【頼れる!おすすめ相談窓口のご紹介】1.フリーランス・トラブル110番―トラブル解決のための助言から和解あっせん手続まで。弁護士が無料でサポートしてくれる相談窓口
アートノト相談窓口では、いただいたご相談内容に応じて、適切な関係機関におつなぎしたり、弁護士等の外部専門家を紹介しています。
関係機関には、その事柄に関するエキスパートや専門家が直接対応してくれたり、具体的な解決策を提示してもらえる相談窓口もあります。
この新シリーズ「頼れる!おすすめ相談窓口のご紹介」では、アートノト以外にも皆さまの力や助けとなり得る相談窓口をご紹介します。
第一回は、フリーランスや個人事業主の方の心強い味方「フリーランス・トラブル110番」です。窓口の使い方や具体的な相談事例をじっくり伺ってきました!
フリーランス・トラブル110番とは?
フリーランス・トラブル110番は、厚生労働省が、公正取引委員会・中小企業庁と連携し、第二東京弁護士会に委託して運営している事業です。取引上、弱い立場に置かれやすいフリーランスが気軽に相談できる窓口として、2020年に設置されました。
フリーランス・トラブル110番の大きな特徴として、
・相談員である弁護士が紛争解決へのアドバイスを具体的に示してくれること
・和解あっせん手続を行なってくれること
・無料で利用できること
が挙げられます。
「仕事の範囲や報酬がはっきりしないまま作業をさせられる」「プライベートな呼び出しを断ったら仕事を回さないと言われた」「納品後数ヶ月経っても報酬を払ってもらえない」など、さまざまな相談に対応。法律の専門家の視点から具体的なアドバイスがもらえます。
直近の2024年10月現在の相談件数は月1,200件超で、相談内容は報酬の支払いに関するものが3割強。舞台・演劇関係者、カメラマン、デザイナーなど芸術文化に関連する職種の方からの相談対応実績もあるといいます。
和解あっせん手続
自分だけで相手方と交渉することが難しい場合は、和解あっせんの手続を利用することもできます。和解あっせんとは、第三者のあっせん人が当事者間の和解による紛争解決を仲立ちして助けること。裁判と違い申立てが簡単で解決までに要する期間が短く、審理は非公開。フリーランス・トラブル110番では、第二東京弁護士会仲裁センターの弁護士が相談者と相手方の話を聞き、利害関係を調整したり、解決策を提示するなどして和解を目指します。
和解あっせん手続の流れは以下の通りです。
1.申立て
相談者からフリーランス・トラブル110番に和解あっせん手続を申立て
2.呼びかけ
第二東京弁護士会仲裁センターから相手方に、和解あっせん手続への出席を呼びかけ
3.和解あっせん実施
通常は2時間程度。複数回実施する場合もある
第二東京弁護士会仲裁センターでは、申立てがあった案件のうち6割程度は相手方が出席して手続が進み、そのうち5割程度が和解等で解決しているといいます。相談者にとっては、第三者に間に入ってもらえることで心理的な負担が軽減されるのではないでしょうか。
フリーランス法施行後の変化
2024年11月1日、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化法)」(以下、フリーランス法※)が施行されました。フリーランスが安心して働ける環境を整備することを目的とした法律で、発注事業者には法律に基づいたさまざまな義務が生じます。
施行から約1か月半。フリーランスとして活動するアーティストや芸術文化の担い手の方々のなかには、「取引先のこの対応はフリーランス法違反なのでは?」「でも、どうやって相手と交渉すればいいの?」と悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
フリーランス・トラブル110番の事務責任者である山田康成弁護士にフリーランス法施行後の変化について、お話を伺いました。
山田先生 “9月下旬頃から、「この案件はフリーランス法に違反するのではないか」という相談が多数寄せられるようになりました。残念ながらフリーランス法の施行前に契約した案件のトラブルは適用になりませんが、「今後は不利な状況を変えていけるんじゃないか」「トラブルの解決手段がひとつ増えた」と期待が高まっていることを感じます。”
2024年11月1日以降に契約した案件でフリーランス法違反が考えられる場合、フリーランスは公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省に対して申出を行い、調査や行政指導を求めることができます。発注者が指導に応じない場合は、社名の公表や罰金が課せられることもあるといいます。
山田先生 “フリーランス・トラブル110番では、行政機関への申出手続に関する助言も行っています。申出手続はオンラインでも郵送でも行うことができますが、事前確認項目や入力項目が多いので事務作業が苦手な人はそれだけで尻込みしてしまうかもしれません。事前にフリーランス・トラブル110番にご相談いただければ、弁護士の視点から「その状況はフリーランス法第5条第1項に抵触します」といった助言ができるので、申出が少し楽になるのではないかと思います。”
トラブルの解決には、前述したように和解あっせんという方法もあります。どういった場合は和解あっせんを依頼し、どういった場合は行政機関への申出を行うといいのでしょうか。
