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2024年 Homo Faber n.2 * 世界の工芸家が創造する、美の意識。 Journeys to Afterlife.

ベニスのサン・ジョルジョ・マッジョーレ島で開催された、Homo Faber(ホモ・ファーベル)の様子をご案内しています。今回は2回目です。

1回目はこちらです。

Birth(誕生)→Childhood(幼少期)→Celebration(祝賀)→Inheritance(継承)→ Love(愛)→ Love(結びつき)→ Journeys(旅)→ Nature(自然)→ Dreams(夢)→ Dialogues(対話)→Afterlife(死後の世界)

前回は(誕生)から(結びつき)まで辿ってきました。さて、お次は。

Journeys(旅)

新しい空気を吸い、目にし、聞き、味わい、その土地の匂いを感じる「旅」は楽しいものです。日常から離れた世界に飛び込むことで、視野も広げてくれます。

コロナ禍では世界が停止してしまい、自由に身動きすることができませんでした。どんなに旅に出たいと渇望したことでしょう。

大きな地球儀を制作中。1600年代に修道士であり地図製作者だったベニス出身のヴィンチェンツォ・マリアコロネッリが執筆した地図製作技術書を参考にしているそうです。

すべて鏡文字で銅板に彫っていきます。

印刷すると鏡文字が反転します。

それに彩色をし、地球儀に貼っていきます。

この文章も鏡文字。
圧巻です。

地球儀にどうして、ダンテとフィレンツェ大聖堂のクーポラがあるのかしら? 

文頭にあるアントニオ・マネッティは、人文主義者、建築家、数学者、さらに天文学まで扱ってしまう、ルネッサンス時代ならではの多才な人物。レオナルドダヴィンチやミケランジェロが誕生する前の、初期ルネッサンスを代表するひとりです。

ダンテの『神曲』に書かれている世界を、物理的に表そうと数多くの計算を残しています。フィレンツェ大聖堂のクーポラを建てた建築家フィリッポ・ブルネッレスキの伝記作家でもあります。ちなみにアントニオ・マネッティ、ダンテ、ブルネッレスキらはフィレンツェ出身です。

前置きが長くなりましが、これらのキーワードから読み解くに、この地球儀はダンテの「神曲」をもとに制作しているのです。

この気の遠くなるような作業をしているのは、Leonardo Frigo(レオナルド・フリーゴ)さん。どこかで聞いたことがある名前。

以前にインタビューを受けて頂いたパリスさんがコラボレーションした作家で、彼女の製作したヴァイオリンに装飾を施した方でした。いろいろなところで繋がっていて面白いです。

どうしても「フィレンツェ」という言葉に反応してしまうので、地球儀のところで深掘りし過ぎました。次に進みましょう。

Nature(自然)

自然界はときに、人の想像を超え、驚きとインスピレーションを与えてくれる存在ではないでしょうか。「自然」をテーマにした空間では、自然の素材を用いたり、自然から着想を得た作品が展示されています。

素材の持つ美しさを活かした作品群。
こちらは次回からの
「日本の工芸家」でも案内します。
極彩色の海のなか。
様々な生き物が共存する海の世界。
紙と陶器で表現された白い森。
森の破壊、汚染、気温の変動など人間の悪事で
犠牲にしてはならない小動物達。

作品を一点だけ展示するものもあれば、世界の作家の共演でシーンを構成する展示方法もあり。

例えば、韓国、ドイツ、ベルギー。

それぞれが自然を表現しています。個が結びつき、ひとつの世界を構成する有機的な自然界を、守っていかなければなりません。

イメージを起こすラフ制作
ロウ(ワックス)で形を作り
パーツに分けて鋳造します。
穴のところに
宝石を埋めていく石留
すごい迫力。
ブレスレットです。

この部屋での実演はカルティエでした。「英語は分からない」と黙々と作業をする、朴訥としたフランスの職人さんでした。

Dreams(夢)

夢というタイトルから、柔らかいような甘いような、ファンタジーな世界を勝手に想像していましたが、完全に裏切られました。

旧プールの水面には顔のない女性の姿が浮かび上がり、周囲には世界の仮面が展示されています。

「夢」のイメージからこの空間を想像できた人は、いるのでしょうか!?

