「アートケアだより」バックナンバー紹介 2005年7月号
今年20周年を迎えた「アートケアひろば」のバックナンバー紹介。2005年7月号でご紹介したTさんは、現在に至るまで、アートフレンドシップ協会を支えてくださっています。少しだけ近いところでお互いの人生の歩みを知っている、なにかしら助け合ってきた、そんな仲間って本当にありがたいですね。
今回、掲載するにあたりご連絡したところ、Tさんからメッセージをいただきました。
「思えばあの頃はただ少しでもアートに触れる機会を作ってあげたいという思いだけで、ふたりを連れてアートケアに通っていました。反応が薄かったり、ホントに楽しいのか??なんて迷ったり悩んだりだったけど、結局かなりしっかり根付いていた、という感じです。子育ての種蒔きは芽が出るまで時間がかかるんですね…」
現在、Yくんは現在、大学院でデータサイエンスを専攻、Eちゃんは美大の環境デザイン学科で建築を専攻しています。Eちゃんは、毎日課題のために『ものづくり』に励んでおり、『毎日がアートケアみたい』と言っているそうです。
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「アートケアだより」2005年7月号
今月はYくん4歳のお母さんTさんにお話を聞いてみました。築30数年の平屋に住むTさんは人の輪がつながる素敵なパワーの持ち主。思いおこせば3年前(20年前、開始当初のことです)、郵便局にアートケアの案内を掲示したとき、真っ先に電話をかけてくれたのがTさんでした(当時は近隣の郵便局で掲示してくださったのです)。そのとき妊娠していた第2子のEちゃんも2歳に。Yくんが幼稚園に入り、親子の関わりも少し変化が…。
●頭でわかっていても、はっとするまで悩み続け
Tさん:(2歳クラスに来たEちゃんに)E、今日は本当に楽しかったねー。絵も歌も絵本読みの時間も1時間半、すごくのってたもの。最近やっと下の子のために何かする場所へ行くようになって、 やっぱり上の子と全然違うって実感しているところです。
冨田:それはどういうふうに違うの? YくんはTさんが妊娠していた2歳の頃から、お母さんとのつながり感が表れている、長~いテープを使った表現が多いよね。
Tさん:「心のへその緒だよ」って話してくれたよね。Yは サークルや習い事で集団に入っていく時、臆することなくとりあえずトライとはならないの。私から離れず見ていることが多い。行くのはいいんだけどやらない。だから私もイライラして「やったら」って背中を押してしまったこともあります。お母さんたちに「やらないのに懲りずに来てたね」って労われたりして、ほんとよく懲りずに出かけてたなぁ。Eは親も子も心配なく外へどんどん出ていく感じ。きょうだいって みんなこんなに違うもの?
冨田:違うね~。どんな面がどれくらい違うかはいろいろだけど、ほとんどのきょうだいが違う。
Tさん:これだけ違う子を2人育てられて、ほんとおもしろいなって思うわ。私は産んでから「こう子育てしよう」っていうポリシーを持つわけでなく、「育て方」は子どもの中にあるよな、と思いながら試行錯誤してきたんだけど、育てながら本を読んだり人から話を聞いたりいろいろ情報があるでしょう、それに当てはまっていないと不安になったりした。
英語を習っていた時、Yは耳で聞いてパッと復唱できないのよね。それで親子でつらいなと思っていたら一緒に習っていた友達から「Yくんは見てから入る子だから」って言ってもらって楽になったことも。
いろいろずいぶん悩んでいたんだけど、幼稚園の見学に行ったとき、先生から「子どもはお母さん1人で育てるものじゃない」といったお話を聞いて、すごく肩の力が抜けたの。実際幼稚園に行き出したらすっと離れず本人がいいと言うまで付き合ったんだけど、それもよかったなと思います。Yは 下の子が生まれたとき、激しく赤ちゃん帰りすることがなかったの。 だからその頃から言えずにいた気持ちが入園をきっかけに出てきたのかなと思って。
冨田:早い時期に甘えてこられてよかったね。いろんな方の親子関係を聞いてきて思うのは、子どもに手間や愛情をかける時期と量って、結局帳じり合うようになってるみたい。幼稚園で出なければ小学校、10代、20代って先送りになるのよね。で、あとに行く程それまでの蓄積があるから大変…。
最近のつながっているモチーフ、パワーアップして出てきたね。もうつながるだけつながってまーすって感じで。
Tさん:そうそう、それもね、私は「またヒモだよ」と思っていると冨田さんに「Yくんのテーマが出てきたね」って言われて「ああそうか」と。それに本人は「消防ホース」と言って作るからその意味で見ちゃうし。
冨田:そうだよね。子どもも4~5歳くらいから表現に意味付けするようになるから、大人も聞いてわかったと思っちゃう。そういう表面上の意味の向こうにある象徴的な意味を見ようとすると、子どもの別な面を感じたりするのよね。
●子どもを持ってできた、人との新しいつながり
Tさん:私、子どもを産んでよかったなあって今やっと思えるようになったの。ホントに毎日ひーひー言って怒ってばかりで99%大変なんだけど、よかったなあって。今まで生きてきた中で、やりたいことや方向性がまとまってきた感じがする。味噌や梅干しを作ったり、働いていたらやらなかったことをポツポツやり出した。産む前だったら考えられなかった人生を長い時間かかっているけど やっているなと思う。
それに、他の人との新しいつながりや縁を作ってくれたのは子ども。私、妊娠中、すごくフレンドリーな気持ちになって、母親教室で出会った人に声かけたりして今でも仲の良い友だちになっていたり。前はそういうタイプではなかったもの。
子どもを育てて悩んだりすると自分の人生を振り返らない? 私に長いレポートまで書いちゃったんだけど、振り返ってみると、私は優等生できて弾けることがなかったんだけれど、その片鱗をYに見て不安になっていたんだと思う。
冨田:Tさんが出産したのは30代前半? 女の人にとってその年代って転機になっていることが多いよね。それと50代から60代にかけて。大人対象の講座で人生を振り返るワークをやると、子育てと家族、仕事は、その人が自分らしく生きていく上でつながり合っていて大きいと思わされます。そういう転機に、人って自然に自分を振り返りたくなったり、振り返る作業をしたりするからそれも本当に不思議。
Tさん:これからの時代を生きる子は自分が本当に何をやりたいか、見つけることが大切じゃない? 子どもたちにはそれを見つけられるようになってほしいと思う。
冨田:でも自分は何者か、何をしたいのかって追求するのも、結構、煮詰まることあるよ。人って他の人との関係の中で相対的に自分を理解することもあるから、何か好きでやってきたことがあってちょっとだけ振り返ってみたら、ああこれが私の道だったのか…って気づくくらいでいいんじゃないかなあ。
Tさんのお話を聞いてみると、Tさんもいろいろな「つながり」を感じているのがわかりました。Yくんの表現にそういうお母さんの気持ちも二重写しになっている気がしました。
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以上、「アートケアだより」2005年7月号 でした!