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きちんと「さようなら」を伝える

金魚のブラック君が息を引き取った。昨年8月に金魚掬いで迎えて、1年の寿命だった。
モネが亡くなって、その代わりに溺愛していた金魚2匹だった。金魚のことを何も知らないのは、神様に与えられた命に失礼だと思い、いろいろ勉強した。その特性やさまざまな病気など。
1匹目レッドちゃん(息子命名)は数ヶ月で松かさ病で亡くなった。ブラック君はそれでも元気だった。数日前までは元気に泳いでいたが、涼しくなったからか、底でじっとしてることが多くなったなと感じていた。
今朝、やはりじっとしていた。餌にもあまり反応しない。息子が水槽越しにツンツンとしたら勢いよく泳いだ。そして、数時間後に、そこで横たわっていた。突然のことで、全く信じられなかった。松かさ病のレッドちゃんは持って数日の不治の病を2週間近く頑張った。しかしブラック君はあっけない最後だった。

手に取り、テッシュで包む。血が少しついていた。穴あき病だったかもしれない。しかし軽症なはずだ。庭の土に埋める。息子に一言、「ブラック君死んじゃったよ」と伝えた。息子はびっくりして、いやだー!と泣いた。一緒に埋める?ときいたら、怖い、とまた泣いた。

土に埋めた。綺麗な姿だった。
そして、無音の水槽だけが残った。

夕方、息子は泣いた。そして夜と、「寂しいなぁ・・」と呟いた。大人の様にひきずることはない。子供はその瞬間に生きている。しかし、8ミリフィルムのように流れて映る情景に、ブラック君が現れるのだろう。

夜。大切な友人の依頼の仕事も手付かずで、風呂に入る前に、どうして自分はここまで堪えているのだろうと感じた。 
まず、「別れ」に対して感情の振れ幅が大きすぎる。天国のクジラを10年17作、亡くなった命を弔うために描き続けるのも、別れに対して人一倍「恐れてる」からだろう。無論、大切な家族を失えば、みんな当たり前の感情ではあると思うが、僕が、あまり他の人がやらないようなテーマを続ける意味は、その恐怖から起こっているのだと思う。

そうして、その恐怖や大きな喪失感、寂しさを「めいいっぱい向き合いたい」のだろうと思った。なるほど、ちゃんと向き合いたい、そして弔いたい。自分を超えて他者のためにも。どこかの巨大な次元にある、得体の知れないエネルギーまたは竜巻に、ちゃんと向き合って、その命の意味を知りたい。

理由はある。
僕は幼少の頃から動物をたくさん飼っていた。父がよく迎えていたからだ。田舎でもあった。しかし、小さかったこともあってか、その死に別れに立ち会うことはなかった。うさぎも、亀も、鳥も、猫も、犬も。インコは野良猫に食べられ、猫はどこかに逃げたり、里親に戻された。番犬たちは、いつの間にかいなくたった。父が、その死に目に立ち合い、子供たちには見せなかったのだろう。

父方の祖母が亡くなったのは小学6年のときだった。火葬場に向かう親戚の車を、同級生の従兄弟と2人で見送った。僕は、従兄弟にとって育ての親である祖母の最後を見せまいと、彼を守るつもりでいた。明るく振る舞ってキャッチボールをした。みやげた空は、とてつもなく青く、届きもしない遠くの火葬場の煙が見える様だった。
きっと、彼のためではなく、僕自身が「別れ」を拒否してたのかもしれないと今では思う。

中学生のとき、溺愛していた愛猫チョビが、あくる朝消えた。父に聞いたら「捨てた」と言った。頭が真っ白になったが、それ以上何も言えなかった。家庭不和の中、父は泥酔して家族に当たり散らかした。無論、チョビにも。僕の心は、深く闇に落ちた。その数ヶ月後、家出をして、一家は離散した。
※その20年後、臨終の母に「社宅で飼えなくなったチョビは里親に戻した」と聞く。その後再会した父が、肋小屋で一緒に暮らしていた猫は「チョビ」だった。

中学生の卒業式も、すぐに帰った。別れの挨拶なんて絶対にしたくなかった。高校の卒業式は受験を理由に拒絶した。予備校もさっさと辞めて、大学に潜り込んだ。そこでも別れを告げずに、休学したり、復学したりしていた。
つまり人間関係の歪みが生まれていた。

過去を振り返るのはここまでにしよう。つまり「別れ」にしっかりと向き合い、「さようなら」と伝えること。これが残りの人生に課せられた使命なのかも知れない。そしてかならず「出会い」がある。
出会いと別れ、はじまりと終わり。その循環を俯瞰で見れば「どちらも同じ」ということを禅の教えでは伝えている。

死別だけではない。別れとは、自己パーソナリティとの別れもある。依存している自分、執着している自分とも、しっかりと向き合い、ありがとう、さようならと伝えることが大切なのだろう。 

目の前からいなくなった。それが全てではないことを、何度も何度も繰り返して、感じていくのだろう。また忘れて、悲しんで、思い出して、また忘れて。。

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