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1000年前の美しさの定義。

時代ごとに美しさの定義は変化していくけれど、いま私たちが見ても、美しいと思えるもの。そんな普遍的な美しさも、また存在する。

ロマネスク時代の美の基準とはなんだったのか。1000年前に遡ってみたいと思います。ルネサンス文化が生まれる、ずっと前のはなし。

古代ローマが崩壊し、分裂、侵入の繰り返しで、暗黒といっても過言ではない、つらい時期を過ごしたヨーロッパ。

目の前が何も見えない、真っ暗な世界のなかに、一筋の希望の光として、誕生したのがロマネスク。

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トスカーナ州には約400堂のロマネスク教会が残されているそうです。城壁に囲まれたルッカ街の周囲だけでも、こんなにある。

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ロマネスク時代の教会は、背が低く、窓が小さく、石積みの素っ気ないシンプルさが特徴。

重い扉を開けて教会に入ると、目が慣れるのに時間がかかるような薄暗い空間。

正面、両脇、祭壇後ろから差し込む光が、まるで神の後光のように、厳かな空間を作ります。

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教会は、神の宿る家。「天と地。」「神と人。」の境目。体から精神を解き離し、深い信仰へと導くところ。自然の力を借りて、天国への扉へと近づくところ。

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ロマネスク教会に込められているもの

* 天は神の住まうところなので、天空を描く宇宙を表現すること


* 太陽の光が差し込む空間を作ること

* 数字をシンボル化して美しい音楽のように表現すること


ざっくり、天文学、数学、幾何学、音楽。いま日本でもちょっと話題になっているリベラルアーツ(自由七科)の4科が、ロマネスク時代の装飾や空間にすごく重要だったんです。

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天は神の住まうところなので、天空を描く宇宙を表現すること

キリスト教には、「こうあるべき」「そうあるべき」な決め事や考え事があるけど、これは、少しづつ形成されていったもの。宗教会議を開いては、議論し決定されていったものです。

ときは、325年。ニカイア公会議。この公会議で、復活祭の日を、春分の日のあとの満月から数えて、最初の日曜日とすることが定められました。

とういことは、春分の日を知ることがすごく大切。羊座が始まるのが3月21日。昔のカレンダーは星座。星座を読んで、春分の日を知る。

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ときは、999年。スペイン滞在中にアラブ文化に影響を受け、幾何学、数学、天文学、音楽を学んだ、ローマ教皇シルウェステル2世が、Sol Aequinoctialis(春分の日) に、祭壇裏の後陣から朝日が差し込むように教会を建立すること。と、教会の位置を定義づけしました。

なぜゆえに?

朝日が祭壇側から差し込むと、信者はその神聖な光を浴びて、司教さまのお言葉を通して神と対話ができるから。

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サンミニアートアルモンテ教会の地下祭壇。
ミニアヌス聖人の聖遺物が祀られています。

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外に周ると小さな窓があり、
ここから地下祭壇が照らされます。

実際に測量をした研究者がいて、その結果、ロマネスク教会の大半で、祭壇側は東に位置し、正面扉は反対側の西に位置しているそうです。誤差は0.7度ですって。

1000年前に、そんな正確な測量ができたんですねー。すごいですねー。びっくりです。

太陽の光が差し込む空間を作ること

ただ光が入るんじゃないんです。演出するんです。

演出日は、春分の日、復活祭、夏至、秋分の日、冬至、クリスマスなど、教会により異なります。

その日は、光が一定の窓から教会内部へ入り込み、一定の場所を照らすようになっています。

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ミケランジェロ広場より、もっと上の、小高い丘の上にあるサンミニアートアルモンテ教会。6月の夏至に、一大スペクタクルを見ることができます。

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美しく装飾された床面。

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よく見ると星座があります。

正面右側の窓から光が差し込み、床面の真ん中に光が差します。これだけでもすごいのに、太陽の動きとともに、扉側からゆっくり祭壇側へと光が歩いていくのです。

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ちゃんと目的地へ向かって。




13時頃に、光が到着するところは?

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蟹座!

さあ、今日から夏ですよ!というシグナルです。ちゃんと、夏至に蟹座へ光が当たるように、床面装飾も、窓の位置も、計算され建設されていたんです。教会完成1207年。

この発想! どう計算すればこんなに正確にできるんだろう。1200年から、800年も変わらず夏至になると、蟹座が照らし続けられてるって、なんか、もう、想像できない。

2018年に一般公開され、わたしも参加してきました。神秘的のひとこと。12時頃から教会に入り、光が入るのを見守っていたけど、ぜんぜんなんにも起こらない。うんともすんとも言わない。

雲が多い日だったから、無理なのかなぁ。と居合わせた人たちと半分諦めかけた、そのとき! 

突然! 本当に、突然、スポットライトの光のように、「カッ!」と眩しいくらいの白い光が、窓から差し込んできて、ゆっくり着実に、床面を光が動き、本当に蟹座の上に光がくるんです。

固唾を飲む。とはこういう事か。普段はおしゃべりなイタリア人も、みんなシーンとなり、光の動きに魅入ってました。

フィレンツェの大聖堂でも、夏至に見ることができますよ!こちらは、床面の一定の丸に、すっぽり光が入ります。

日時計の意味、グノモンとも呼ばれ、イタリア語ではニョーモーネ Gnomone。自然のすごさと、人間の叡智を感じるイベントです。

数字をシンボル化して美しい音楽のように表現すること

ロマネスク教会は、いろいろなシンボルで覆われています。

例えば「4」という数字。

* 世界を構成する4元素:水、土、空気、火


* 人間を構成する4元素:水は血液、大地は身体、空気は呼吸、火は肌。

* 四季:春夏秋冬

シンボル化すると、四角形は、大地や現世を意味します。

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丸は宇宙。永遠、そして、神の世界を意味します。

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サンミニアートアルモンテ教会の内部は、四角形や丸をたくさん使って装飾されています。

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サンミニアートアルモンテ教会の正面(ファサード)の装飾。丸の中に星または花のようなデザインのシンボル。

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数字の8は、横に置くと無限大の意味。無限→宇宙→神。1週間は7日間。8日目は神の日とも言われています。とても神聖な8という数字。フィレンツェの洗礼堂は、だから八角形をしています。

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それぞれの形(シンボル)に意味があり、数学や幾何学をベースに、リズムよく、美しく装飾されている壁面。

彫刻もまた趣があって素敵です。これは、また別な機会に、書くつもりです。

欧州を訪れて、ロマネスク教会に出会うことがあるかもしれません。そんなときに、頭の片隅に、ちょっとだけ、こんな話しを置いておけば、丸とか四角を探したり、差し込む光に思いを馳せたりと、ただ見るだけとは違う、感じ方ができるかもしれません。

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