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Q65 ギフティングサービス

エンターテインメント・ロイヤーズネットワーク編
エンターテインメント法務Q&A〔第3版〕
株式会社 民事法研究会 発行

より許諾を得て抜粋
協力:エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク


Question

 ライブ配信サービスで、視聴者が配信者に対し、デジタルアイテムを送ることができるギフティングサービスを始めたい。サービスの設計にあたり、どのような点に留保すればよいか。

Point

①    ギフティングサービス
②    資金決済法の規制内容
③    その他の留意点


Answer

1.ギフティングサービス

 (1) ライブ配信におけるギフティングとは
 ゲーム実況(Q15参照)、やってみた動画(Q29参照)、Vチューバーによる動画配信(Q45参照)や、お笑い、スポーツなど、日々さまざまなジャンルの動画が配信されており、こうした動画配信を生放送(ライブ)形式で行うサービスも盛んである。ライブ形式という動画の臨場感に加え、視聴者が配信者に対し、コメントを送り、これに配信者が動画内で応えたりすることにより、リアルタイムに双方向性のコミュニケーションが図れることが、ライブ配信の特徴としてあげられる。総務省情報通信政策研究所の「令和元年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」(2020年)によれば、ニコニコ生放送、TwitCasting(ツイキャス)などのライブ配信型の動画共有サービスの利用率は9.9%であり、10代や20代に限れば利用率は20%前後に上る。
 ライブ配信では、視聴者が配信者に対し、コメントを送ることができるほか、ライブ配信事業者から購入したりサービスの利用に応じて入手したデジタルアイテムを贈る機能が実装されていることが多く、このように視聴者から配信者に対しデジタルアイテムを贈る行為をギフティングや投げ銭と呼ぶ。ライブ配信の視聴自体は無料でできるサービスが多いが、多くのサービスで、配信者が、広告やデジタルアイテムの販売によりライブ配信事業者が得た売上の一部の分配を受けることができるしくみが導入されている。
 ギフティングを行うと、視聴者のユーザー名がアニメーションと共に動画配信画面に表示されたり、通常であれば時系列ごとに表示され、新たなコメントの投稿や時間の経過により表示されなくなってしまうコメントが一定時間固定表示されるといった効果が得られることがある。その結果、ギフティングを行った視聴者のコメント等が他の視聴者や配信者の目に止まりやすくなり、配信者からユーザー名やコメントを読み上げてもらうなどの反応が得られやすくなる。また、ギフティングの総数や相当対価の多寡などが、視聴者の応援度や貢献度として視聴者のランキングとして表示されたり、配信者のランキングとして表示されることもあり、視聴者が自らのランキングや応援する配信者のランキングを上げるため、ギフティングを行うこともある。
 (2) ギフティングのしくみ
 
ギフティングのしくみはサービスごとにさまざまではあるが、視聴者はまず、ライブ配信事業者が販売するポイントを購入し、購入したポイントをデジタルアイテムと交換するしくみとなっていることが多い。なお、ポイントやデジタルアイテム(以下、「アイテム等」という)は、ゲームのアプリケーション(アプリ)内通貨やアイテムと同様に資金決済に関する法律(資金決済法)上の前払式支払手段に該当しうるので、Q64も参照されたい。
 視聴者が配信者に対し、贈ったアイテム等の対価の一部は配信者に分配されることが多いが、こうしたしくみを導入するにあたり、法的に留意しておくべきことを解説する。

2.資金決済法上の規制内容

 (1) 為替取引に関する法規制
 ギフティング機能が、視聴者から配信者に対し、「隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動するしくみ」に該当する場合、当該機能は「為替取引」として資金決済法上の規制を受けることとなる。
 「為替取引」とは、「顧客から、隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて、これを引き受けること、又はこれを引き受けて遂行すること」(最決平成13・3・12刑集55巻2号97頁)をいうと解されている。「為替取引」(銀行法2条2項2号)を行うには原則として、内閣総理大臣から銀行の免許を受ける必要があるものの(同法4条)、平成22年に施行された資金決済法は、銀行法の定めにかかわらず、一定の場合に銀行以外の者が「資金移動業」として「為替取引」を行うことを認めた(資金決済法2条2項)。もっとも、「資金移動業」を行うには、内閣総理大臣の登録を受ける必要があるほか(資金決済法37条)、履行保証額の供託(同法43条1項)等所定の規制にも服することとなる。
 そこで、ギフティングが資金決済法の規制対象となる「為替取引」に該当するか否かが問題となる。
 (2) ギフティングの為替取引該当性
 
配信者が、ギフティングを受けたアイテム等に比例した金銭を受領することができるとすれば、視聴者は、配信者にアイテム等に比例した一定額が送金されるとの認識でアイテム等を購入し、ギフティングを行い、ライブ配信事業者も視聴者のこうした主観を認識することとなるため、ライブ配信事業者が、視聴者(「顧客」)から、アイテム等の購入により得た収益の一定額を特定の配信者に送金するという依頼(「資金を移動することを内容とする依頼」)を受け、これを引き受けたとして、ギフティングが「為替取引」に該当すると解される可能性がある。
 そこで、アイテム等の購入による収益の一部を特定の配信者に送金してほしいとの視聴者の依頼を引き受けたと解されるのを避けるため、ギフティング機能を提供しているライブ配信事業者は、利用規約やアイテム等の購入画面において、収益の一部を配信者に分配するものの、分配比率はライブ配信業者の裁量により決定するものであり、確定金額を配信者に分配するサービスではないことを明示していることが多い。

3.その他の留意点

 適切なギフティングサービス提供のためには、何より利用者に対する丁寧なサービスの説明が求められる。利用規約において必要な事項を定めておくことはもちろんのこと、アイテム等の購入やギフティングに際しても丁寧な説明を行うことが望ましい。
 また、応援している配信者からのギフティングのリクエストに応じたいがため、また、ランキングの上位に入り注目を集めたいがため、過剰なギフティングをしてしまうことが問題視されることがある。特に未成年者が高額のギフティングをしてしまうことが、国内外で大きく報道されることがある。こうした過剰なギフティングを防ぐためには、一定期間に購入または贈ることができるアイテム等に上限を設けたり、決済手段をクレジットカード等成年者のみが利用可能な手段に限定するなど、サービス提供者における工夫が求められよう。

執筆者:若松 牧


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