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Q45 Vチューバーのプロモーション活用

エンターテインメント・ロイヤーズネットワーク編
エンターテインメント法務Q&A〔第3版〕
株式会社 民事法研究会 発行

より許諾を得て抜粋
協力:エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク


Question

 企業が、外部のバーチャル・ユーチューバーにプロモーションを委託する場合の注意点は何か。また、公式のバーチャル・ユーチューバーを開始する場合の注意点は何か。

Point

① バーチャル・ユーチューバーとは
② バーチャル・ユーチューバーをめぐるトラブル
③ 外部のバーチャル・ユーチューバーへの業務委託時の注意点


Answer

1.バーチャル・ユーチューバー(Vチューバー)とは

 バーチャル・ユーチューバーは、統一的な公的定義はないものの、ユーチューバーとして動画投稿・ライブ配信を行う際に、コンピュータグラフィック(CG)のキャラクターを用いる、投稿者・配信者の総称である。もっとも、動画投稿・ライブ配信のプラットフォームは、YouTube以外にも多数存在することから、YouTubeという特定のサービス名を使用することを避けるため、Vチューバーと呼称される場合も少なくない。本稿では、Vチューバーと記載する。
 2016年12月に活動を開始し先駆けといわれるキズナアイがそうであるように、Vチューバーは、CGモデルを用意し、かつ、それを動かす環境を整える必要があることから、ユーチューバーに比べて参入障壁が高く、企業が運営主体である場合が多かった。その後、技術の発達・機器のコスト低下・サポート体制の充実により、個人が趣味の延長線上で参入するケースも多くなっているが、本稿では、企業が運営主体となる場合を中心に検討する。

2.Vチューバーの特徴

 Vチューバーの活動形態は、動画配信プラットフォーム上での動画投稿とライブ配信を中心になされる。VチューバーのCGは二次元の場合もあるが、3Dモデルの場合も多い。これらの外見を見る限りは、CGアニメや3Dゲームのキャラクターと大きな差異はないようにみえる。大きく異なるのは、アニメやゲームのキャラクターはあくまで作品内のキャラクターにとどまり、演者の情報も公表されており、演者がメディアでインタビューを受けることも少なくないのに対して、Vチューバーでは、基本的には、演者はその正体を隠して、メディアの種類を問わず、あくまでキャラクターとして活動することが求められることが一般的であるという点である。このため、Vチューバーの運営会社が演者と締結する業務委託契約において、Vチューバーを演者として担当している事実を秘匿する義務を負わせるのが一般的である。
 他方で、演者の過去の活動やインターネット上の痕跡から、演者の身元が判明してしまう事態も多発しており、運営会社を悩ませている。
このような実態を踏まえてか、間接的な形で演者を公開するケースや、ごく少数ではあるが、演者を初めから公開しているケースも出てきている。

3.運営会社と演者の関係

 Vチューバーの運営会社によって異なる部分もあるが、典型的な運営形態は、運営会社が、外部のクリエイターに、CGキャラクターの制作を依頼し、同時に演者を選出し、演者と業務委託契約を締結し、演者にVチューバーとして活動してもらう、というものである。完全台本で話をさせる場合もあるが、多くは、演者の裁量に委ねられている。このため、Vチューバーの活動は、演者自身の内面やこれまでの生き様を色濃く反映している場合も少なくない。Vチューバーのファンにもそのような、キャラクターと演者の密着性を当然の前提として受け入れる土壌が多くみられる。
 また、Vチューバーの演者は声だけでなく、モーションアクターとしての演技も求められるのが一般的である。とりわけ3Dモデルの場合は、光学機器や演者に取り付けたセンサーで、演者の動きをトラッキングして、キャラクターの動きにリアルタイムで反映させることが可能になっている。もっとも、この点に関しては一部のCGアニメでも、声優自身にモーションアクターを兼任させるケースもみられるため、Vチューバー特有の現象とまではい
えない。このような過程を経て生み出されたVチューバーをめぐる権利のあり方は、議論を要するところであろう。

4.Vチューバーの演者をめぐるトラブル

 Vチューバーの運営会社としては、いざ開始したVチューバーの人気が当初のもくろみどおりに上がらない場合、人気のてこ入れ策を検討せざるを得なくなる。この際、Vチューバーの運営方針を大幅に変更することになり、演者ともめてしまい、場合によって、演者の交替につながるトラブルにも発展しかねない。運営会社としては、演者はあくまで声優であり、モーションアクターとしての役割を演じているにすぎないという考え方から、演者をいつでも交替させることができるよう、業務委託契約を整えておく場合がある。
 他方、そのような環境を契約上整えておいても、ビジネス的観点も含め、実際に交替させることができるかについては別の問題がある。アニメ・ゲームのキャラクターの演者の交替においても、ファンが反発する場面がみられるが、Vチューバーについては、キャラクターと演者の密着性が当然の前提とされているためか、交替への反発が非常に強いことがある。実際に国内で発生した事例では、ファンの反発を前に演者の交替を断念せざるを得なかったといわれている。このタイプのトラブルは、最終的に演者の交替が実現するか否かにかかわらず、騒動がいったん表面化してしまうと、Vチューバーのキャラクター人気に大きな悪影響が生じてしまい、運営会社、演者、ファンのいずれも勝者たり得ない状況に陥りやすい。このため、運営会社としては、騒動になることを避けるため最大限努力すべきであるが、これには契約よりも日々の運用体制の整備が重要である。

5.外部Vチューバー起用時の留意事項

 Vチューバーの盛り上がりに伴い、企業が、外部のVチューバーに、自社製品・サービスのプロモーションを委託することも珍しくなくなってきている。他方で、企業がVチューバーを起用する際、どのように宣伝効果を見込んで依頼するかという点に関しては、Vチューバーの歴史が浅いことも手伝ってか、企業側も手探りの部分が大きいようである。単純に登録者数等で判断するのではなく、ファン層やライブ配信をしている場合は同時接続数Twitterトレンドなど多角的な情報を踏まえた判断が求められている。
 契約の留意事項としては、Vチューバーのイメージが悪化した場合に、その起用を見送ることができるよう、解除事由を網羅的かつ明確に補償条項とともに契約書上記載しておくことが重要である。Vチューバーのプロモーション起用の売り込み文句として、現実のタレントのように薬物使用や交通事故などの不祥事に巻き込まれないクリーンな存在であるという宣伝文句も聞かれるが、必ずしもそうとはいえないようである。Vチューバーは、外見はキャラクターと演者で異なるものの、両者は密接あるいは一体的にとらえられがちであることから、演者の不祥事がVチューバー活動に大きな支障となる可能性は否定できない。とりわけVチューバーはいわゆる炎上に巻き込まれることも少なくなく、一定期間の配信自粛やひどい場合は引退に追い込まれる事案も発生している。炎上のきっかけも本人の過去の悪事や差別的言動など明らかに本人に非がある場合のみならず、国際情勢に関連した発言が曲解される場合もあるため、事前調査で防ぐことが困難になりつつある。外部のVチューバーの起用時の契約においては、これらの事態も想定して、容易に起用を解消できるよう手当てしておくことが求められる。

執筆者:中崎 尚


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