたくさんの制限があり、アーティストもそこで何ができるか自問自答しながら進めるところがある。もう少し自由にやってもらえる場所として、「いつかアートスペースをやりたい」ということを考えていました。
元々TERATOTERAをきっかけに知り合ったアーティストたちが住んでいた場所を引き継いで、本当に見切り発車というか収益も考えずに勢いで、当時のテラッコと2人でスペースを始めちゃったんです。
公共の場ではないからこそ、できること
高村:その後、自分たちも通うのが大変なこともあって、スペースを移転しました。移転先は、アーティストのアトリエや、セルフリノベーションでカフェをオープンしたい若い人に協力的な不動産屋がいる、と知人からの紹介で墨田区になり、「Token Art Center(以下、Token)※2」をオープンしました。
経営面は赤字で、入場料の500円と、微々たるものですが作品の売り上げが収入源です。Tokenではない場所で実施するプロジェクトでは助成金をもらうこともあり、そのディレクション費という個人の収入もTokenの運営費にして家賃が賄えるくらいです。人件費は不足しているので、自分たちで店番をしています。
モデルルームの時と違い、個展か二人展を実施することが多く、アーティストは、モデルルームの時に展示したアーティストや美大の卒展を見に行って声をかけたアーティストもいます。公共の場では展示が難しい作品も自分たちがOKであれば展示できるので、アーティストに新しい試みをしてもらう場として運営をしています。
アートスペースの閉じている感覚
高村:アートスペースをやっているだけだとアート関係の人しか来ないので、年に1回、Tokenの外でもプロジェクトを実施しています。
入場料を無料にしていた時は、通りがかりのおばあちゃんが来てくれたり、祭りの時は半纏姿で入ってきてくれる人もいました。ただ、今は有料なので、なかなか地元の人は来てくれなくて、ただスペースを運営しているだけだと、本当に閉じてしまっている感覚があります。
アートに出合ってしまう経験をつくる
高村:自分がボランティアからスタートしていることもあって、普段アートに関わりのない人も、アートに出合ってしまうという経験をしてほしいという気持ちがあり、公園や公共施設を会場にしてプロジェクトを行っています。
プロジェクトを実施するときは、自費では実施が難しいので、助成金を申請したり、行政の公募に申請したりしています。これまでに何度か採択されたのは、墨田区が主催する「隅田川 森羅万象 墨に夢※3」です。この公募は、採択されると最大100万円補助金が出ます。運営は「Teraccollective(テラコレ)※4」のメンバーにも手伝ってもらっています。
墨田区は広報に協力的で、区内の小中学校にチラシを配布してもらえます。そのチラシを見て、小学生が自転車でTokenにやってきたり、親御さんがチラシを見てプロジェクトのボランティアに参加してくれたりしました。
アーティストに出会うことで、会社に週5回行って安定した生活をしていくという生き方以外にも、いろんな生き方があるということを知ってもらえるといいな、という気持ちもあります。
ディスカッション
ディスカッションの前半は、研究アソシエイトとしてオルタナティブ・スペースを調査対象としている温盛義隆さん、同じくアソシエイトでさいたま国際芸術祭の市民サポーターを調査対象としている西田祥子さん、アーツカウンシルさいたまのプログラムディレクター、プログラムオフィサーも加わり、高村さんからお話しいただいた内容を振り返りながら、それぞれが話の中で気になった点からディスカッションを行いました。後半は、当日会場に参加いただいた方々からの質疑応答を行いました。
温盛:Token スペース内・室内で発表されるプロジェクトと、公共施設や公園等・屋外で発表されるプロジェクトをそれぞれご紹介いただきました。アーティスト側から作品発表をする場所ー室内 / 室外に関する何かフィードバックはありますか?
高村:屋外でのプロジェクトは、その場所性を考えて作品をつくることができる人に声をかけて、その場所でどのようなことをやるのが面白いか話し合いながらやっています。
室内の舞台でパフォーマンスすることが多いアーティストからは、「舞台の場合はチケットを購入して観に来てくれる客層だけど、屋外のプロジェクトの場合は全然違うタイプの人が観てくれたのでとても刺激になった」と言われました。
西田:ボランティアだと、人によってできる仕事や作業の量に差が出てきてしまうと思います。特に忙しい時期には、多くの仕事を担当するボランティアの方がモヤモヤを感じることもあったのではと思いますが、喧嘩はなかったのでしょうか?
高村:仕事や作業をしない人は全然いませんでした。
私は、自分たちで決めた企画なのだから作業してくれる人がいれば助かるけど、できないのならばみんなで分担してやろうよ、というスタンスでいました。
でも、テラッコの中から「自分でやった方が作業が早い」とか「誰かにやってもらっても結局自分でやり直すことになる」という不満は聞いたことはあります。とはいえ、そもそも自分の企画なのだし、責任まで他人に強要するのは違うのではないか、と考えてました。
参加者:アートの仕事にはどうやったら就けるのですか?と聞かれることがよくあるのですが、もし高村さんが聞かれたらどんなアドバイスをされますか?
高村:私が認識している中で、アートで安定している仕事というのは学芸員とか、公的なお金が出ていて継続する見込みのある職場に就職するっていうことになってしまうのかなと思います。ただ、すごく小さい枠だと思います。正直、私のやり方では「アートが仕事になるよ」とは全然言いきれないです。給料にあたるものは、助成金でディレクション費を計上するという方法でしかないので、安定してお金が入ってくるってことは、ほぼないです。
でも、もし本当に仕事にしたいのであれば、とにかく色々なところに手伝いに行ってみることからかなと思います。
まちなかでのアートプロジェクトと、アートスペースの運営と両方を行ってきた経験から、それぞれパブリック/プライベートの特性を活かしながら企画のディレクションを行っている高村さん。スペースを始められたきっかけは、まちなかでの展示よりも、アーティストがもう少し自由に活動できる場所を求めてスペースをはじめられたということでしたが、スペースの運営のみに注力されるのではなく、プロジェクトも並行して行うことでアーティストの活動の場を広げ、地域にも多くの機会を提供するような活動になっているように思えました。
アーツカウンシルさいたまでは、このような公開研究会を通じて、生活都市さいたまにおける芸術文化のあり方の研究を進めていきたいと思います。(アーツカウンシルさいたまプログラムオフィサー 三田真由美)