聖なる石の街に、恋する芸術家たち
大理石シリーズ最終編3部目です。
カッラーラ街から30キロほど海沿いに南下したところ。その名を「聖なる石の街」、イタリア語で「ピエトラサンタ」と言う。「大」をいくつ付けても足りないほど大好きなところ。
街名から察するように、ここも、やっぱり大理石とともに生活している街。工房があり、博物館があり、芸術家も、住んでいる。
この街に恋し移り住んだ代表的な芸術家に、コロンビア出身のフェルナンド・ボテロがいます。
ポテっと小太りの可愛らしい絵や彫刻が特徴。メインストリートに面する教会には、彼の手によるフレスコ画で描かれた天国と地獄の絵があります。ガイコツや悪魔までも小太り。
硬いゴツゴツした大理石を、思わず、手で触りたくなるような、丸みを帯びた、滑らかな美しい曲線に生まれ変わらせる、彫刻家の安田侃(Yasuda Kan)氏も、ピエトラサンタで活躍されています。
日本とイタリアを行き来されているようで、いまは日本で展示会が開催されているようです。
ちょっと前のピエトラサンタは、素朴な地元感が満載で、その雰囲気も大好きだったけど、いつの頃からか、お洒落なアートギャラリーが増え始め、それにともない、美しいショーウインドーのお店も増え、街がアートな感じ。
一方では、お母さんが子供の手を引き散歩していたり、おじさんたちが広場の一角にたまって政治やらサッカーやらの話題で盛り上がっていたり、若者がアペリティフを楽しんでいたりと、生活の場も普通にある。
観光の比率が高いと、地元人は他所に引っ越しをして、街がまるでテーマパークのようになり、本来の街の良さを失ってしまうことがある。
でもピエトラサンタは、観光と地元の二面性が、ほどよく融合している、居心地のいいところ。
アートとの偶然の遭遇
毎年、夏になると、通り、広場、教会、教会内部に作品を展示し、空間全体を作品とするインスタレーション展示が開催されます。
展示会に自らの意思で足を運んで鑑賞するのではなく、インスタレーション展示は、鑑賞するぞ!という心持ちも、ナニもなく、たまたま、そこにいったら、
「お!? なんだ。なんだ。」
というような、偶然の遭遇が楽しい。
子供達も楽しそうだし、大人も子供心に返って、インスタ映え撮影をしているしで、マンウォッチングも面白い。
彫刻家エマヌエレ・ジャンネッリ氏の作品。
& それを真似るヒト。
展示作品と、その場に居合わせた人たちが、一緒になり、ひとつの空間を作っているようだ。
白い大理石の街に、ミスマッチなカラフルな作品がよく映える、原色使いの作品群。一見、プラスチック製に見えるけど、実は、大理石や、鋳物で作られています。
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Photo by Futura Art Gallery •
PIETRASANTA
ピエトラサンタ街の周囲も、カッラーラ街のように大理石工房があり、鋳物工房があります。そこに依頼し作らせたものばかり。仕上げにアーティストが筆を入れます。
興味のある方はこちらから。6分以降に工房での製作風景を見ることができます。
インスタレーション展示をするだけでなく、アーティストとピエトラサンタの職人を組み合わせることで、街に活気がでるし、訪れる人も楽しいし、展示に奥行きが出る。
街のアートギャラリーと、ピエトラサンタ街役場との共同企画。どこでもできそうで、できなさそうな企画。これを毎年行なっているピエトラサンタ、素敵です。
2021年「青いバナナ」
今年はイタリアを代表するポップアーティストのジュゼッペ・ヴェネツィアーノの作品。展示テーマは「青いバナナ」。アンディ・ウォーホルの作品をもじっています。
この巨大な青いバナナも、ベースは大理石。青色の樹脂で覆っています。なんて贅沢な。。
青いバナナ地帯というのがあり、西ヨーロッパで特に経済的、人口的に発展しているバナナ型の地帯のことらしい。
Photo by Wikipedia
青なのは、欧州のテーマカラーだから。
60〜70年代はそうだったかもしれないけど、いまは、コロナもあったりで、経済的にも、人工的にも、発展しているとは、ちょっと言い難い。そこで、あえて新生「青バナナ」をテーマモチーフにしたらしい。
「神曲」をマックで制作中のダンテ
教会をバックにスケボーに乗っている
ローマ法王様
一見ドルチェ&ガッバーナ。
実は美術家コンビの
ギルバート&ジョージ。
ふふふ。
あはは。
へぇー。
ポップで軽快なモチーフに、ブラックな風刺を効かせた作品が目白押しで、感嘆詞を発しながら、作品から作品へと渡り歩く人たち。
「青いバナナ」を目の前にして、欧州がどうのこうのとか、腕組みをして、眉間に皺を寄せて考るというよりは、単純に、みんな、楽しんでるって感じがいい。
たぶん、それも、アーティスト、ジュゼッペ・ヴェネツィアーノの、裏メッセージなのかもしれない。
2020年「タトゥー(刺青)彫刻」
ちなみに、去年の展示会は、大理石彫刻家ファビオ・ヴィアーレ氏の作品。広場前のダヴィデ、インパクトありすぎ。ポップでファンキーでロックで、打ちのめされた。
タトゥー(刺青)の研究もすごくて、本物みたい。しかも、大理石の表面に色を塗っているのではなく、刺青を肌に施すように、色を大理石に埋め込む技法を発案し、色付けてます。
奇抜なタトゥー彫刻だけではありません。立方体の大理石をくり抜いて作った網目模様のキューブ、マントのひだだけで人体を表現した彫刻、紙のような大理石飛行機など、奇想性と美が共存している作品群。
どれも、強烈な個性。ピエトラサンタの展示会で、その存在を知り、だれぞや。と調べてて、見つけたこの作品。
ミケランジェロの作品である「ピエタ」を彫り、キリストの代わりに、マリアさまに抱きかかえられている肌の黒い男性。彼は、18歳のときにナイジェリアからイタリアへ移民として入ってきた生身の人間です。
より良い生き方を求めて、移民や難民という形で、欧州へと渡ってくる人達。マリア様は欧州そのものを現し、我が子に背を向けることなく、我が子を守る姿として表現されています。
大理石彫刻家ファビオ・ヴィアーレ。これからも尖った作品を作り続けて欲しい。
そして、素晴らしいアーティスト達を知り得る機会を与えてくれる、ピエトラサンタのインスタレーション展示。来年はどんな展示なのか、楽しみです。
大理石というと、西欧の彫刻や建造物を想像される方が多いのではないでしょうか。なんか遠いところの話しのようだけど、今でも、石が採石されるところ、石とともに生きる村、石とともに生きる芸術家、と、実際に石とともに生きている人たちと接すると、過去から現在、そして未来に繋げることの大切さを感じます。
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます。
ここで紹介したアーティストのオフィシャルサイトはこちらです。
2021年展示のジュゼッペ・ヴェネツィアーノ↓↓↓
2020年展示のファビオ・ヴィターレ↓↓↓
大理石の山の3編はこちらから。
カッラーラ山は、宝の山よ。
大理石の山 2部目
うまうまラードのコロンナータ村
大理石の山 3部目
聖なる石の街に、恋する芸術家たち(本編です)