平塚市美術館「こどもたちのセレクション」エピソード⑦
宮川慶子さん『聞こえる』(2015年 h39.5cm 石塑粘土、油彩)は立体作品です。
(平塚市美術館さんと、ワークショップができなくなったコロナ禍の2020年に制作した動画シリーズがあります。そちらでこの作品もご覧いただけます)
https://www.youtube.com/watch?v=Pjt891BM20Y&t=198s
2015年に平塚市美術館で「ペコちゃん展」が開催されました。数名の作家さん方がペコちゃんをお題に作品を作って展示されるという、なんとも贅沢な趣向を凝らした展覧会で、その時に作られた作品の1つです。
3回1クールで実施している「赤ちゃんアート」の時は、だいたい2回目に展示室に行くことにしています。ペコちゃん展の時は「赤ちゃんアート」の1~2歳の子たちと、そのきょうだいの上のお子さんたちと鑑賞しました。
子どもと同じくらいの背丈のペコちゃん人形に抱きつく子どもたちが続出!(触っていい人形なので大丈夫)
そんなペコちゃん効果か、子どもたちはとてもリラックスして展示室で過ごしていました。やなせたかしさんが描いたアンパンマンとペコちゃんの作品にも大注目でした。
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●ぐずったらどうする?
この作品も、吸い寄せられる子が多いです。
0歳11ヶ月 ぐずっていたのに笑顔になりました。動物が好きみたいです。
1歳1ヶ月 一番好き じっと見ている 何度も何度も行く
マイフェイバリットな作品に出会えてよかった~
私の手がける鑑賞会では、スタッフも関わるので、多少のぐずりなら退室しないで少し粘りましょうとご家族に伝えています。ギャン泣きでなければ、展示室をめぐるうちに、お気に入りの作品に出会えて笑顔に変わります。すると親子ともに「楽しかったね」の気持ちで帰ることができます。美術と幸せに出会ってほしい!
個人で美術館に行った時は、泣いたらすぐ退散!ですから、子育て世帯にとって美術館主催の鑑賞ツアーは、本当に心強くありがたいです。
1歳4ヶ月 走りよって指さして笑った
1歳6ヶ月 走ってはいけないのですが、走って行き声をあげて喜んでいました。何度も見に行きました
思わず走りたくなる気持ち、わかります~ ちょこっとなら、その気持ちを大切に、きつく止めたり叱らないであげていただいています。でも作品に触ってはいけないのでパッと抱っこしてくださいね。
私にとって、もう1つジレンマなのが「触らせてあげられない」ということ。
1歳 1ヶ月 手を伸ばして「あーあー」と言っていた。これが一番反応よかった
手を伸ばしてくれている姿を見るにつけ、触らせてあげたいなって思います。
布作品や工芸品などの時は、触れる代用品を用意することもあります。
美術館によっては「触れる展示」があります。すっごく楽しくて嬉しいのですが、1~2歳で美術館デビューするお子さんたちには、まず「触れない」展示を経験してもらう方が、後々、触れない美術館に行った時にトラブルが少ないと感じています。
デビューで触れる経験をすると「こういうところでは、なんでも触っていいんだ」という学びがインプットされてしまいます。初めにインプットされた経験を微調整したり修正するのは、小さい子、特に1~2歳の子にとっては結構しんどいことなのです。
3歳以上くらいになると、TPOがわかったり、「作品は大切にしようね、だから触らないようにしようね」がわかるので、触れる美術館経験からスタートしても大丈夫かなと感じます。
昨今、3Dプリンターで遺跡や美術作品を保存する動きも活発なので、触って鑑賞できる精密な複製作品を集めた展覧会が、近い将来、実現するのではないかしら?
そうしたら乳幼児の鑑賞も、視力の低い方々の鑑賞も、もちろん視覚で鑑賞している大人の人にも、感性に広がりをもたらす鑑賞になりそう、と期待。
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●言葉の発達と鑑賞
1歳 3ヶ月 色んな動物に見える様子を様々な角度から楽しんでいた。ニャンニャン・パカパカなど
1歳 8ヶ月 わんわん と大興奮
そうなんですよね~、四つ足動物を見たら全て「わんわん」「にゃんにゃん」と言う独特な時期があるんです。
乳児の鑑賞では「言語の発達」と鑑賞がとても関連しています。語彙が爆発的に増える時期など、鑑賞でお話ししてくれることが増えて、親御さんも嬉しい驚きとともに過ごしていらっしゃいます。
そしてこのお子さんのように「オノマトペ」を多用して鑑賞するのも、乳幼児期の特徴。
ご家族へのガイダンスの際、「オノマトペで応答してあげてくださいね~」とお伝えしています。そんなあれやこれや、小さいお子さんと鑑賞するときにご家族がラクで楽しくなるようなガイドを、配布している資料に書いてお知らせしています。
4歳 色がきれい かわいらしい ねこ?やぎ?
これくらいの年齢になると、この作品の妖しさに気づきます。「可愛い」と思って近づくと、なんだか様子が違う。爪や牙などのディテールに着目して、考え始めます。
発達に伴って、いろいろな気付きがある。
私たち大人が、昔読んだ小説を数十年経ってから読み直した時、過去に気づかなかったことに気づくように、子どもたちも成長とともに鑑賞で感じ取ることが変わっていく。そんな変化も愛しい、子どもたちとの鑑賞。
(本稿は美術館ご担当者様に確認いただき掲載しております)