山田先生 “ケースバイケースですが、話し合いで解決する余地がある場合や、証拠などが揃っておらず白黒はっきりつけられる状態ではない場合は和解あっせんが向いているのではないでしょうか。フリーランス法違反が明らかであるにもかかわらず発注者が話し合いに応じてくれそうにない場合は行政機関への申出を行うといいでしょう。フリーランス法ではなく独占禁止法や下請法、労働関係法令に抵触する場合もあるので、そのときは関係行政機関をご案内します。また、報酬の未払いなどで素早く解決したい場合は、簡易裁判所で少額訴訟を起こすのもひとつの手ですね。
芸術文化関係の仕事をされている方からは、「発注先との取引は今後も続けたいので穏便に進めたい」「大事になって業界内で噂になったら仕事がなくなるかもしれない」と心配される声もよく聞きます。個人的にはそんなに我慢しなくてもいいんじゃないかと思うこともありますが、相談者の希望を聞き取り、それぞれの方法のメリット・デメリットもご説明しながら、状況に合わせて適切な手段を提案するようにしています。”
芸術・文化関連の相談事例と対応
具体的には、どんな相談に対応可能で、どんな助言をしてくれるのでしょうか。アートノトに寄せられた芸術文化関連の相談事例を参考に、山田先生に回答していただきました。
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事例① 報酬の支払遅延(活動分野:演劇)
山田先生 “まずはメールなど後に残る形で期限を決めて支払いを催促することを提案します。それでも支払いがない場合は次のステップに進みます。契約書を作成していない点はフリーランス法第3条違反、報酬支払い期日を設定していない/期日内に支払いをしていない点は第4条違反と言えるので、行政機関に申出をすれば調査や指導の対象となります。また、私たちが和解あっせんに入ることも可能です。”
事例② 制作物の著作権侵害(活動分野:美術)
山田先生 “知的財産権に関する意識が低く、「こちらがお金を払ってデザインしてもらったんだから好きに使っていいはず」と考える発注者は少なくありません。でも、著作権は制作者に帰属しますし、著作権の譲渡契約をする場合はそれを踏まえた価格設定にする必要があります。この場合は契約書を作成していないようなので、理論的には差し止めは可能かと思います。ただ、いきなり訴訟となると大変なので、まずは話し合いでの解決を試みるのがいいのではないでしょうか。”
事例③ 依頼のキャンセル・延期(活動分野:舞踊)
山田先生 “フリーランス・トラブル110番にも似たような相談が数多く寄せられています。契約する際に「キャンセルや延期になった場合にギャラを保証する」という取り決めができればいいのですが、首を縦に振る発注者はあまりいないでしょう。残念ながら、フリーランス法でもキャンセルの場合の取り決めは明示事項に入っていません。フリーランス法第5条に定められた「受領拒否」や「不当な給付内容の変更」に該当する可能性はありますが、「急なキャンセルはフリーランスにとって死活問題になる」という意識を社会に広めていく必要もあるのではないでしょうか。ただ、発注者から「この期間はほかの仕事は受けるな」と言われていて、それが1か月など長期による場合は、損害賠償請求ができる可能性も高くなります。”
事例④ 契約の途中解除/ハラスメント(活動分野:美術)
山田先生 “業務委託契約の場合は原則として中途解約が可能です。ただし、「(発注者にとって)不利な時期に解除した場合」、損害賠償責任を負うことが民法第651条第2項で定められています。ハラスメントをするような発注者の場合、損害賠償をちらつかせて引き止めるということもあるかもしれませんね。でも、今回のケースでは制作費が払われておらず、解約する正当な理由があります。そこを突破口として交渉できるのではないでしょうか。また、ハラスメントが深刻な場合は、損害賠償請求を行うことも検討するとよいでしょう。”
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個々の案件に対し、法律に基づいた具体的なアドバイスや提案がいただけるようですね。最後に、山田先生からアーティストや芸術文化の担い手の方へのメッセージをいただきました。
山田先生 “芸術文化分野の方はご自身の仕事に熱意や誇りを持っている方が多い印象です。その分、お金の話をすることにためらいを感じる場合もあるでしょう。でも、自分の仕事の価格は自分で決めていいのです。自分が適正だと思う価格を設定し、相手にきちんと伝えられるのが本当のプロと言えるのではないでしょうか。
フリーランス法では、取引条件の明示義務が課せられています。このなかで、発注者側も受注者側も悩むのが「役務の内容」ではないかと思います。特に芸術文化関係の場合は、どのような成果物を求められているのかはっきりさせることが難しいですよね。それをしっかりと考えて相手と交渉するのも、仕事のひとつです。フリーランス法をうまく活用して発注者とコミュニケーションを取り、気持ちよく仕事していただけたらと願っています。
その上で、トラブルになってしまった際はぜひお気軽にフリーランス・トラブル110番にご連絡ください。みなさまがトラブルを解決できるよう、サポートしたいと思っています。”
フリーランス法の施行によって、これまでフリーランス側が泣き寝入りしていたようなトラブルも、法律に基づいて交渉できるようになりました。弁護士のサポートを必要とする機会は今後ますます増えていくのではないでしょうか。フリーランス・トラブル110番では、経験豊富な弁護士が親身になって相談に乗ってくれます。アートノトと並行してご活用いただければと思います。
(※フリーランス・トラブル110番への取材は2024年11月21日に行いました)
(取材・執筆:飛田恵美子)
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