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父と2人でジブリの「紅の豚」を映画館で観たんだ。
この世の中には2種類の人間がいる。
それは「映画が好きな人」と「映画にさほど興味のない人」だ。
もちろん、それは“小説”でも“音楽”でも“美術”でもなんでもそうかもしれないけど、今回は映画の話だ。
いや、そうじゃない。訂正する。「なんでもそうかもしれない」なんて曖昧なことを書いたけど、例えば“マクドナルド”とか“スマートフォン”とか“パイナップル”とか、そういうものになると、そこにはもちろん「好きな人」と「そうでもない人」がいるけど、そこにはほぼ確実に「それを嫌いな人」が現れる。
アートに関しては、好きな人と興味ない人はいるけど、「嫌い」と明確に言える人は少ないだろう。もしも「絵画が嫌いだ!」という人がいたら、それは自分と絵画との関係ではなく、自分と絵画との間の「出来事」による記憶が憎いのだろう。
で、こうしてすぐに話が脱線するのが僕の悪いクセだけど、もう一度言おう。
この世の中には、「映画が好きな人」と「映画にさほど興味のない人」がいる。
☆
僕は映画が好きだ。
どのくらい好きか?と言われても数値化できないけど、こちらのサイトによると、日本人の平均では、1年間に「映画館で観る-1.7本」、「自宅で観る-11.9本」なので、この平均値よりは多分倍以上は観てるので、おそらく「けっこう好き」な方だと思う。
アートなどの趣向全般そうかもしれないけど、特に「映画好き」って、家族の影響されることが多いと僕は思っている。あ、今の若い世代にはあまり適応されないかな。
僕らくらいの世代だと、親が映画好きだと、物心ついた時から、自宅のテレビで金曜ロードショーとか自然に観てたし、映画館に連れて行ってもらったりしてたのではないだろうか?
ちなみに、僕が初めて映画館に行ったのは、記憶にあるのは4歳の頃だと思うけど、「スターウォーズ・ジェダイの復讐」だ。
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それともう一つ、これも4歳か5歳の頃に見た「E・T」。
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「吹き替え」なんてない。だけど「字幕」なんて4歳の子供が読めるはずない。でも僕は子供ながらにとても面白かったし、興奮したのをはっきりと覚えている。
まあ、今思うと、自分の「映画初体験」と「セカンド体験」が、映画史の歴史に残るような超大作だったので、インパクトは大きかったのだろうと思う。僕が映画好きになるわけだ。
しかし、自分も親になり、子育てして思ったけど、4歳の子供をスターウォーズに観に映画館に連れて行くか?
三つ違いの兄がいたから、ひょっとしたら仕方なく連れて行ったのかもしれないけど、父は父で、4歳の僕に「映画」ってものを教えたかったのかもしれない。
そんな父は、とても映画好きだった。
晩年も映画ばかり観てた。ただ、その頃には劇場にはあまり足を運ばなくなって、自宅のPCで観てたと思う。
そのPCは、兄が父のために用意したMACのデスクトップで、相当数の映画ライブラリーを入れていたし、父は近所のレンタルビデオでDVDを借りてよく観ていた。
スターウォーズに始まり、家でも一緒に映画を観たり、レンタルビデオ店しょっちゅう映画を借りるので、一緒に観ていた。
しかし、それは子供の頃の話で段々と成長するに連れて、親と一緒に過ごす時間は減る。
まして我が家は僕が中2の頃から家計は火の車で、母が病気だし、僕は両親を憎んでいたので、とにかく関係は希薄というか、奇妙なものだった。顔も合わせない日も多かった。
だけど、僕が中2か、中3の頃だったと思う。
どういう経緯でそんなことになったのか覚えていないけど、2人でスタジオジブリの「紅の豚」を観に行った。
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映画好きと書いたが、アニメ映画ももちろん大好きで、僕はジブリ作品はとても好きだった。
近所にレンタルビデオ屋があったおかげで、とにかく映画だけはよく観ていた。しかも、兄の友人がそこでバイトをしてた頃なんて、有名無名に限らず、色んなビデオを持ってくるので、中学生の頃は暇があると音楽か映画か漫画という三択だった。
父はかなり漫画も好きだったけど、アニメ好きだったという記憶はない。ジブリ作品を面白がっていた記憶はない。でも、なぜか2人で紅の豚を観に行った。
まだ、当時は父の方が自分より背が高かった。並んで、混み合う劇場を出る光景とか、妙にはっきりと覚えている。その頃、父のことが以前より「小さく」見えるようになっていた。
それは僕の身長が伸びたせいか、父を不甲斐なく感じるようになったからなのか、それともその両方なのかもしれない。
「面白かったな?」
「うん」
映画館を出て、そんな言葉を交わした。
映画はとても面白かったけど、父とそれについて話したいと思わなかったし、そもそも普段から親と話したくなかったので、僕は感想を特に述べず、口数は少なかった。
だからせっかくの良い映画の時間だったけど、なんだか帰り道は気まずい空気だったことをよく覚えている。
そして僕はそのことに対して、すごく“後悔している”のだと、数日前に気づいた。
数日前、だ。
実は最近、妻がジブリ作品にハマっていて、図書館でちょくちょくDVDを借りてくるので、僕もちょいちょい観ている。
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この「天空の城ラピュタ」なんて、もう自分の人生で10回以上は観ていると思う。しかし観るのは10年ぶりくらいかな。息子がまだ小さかった頃に何度か一緒に観た以来。
ストーリーを知り尽くしているのに、なんでもないシーンで涙が出る。どんだけ涙腺が緩いんだって話だ。
「親方!空から女の子が降ってきた!」
物語の始まりの方で、「パズー」が放つこんなセリフにすら、思わず涙が出たし、ワクワクした。冒険が、始まる。
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しかし、その後に観た「魔女の宅急便」の方が泣いたな…。なぜだろう。
実は今まで、この映画で涙したことなかったんだけど、今回は泣ける泣ける…。実は今まで、一度も「魔女の宅急便」で深い感情移入をしたことはなかった。
映画は変わってない。なのにこんなに感動するって、僕が変わったのかもしれない。どんな風に?はて?
で、先日これを観た。
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この映画は泣けるってことはなかったけど、観ていて途中で
「そういえば、親父と2人で観に行ったなぁ」
とぼんやりと思い出したのだ。
そして、映画館を出た後の帰り道の、気まずい空気を思い出した。
母の病気こと。借金とか、ギリギリのお金のこと。洗濯とか掃除とか、日々の生活のこと。親戚とのトラブルのこと。
家はとにかく問題だらけで、僕は14、5歳という多感な時期であり、基本的にいつも苛立っていたし、目に映る全てを憎んでいた。なのに父親と2人で映画? なんで行ったんだろう?そこは思い出せない。誘われたのだと思う。そして、観たかったから行った、という感じだろうか。
「お父さん、面白かったね!」
本当は、はしゃぎたいような気分だったのだ。ワクワクして、胸が温かくなる物語だったのだ。誰かと共有したかったし、父と喜びを分かち合いたかったのだ。
でも、僕はスネていた。ひねくれて、いじけていた。
当時は親とか社会とか、自分を取り囲む環境すべてを“憎む”という行為を通して、弱々しく、情けない自分に必死に『喝』を入れて、倒れないように踏ん張っていたような気がする。
素直になんて、なれるわけなかった。
映画を家で観終わったあと、すごく後悔していることに気づいたのだ。父と一緒で映画館に行ったのは、それが最後だった。
今なら言える。
「お父さん!面白かったね!」
父はあの時、どんな気持ちだったのだろう。
終わり
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