Vol.55【人生の選択】スペイン巡礼おばさん奮闘記 番外編
バイオリズムの上げ下げの中で、大きな決定をせざるを得ない場面が何度かある。
私の場合、第一回目が25歳でオーストラリアへワーキングホリデーに出かけた事。そして、第二回目が今年(2023年)スペイン巡礼に出かけた事である。
オーストラリアワーキングホリデー
看護師を4年で退職してオーストラリアシドニーへ飛び立つ時、キャセイパシフィックの香港経由1年オープンの旅客券を36万円で購入したのを覚えている。
オーストラリアのワーキングホリデーVISAは当時6ヶ月期限で、渡航後もう6ヶ月更新ができたので、1年間は働きながらオーストラリアで生活する予定を立てていた。働いて貯めた50万円をオーストラリアドルに両替して飛び立った。
初めての海外一人旅でテンションが上がっていた事もあり、いきなりduty free shop でセリーヌのバッグを購入してしまった。どうしてなのか今でもよくわからない。生活費としてでは無く、なぜ、高級バックを買う選択をしてしまったのか?
シドニーでは、語学学校に通いながらオーペアという子守りのバイトやJapanese restaurantでウェイトレスをしたりして生活費を稼いだ。おかげで日本で貯めていたのと同じくらいの金額も預金でき、オーストラリア半周旅行も楽しむことができた。
当時のセリーヌのバッグは、30数年たった現在、守り神のようにクローゼットの片隅に鎮座している。
スペイン巡礼
コロナ禍で熊野古道デビューをしてから、いつかはスペイン巡礼に行きたいと思っていた。その「いつか」が突然訪れたのは2022年12月。FBを眺めていてサンティアゴ巡礼対談グループが目に飛び込んで来た。グループ入会後、あれよあれよという間に2023年6月にスペイン巡礼デビューしてしまった。
「波」ってあるんだなと思う。
サーフィンはした事ないが、「いい波」が来たら乗っかった方が展開が早い。思い悩む時間があれば行動に移した方が手っ取り速く素晴らしい景色を眺められる。
ピレネー山脈越えはお天気に恵まれ、本当にびっくりする程の大自然を満喫できた。膝や腰の痛みに悩まされる事なく最後の114km巡礼道を歩き、巡礼証明書をいただくことができた。この成功体験を得られたのは、一歩踏み出す決断をすることができたからである。
桜を放つ女性
福岡市美術館のインカ・ショニバレCBE氏の「桜を放つ女性」の頭部は地球儀になっており、女性の権利獲得のために尽力した世界各国の女性たちの名前が記されている。女性へのエールを込めた本作品では、アフリカン・プリントを生地にしたドレスを作り、ドレスを着た女性像がライフルを撃っている。銃口からは桜の枝が飛び出し、桜の花びらにはさまざまな色が含まれている。色彩の豊かな外観を持ちつつ、女性差別への対抗と権利向上への協働が込められている。(福岡市美術館HPより)
突然のアート鑑賞を盛り込んだのは、コロナ禍で近場の美術館を訪れた時に非常にインパクトを受けたのと、インカ・ショニバレCBEが私と同年生まれの女性であるという親近感にも似た感情を得たからである。ありえなかった過去と新たな未来を再構築しようとする彼女のこの作品にとても刺激を受けた。
あの選択をしたから
オーストラリアワーキングホリデーとスペイン巡礼、似て非なるそれぞれの経験をするに至った遠因には、大きな喪失感がある。心の喪失を埋めるように肉体を駆使して敢えて自分を苦境に立たせた。苦しくても、怖くても、1人で突き進んできたからこそ自己を肯定出来る素晴らしい景色を眺められた。
オーストラリアに旅立った時は本当に初めての体験ばかりで、よく生きて帰れたなと思う事もある。ホームステイの次に選んだフラットのシェアメイトにお金を持ち逃げされた事も、今となっては代え難い経験だ。社会的に無知な状況だった私に、身を引き締めるようにと喝を与えてくれたおかげで自立できた。日本に居たままでは出会うはずのなかった人とも出会い、別れも経験した。生きる方法は一つではない。様々な肌の色、生活環境、いろんな考え方があるという事を教えられた。それまでの凝り固まった思考を柔軟に揉みほぐす事ができたのが、本当に有難い収穫である。
スペイン巡礼道を歩いていての気づきは、「無」の境地である。自分の足だけで道を歩くというシンプルさからくる思考の解放。雨の日も風の日も、暑さにも負けず歩き続けた結果得られたものは、年齢も国籍もジェンダーも全てニュートラルに受け入れられる心地良さ。本当にあの選択をしたからこそ今は自由になれている。
きっとこれからも同じ選択を繰り返しながら生きて行くような気がする。
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