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[作品を体験すること、みえてきたこと]

コロナ禍の下、10月に入り大型台風の季節が再来しました。各地に被害がないよう祈るばかりです。

さて、前回のブログ[展覧会から生まれる「物語」]では、作品からインスピレーションを受けて異なる何かを創る、鑑賞のひとつのかたちを紹介しました。この記事は、トルテさんの「美術館をいろいろな視点で楽しむ記事5選」でも採り上げていただきました。こちらで紹介されている、いろいろな方のアートをみる視点はとても素敵です。

今回は、7月のブログで紹介した[作品を体験すること、視点が変わること]の続編体験記、街中に一時的に出現するテンポラリーな作品から「みえてきたこと」を綴ります。

素通り可能な生命体

街中で展開される作品は、美術館に展示される作品とは違って、「みに行こう」と思っていなければ辿り着けないものもあると思います。
鑑賞者にとっては、オリエンテーリングのような発見の楽しさと、素通りしてしてしまったときの落胆感をもたらす存在です。
今回訪ねた川俣正さんのインスタレーション《BankART Temporary》(BankARTⅥ「都市への挿入」の一部)もそのひとつのように思いました。

この異様な姿に気づかないのは、不思議ですよね。

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目的地に向かって自転車で道路を走っていた私は、作品に気づかず通り過ぎました。
作品がまとうのは見慣れた工事フェンスです。真横に突然現れた異物を、自分の背より低い視線は日常の続きだと認識したのでしょう。作品はこの辺りのはずと、来た道を振り返って初めて、作品の存在に気づいたのです。

工事用フェンスで覆われた《BankART Temporary》は、全体をみるとジブリ映画に出てくる巨大な生き物のようにも、未知の生命体の巣のようにもみえました。陽の光を受けて、うごめいているように感じたのかもしれません。
離れた場所からみると、非常に不安定なもののようにもみえました。
近づいてフェンスの内側をのぞけば、精緻なほどきっちりと丸管が組まれ、本物の工事現場のようでした。

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一時的にアートが挿入された都市で

立ち止まった交差点は、ちょうどY字路で、《BankART Temporary》の右側には美しくデザインされた近未来的な高層ビルが見えます。左側は昭和の薫りが漂うちぐはぐなビルが軒を連ねる通りです。
何度か通ったことのある交差点ですが、2つの通りが持つ空気の違いに今までまったく気づいていませんでした。

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左/作品の右側の通り、右/左側の通り

この分岐点からしばらく作品をみていると、急速に開発が進む横浜馬車道エリアの、美しく整備された街並みに息苦しさを感じてしまいました。
さらに、ここではない都市にも同じように息苦しいところがあると気づかされたのです。
これは、薄々気づいていたことがコロナ禍のもとで明るみに出て、すでに自分たちがさまざまなネットワークの下にあることを突きつけられた感覚と似ていました。真綿で首を絞められるような日常に慣らされつつある「今」、何から考えようか、そんな感覚です。

整然さと雑然さという空気の違う2つの通りの中州に、忽然と現れた巣のようなもの。不安定にみえてコントロールされたもの。
今、この場所に、このインスタレーションがあったから、私はそこに今の状況を重ねて鳥肌が立ちました。川俣さんがこの時期に、このインスタレーションをこの場所へ設置した意味を勝手に妄想したのです。
同時に、ほかの人がこのインスタレーションを体験して、何をみたのか、何を感じたのか、知りたくなりました。

今回は、街中で一時的に展開する作品の力が強いときに、みる者の視界と意識が環境ごと持っていかれた体験を記しました。
《BankART Temporary》は建物の内部もまるごと作品です。ただ私には、街中に息づく“外側”から受けたインパクトがことのほか強く、ここでは“外側”のみ採り上げました。

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BankARTLifeⅥ「川俣正 都市への挿入」のこと

このときに、この場所で、この材料を使った川俣さんの考えは、プロジェクトの公式サイトでご本人が語られています。
また、川俣さんの作品は、制作プロセスから完成、そして撤去までの一連の過程が作品となる「ワークインプログレス」がベースになっています。ここで採り上げた建物の“外側”も、展覧会が始まって設置されていきました。
今回のプロジェクトの制作記録も公式サイトで詳しく説明されています。
公式サイト→http://bankart1929.com/life6kawamata/

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BankART1929主催 BankARTLifeⅥ「川俣正 都市への挿入」フライヤー
※プロジェクトは10月11日(日)まで、横浜市の3会場で開催中。

多くの人は、工事が終わり、現代的で洗練され清潔で優雅な建物の空間に囲まれ、その中で都市での生活を満喫する。
現代は、ますます不浄なものや汚く危なっかしい場や物事がブリーチアウトされ、無臭の空間が広がっている。セキュリティーの名のもとに、全てがコントロールされた管理社会の中で、身を潜めて暮らすことが、自由を確保する唯一の手段であるかの様に。

BankARTLifeⅥ「川俣正 都市への挿入」パスポートより

このプロジェクトはまもなく閉幕です。“外側”も会期の終了とともに日常へと戻ります。この一時的な作品が、これからも街やみた人に何かしらの影響をもたらしていくのか、考えてみませんか。私も時間をおいて、同じ場所に立ってみたいと思います。                      

                                  アートハッコウショ
鑑賞ファシリテーター/ハッコウ係 染谷ヒロコ

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