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2024年 Homo Faber n.1 * 世界の工芸家が創造する、美の意識。Birth to Love.

2年おきに開催される展示会をビエンナーレと呼びます。ホモ・ファーベルもそのような展示会のひとつで、ベニスのサン・ジョルジョ・マッジョーレ島で開催されます。数分とは言え、本島から海を渡らなければ辿り着けず、現実から切り離され特別な空間へと向かうような高揚感です。

上記地図の9番が入り口

チケットコントロールから最初の展示会場へと向かう通り道は、教会の中庭。菱形に鏡が貼られている壁はフォトジェニックな演出。歴史ある建造物をモダンにアレンジする才に長けているイタリアに、初っ端から出会いました。

ラテン語のHomo Faber(ホモ・ファーベル)は、自然の素材を用い道具を作ることを表します。ファーベルはfabbro(鍛冶屋)の意味もあるので、人が鉄という素材を使い始めたところから、「モノを作る」の意味に転じたのかもしれません。

2年前は、なんとなく興味を惹かれて、なんとなく訪れて、予備知識もなしに飛び込み、すっかり心を鷲掴みにされてしまいました。今回は心を弾ませての訪問です。

今回の展示は、人生の『はじめとおわり』をテーマにしています。

Birth(誕生)→Childhood(幼少期)→Celebration(祝賀)→Inheritance(継承)→ Love(愛)→ Love(結びつき)→ Journeys(旅)→ Nature(自然)→ Dreams(夢)→ Dialogues(対話)→Afterlife(死後の世界)

Birth(誕生)

修道院の中庭の回廊には、ピンク色の帯が曲線を描いて巻かれており、ここをぐるりと一周歩くようになっています。

回廊の壁には、ルネッサンス時代に遊ばれていたゲームボードをお題に、世界中の刺繍作家の作品が60枚展示されています。1枚づつにローマ数字で番号が振られており、遊び方は「すごろく」と同じようです。

帯がゆるゆると流れ行く先は、誰にも分かりません。どこかのパネルに辿り着き、そこから人生の最初の一歩が踏み出されます。

Childhood(幼少期)

それぞの音を奏でるスピーカーの通路を通り抜け、現れるのがChildhoodの部屋。

おもちゃがぎっしり詰まった。賑やかで楽しい空間。

つがいの動物達はどこに向かっているのでしょう。

きっと、ノアの方舟。

子供達はもちろん大人達も子供心に戻り、触れたり、覗いたり、近づいたりと、幼稚園にいるような賑やかさです。もちろん、既成のものは一つとしてありません。

Celebration(祝賀)

誕生日、入学、入社、結婚、出産など、人生のなかで訪れる、さまざまな「おめでたい」シーン。パーティのように華やかにセッテイングされたテーブルには、世界中から集められた珠玉の作品が、溢れんばかりに並べられています。

テーブルが鏡になっており、さらに華やぎます。

 ベニスと言えばベネチアングラス。
真骨頂を発揮しています。
フィレンツェでもメディチ家が発展させた
高級手工芸品の伝統は受け継がれています。

よく見ると、小人が支えています。小さな容器と小さなスプーン。どのように使われのでしょう。お塩などを入れて、招待客はスプーンで掬って各自のお皿に振り入れます。

皿の上でかしましく集う動物達。
うさぎが蹴りを食わしています。
ポット・オン・ポット

じっと観察すると、天使の笛の先には小鳥が、グラスからはワインが顔に向かって注がれています。細かい!これ、ガラスです。

ひとつひとつ丹念に観察していたら、あっという間に時間が経ってしまう竜宮城のようなお部屋。

壁も絨毯も長椅子も、たぶん展示用のテーブルも、この日のための特別仕様で、美しい教会の食堂がさらに美しくお化粧されています。

食堂に飾られていたヴェロネーゼ作「カナの婚礼」は現在はルーヴル美術館所蔵。あるべきところにはコピーが。これも歴史のひとつです。

Inheritance(継承)