日本には能面がありますが、世界の仮面も、その国の伝統やその土地で利用される素材などの特徴をよく表しています。作家達は、自国のアイデンティを取り入れながら自分なりの表現方法で仮面を制作しています。

この空間を担当した方の意向とは異なるかもしれませんが、暗闇にぼうっと浮かび上がる仮面は、怖いものが多かったりして、個人的には悪夢のなかを彷徨っているようでした。

Dialogues(対話)

師匠と弟子の対話。デザイナーと職人の対話。異なる世代の対話。対話から新しいアイデアが生み出され、コラボレーションへと発展した作品が展示されています。

世界最高峰と言われるメゾンの職人の方々も実演をしており、職人と訪問客の対話が行われています。

奥行きのある部屋。
なんと、柱には金箔が貼られています。
ロブマイヤーのコレクション
1925年のパリ万博に出展された作品
IWCシャフハウゼン
歯車の仕組みを説明してくれます。
モンブラン
もはや芸術品。
サントーニ
靴への色付けを実演中
卵の殻。
フランスのモザイク作家。
卵の殻が割れた形をベースに、
独創性のある作品が出来上がります。

ホモ・ファーベルの母体となるミケランジェロ財団の活動のひとつに、デザイナーと職人を繋げる「Doppia Firma」活動や、熟練の職人と学んだばかりの卒業生を繋げる「Homo Faber Fellowship」活動があります。

将来を担う人材を教育するプログラムです。これらの活動で実った作品も展示されています。

Doppia Firmaは、デザイナーと職人のコラボレーションという意味で、ふたりの署名(Doppia Firma)と名付けられたのでしょう。

フランスの建築・デザイン事務所である
Atelier Baqué Molinié(アトリエ バケ モリニエ)

高級タペストリーとカーペット製作を専門とする
Atelier Pinton(アトリエ・ピントン)
Le 19M(ル・ディズヌフ・エム)
シャネル(CHANEL)の職人技術を集結させた
工房(アトリエ)群が入居しているそうです。

この部屋を見学しているときに、履いていたパンツの裾の糸が取れていることに気づき困っていたら、Le 19Mで訪問客に刺繍を教えていた若いスタッフが針と糸を持ってきて、『僕が縫ってあげるよ。そのまま立ってて。』とスイスイと縫ってくれました。なんとも恥ずかしい話しですが、感謝感謝です。

このエピソードからも感じられるかもしれませんが、この部屋の空気感は軽くて生き生きとしていて、活力があり、次世代の明るい展望を感じました。

陶芸家&装飾アーティスト

左側の陶器は、装飾アーティストであるノエルさんのお祖母様が使っていた、鋳鉄製の料理鍋にヒントを得ているそうです。

こちらは透明な卓球台。15ミリのクリスタルガラスが台になっています。

Impatia(インパティア)

Adriano Design(アドリアーノ・デザイン)

インパティアはミラノを拠点に、ビリアート台やカードゲームなど大人の遊び道具を製造しています。アドリアーノ・デザインはふたりの兄弟によってトリノに設立されたデザイン会社。ほかの作品も気になり、公式HPやインスタグラムを覗いてみると、面白いものを製作しています。

コンテンポラリーなガラスのオブジェを得意とする
ガラス吹き作家と
カラフルな色使いのアーティストとの共演。

Afterlife(死後の世界)

はじめのおわり。現世での人生を終え、あの世へ旅立った世界を表現しています。

世界中のさまざまな文化における死をめぐる儀式や伝統。死すべき運命にインスピレーションを得た装飾作品などが展示されていました。

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会場を訪問していたときは、わーすごい。素敵ー。と感情が先に立って作品を鑑賞していましたが、noteに投稿するにあたり、じっくりと各部屋のテーマ性と特徴を読み返してみて、なるほどと納得したり、そうだったのか!と改めて知ったことなどがあり、一回の訪問で2度美味しい体験ができました。

わたしにとってのnoteは、モノづくりを通したイタリアをご案内することで、自分も勉強になり知見が広がり、いろいろな方と出会える場でもあるので、美味しいところばかりです。

2025年は、自分の時間を見直し、もう少し投稿数を増やしたいです。

「一年の計は元日にあり」と言いますが、新年は「Homo Faber * 日本の工芸」として日本バージョンをお届けします。

来年もよろしくお願いします。
良いお年をお迎えください!

いがらしようこ










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イタリアのモノづくり | ようこ
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