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We're not alone.③伊豆山編

 前回はこちら。


 秘宝館をあとにし、時刻は昼時。予め調べてあった老舗の洋食屋へ。
 いたってよくあるカツカレーだが、味の深みはかなりのもので、めちゃうま。
 「他のメニューも食べればよかった」とはいつき氏の談だが、俺も本当にそう思う。

 この日、いつき氏は奥さんと共に熱海にやってきていたが、「秘宝館?は、ちょっと…」という奥さん(以降ちな氏)は別行動中で、なんでもひとりで熱海ならではのグルメに舌鼓を打っているとのこと。
 食事を済ませた我々は、ちな氏と合流すべく、熱海駅に車で向かう。

 せいぜい10分程度の距離なのだが、車は渋滞にはまり、ちっとも動かなくなる。昼飯を食った店からであれば、歩いた方が早いくらい。
 逸れる脇道も見当たらず観念し、じりじりと車を進ませていく。

 しかしまあ――集まってひとしきり挨拶を交わすとすぐに秘宝館へ赴いた我々なので、ようやく落ち着いて話ができる時間が生じたともいえる。
 とりわけ、いつき氏とずーきん氏は今回が初対面――互いに、それまで気になっていたことなどをきっかけに、雑多な話をしている。

 ふたりの会話を聞きながら、俺は前の車のナンバープレートを見るでもなく、いつき氏と旅した長野のことを思い出したりしていた。
 あの日も、最初の目的地(人柱)に向かうまでの移動時間に、実に様々な話をして、SNSの投稿から想像していたアレコレについての答え合わせをするような時間がつづいた。そういうのが楽しいんだよね。
 ゆえに道行きがいかに牛歩であろうと、この場合そんなに悪いものではないのである。

 結局、ちな氏にも歩いて我々の方に向かってもらい、渋滞のさなか、車に乗り込んでもらうことができた。
 ちな氏曰く、駅周辺の人混みの程度も尋常ではなく、駅から歩いてくるのにも一苦労だったみたい。
 週末の熱海、恐るべしである。

 駅周辺を抜けると車は流れ出し、一行は名所の伊豆山(いずさん)神社に向かった。
 神社の入口はものすごい急勾配――とっさに、いつき氏から以前聞いていた「暗峠」(くらがりとうげ。大阪と奈良の県境。国道でもっとも傾斜がキツい)のことがアタマをよぎった。むろん彼も同様。
 雨で濡れた斜面にヒヤヒヤしつつもなんとか登りきり、神社の境内に車を停める。

 伊豆山神社には奥宮があり、そこへは車では行けず、小一時間歩いていく必要があることを前情報として知っていた。
 本殿をお詣りしたあと、社務所にいた人に奥宮について訊ねると、行程には部分的に非常に険しい箇所も含まれるので、雨天の今日は行かないほうがいいかも…とのこと。

 旅程をどこまで綿密に計画するかは実に人それぞれなわけだが、自分に関しては――今回であれば「秘宝館」というざっくりとした目的がひとつあるだけで、その後のことはほぼ何も考えていないのが常である。昼飯の店に目星を付けていただけ、今回は上出来というものである。
 というわけで伊豆山神社の奥宮に行くのが難しいことが判明した時点で俺の持ち札はすでになし。さてどうするかって段で、ちな氏の尋常ならざる情報収集力が火を吹く。

 食事処・甘味処にとどまらず、御朱印集めもしているという彼女の手札に隙はなく、次に赴くべき場所をいくつも提案してくれた結果、我々は来宮(きのみや)神社へと向かうことに。ちな氏、頼もしすぎる!

*

 さて、伊豆山神社のある伊豆山地域といえば、およそ今から3年前、大規模な土砂災害のあった場所としても、我々の記憶に新しい。ニュース等で「いずさん」という響きを耳にした方も少なくないだろう。

 道すがら、当時の被害がいまだ色濃く残る地点を通過した。

※このストリートビューは、2023年の6月に撮影されたもの。ストリートビューは過去に撮影された同地点の様子を遡ることが出来るので、災害の前後で見比べると、その被害の甚大さが見て取れる。

 個人的にも思うところの多い出来事であり、しかし現場を目の当たりにするのはこの日がはじめてで、それは改めて、胸が締め付けられるような光景だった。


 次回へつづく。

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