光が燦々と差し入る華やかな空間から、光の落された薄暗い空間へと踏み入れたので一瞬暗闇。目が慣れるまでしばし立ち尽くすと、天井にはモノクロ動画が映し出され、赤を基調にトーンダウンされたテーブルには作品が並んでいます。

家族経営のなかで親から子へと受け継がれてきたものには、道具、技術、精神性などが挙げられるかもしれません。それらが形となり、それぞれの表現方法で作品が作り上げられています。

天井の映像は、世界の職人10家族を描いたビデオインスタレーション。職人がものを作り出す音をBGMに部屋を見て回ります。

これはなんでしょう?
蛇口の取手です。
フランス作家の手によるもの。
フランスと日本の共演。
ゴールドリーフの盆栽はフランスから。
ジョウロは日本から。

実は今回のホモ・ファーベルには日本の作家さんも多く出展しています。今回は『世界の工芸家』ですが、次回は『日本の工芸家』を投稿する予定です。

丹念に緻密に作られた額縁。やはり、フィレンツェの額縁工房マセッリさんの手によるものでした。

これ、すべて手彫りです。お父さんと息子さんの作品です。2021年にインタビューをしたときから3年が経っています。トンマーゾさんが修復師として、額縁職人として成長しているのが手に取るように分かります。


Love(愛)

『愛』という言葉で思い浮かぶものは? 恋愛、家族愛、友人同士の友情、同僚間の絆、人によりさまざまですが、人が生きていくために必要な感情であることは確かです。それを表現することは必ずしも簡単ではありません。

これから続くふたつの部屋は愛をテーマにしており、さまざまな愛を伝える試みをしています。

最初は「求愛」の部屋。自然光が満たす誘惑の庭には、花々が咲き誇っています。「愛の告白」に、どんな花を選びますか?

気の遠くなる作業。

このあたりから高級ブランドが登場してきます。

ヴァン クリーフ&アーペル


Love(結びつき)

2つ目の空間では、文化や国を超えた愛と絆の「結びつき」を表現しています。

ウフィッツィ美術館所蔵の
ボッティチェッリ作「春(プリマヴェーラ)」。

「愛」がテーマですものね。この素材はなんだと思いますか?

実寸は幅12センチ X 高さ16.5センチの小さな作品です。

こちら、同じナポリの職人さんが制作したもの。愛する二人と、彼らを取り囲む羽根のあるキューピッド。キューピッドも「愛」の象徴です。

貝殻に浮き彫りを施すカメオ。手のひらにすっぽりと収まります。さきほどの「春(プリマヴェーラ)」も同じ技法です。

超絶技巧のサヴォアフェール(職人技)を実演することで、完成作品を見ただけでは想像するのが難しい一つ一つの工程を訪問者は知ることができ、作品に懸ける愛情が心に響いてきます。

ヴァン クリーフ&アーペルの傑作、置き時計です。葉が揺れ動き、ハスの花が咲き、妖精があたりを見回す動きをします。

目がきらきら、頭がくらくらしてきたので、ここで小休憩。

今回の展示会は、ディテールにも本当にこだわっています。

前回の展示会のときのカフェテリア。

今回の展示会のときのカフェテリア。

今回は、すべての空間が、ホモ・ファーベル尽くしです。壁や通風口はもちろん、梁まで色が統一してあります。

イタリアやフランス式で表現すると、まさに『シャポー(chapeau)』。「帽子」を頭から取る仕草で「すごいです。脱帽しました。」という意味になります。

あ、日本語の「脱帽」も「帽子を脱ぐ」です。シャポーから来ているのかもしれませんね。

やはり1回の投稿では無理でした。次回はジャーニー(旅)から続きます。

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最後までお読み下さり、
ありがとうございます。
次回もお越しくださると嬉しいです。
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2022年のホモ・ファーベル


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イタリアのモノづくり | ようこ
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