実施ルポ:奈良県立美術館さん「エドワード・ゴーリーを巡る旅」展で「0歳からの家族鑑賞ツアー」
奈良県立美術館さんと10月に開催した「0歳からの家族鑑賞ツアー」では「エドワード・ゴーリーを巡る旅」展を鑑賞しました。
(ルポを会期中にアップできなくてすみません… 2025年春、愛知県の松坂屋美術館と香川県高松市美術館で巡回展が開催されます)
事前に図面と図録、展示室の写真を送っていただきプランニングするのですが、今回は「どう鑑賞してもらう?!」と過去イチ思案することとなりました。
「こ、これは、見えるのか?!」
絵本では大きく描いた原画を印刷時に縮小する場合がありますが、ゴーリーは原画サイズがとても小さい。
平置きでケースに入っている作品は、見やすいように傾斜をつけてくださっていますが、いかんせん距離があります。
大人数で1つの作品を前にして語り合うという方法は、まず無理です。
黒い線で描かれた小さい作品が数多く並んでいる広い展示室を、赤ちゃんと小さい子たちが飽きずに興味を持って観ることができるか?!
1点ある衣装(ゴーリーをオマージュした作品で本人の作ではない)とアニメーションには子どもたちは注目するはずで、それ以外のメイン展示である原画に興味を持たなかったら…
子どもが真似をしたら危険な、子どもと観るにはちょっと注意が必要な表現もあります。
そして、ゴーリー特有のシニカルな作風、登場する子どもたちが不幸な末路を迎える物語。
私はゴーリーの作品に「幸不幸を因果関係でみない」、つまり不幸な状況をその人の努力不足のせいにしない眼差しや、「倫理観や善悪を超えた不条理を表現している」という印象を持ちました。が、刺激的な描写もあり、絵本ではなく原画のみを子どもと観る場合、戸惑うご家族もいると思われました。
とまぁハードルは多々あるのですが、瞠目すべき細密な描きぶりは必見です。
描きすぎて4年間、新作が描けない時期があったという圧倒的な密度は、実物を見てこそ伝わるものがあるはず! だから見づらくても関心を持ってもらえるよう工夫したい。
そして!!ゴーリー展は各地の美術館を巡回する展覧会ですが、奈良県立美術館さんでの開催時には、学芸員の村上かれんさんがゴーリーが愛した日本文化との関連を論じた所蔵品特別展が加わっています。それは最後の展示室にあるので、飽きずに辿り着いてもらって、ぜひ観ていただきたい。
といったあれこれを鑑み、『ゴーリー仕様』で準備。
まず、展示されているすべての作品(絵本)ごとに、子どもが着目するであろう物や登場人物、年齢によっては見せる際に注意が必要な点などの注釈をつけたリストを作成しました。このリストを手がかりに、お子さんの興味や年齢に沿う作品を観ていただくという方法です。
もちろん、私も展示室で個々のご家族にお声かけして、そのお子さんに合いそうな作品のところへご案内したり、関わりをサポートしたります。
ゴーリー自身は「自分の絵本は子ども向けである」と発言、でも出版社は同意しなかったそうです。たしかに、作品を見ると、版元としては子ども向けと言えないだろうなぁと思います。
その一方で、ゴーリーが「自分の絵本は子ども向けである」と言っていたことに、子どもと接する身としては妙に納得感もあります。
子どもたちには「怖いこと」「不幸なこと」が頭に浮かんで離れない時期や、がんばったから報われるわけではない「世の不条理」に直面する時期があります。ですのでゴーリーの表現に親近感を持つ子、救われる子もいるかなと。
そこでご家族に安心して鑑賞しただけるよう、ガイダンス時に「子どもが怖くて不思議で不条理な世界を表出すること」についてお話しすることにしました。
(子どもたちの作品はnote「アートケアだより2024年10月号」に掲載しています)https://note.com/artfriend_2525/n/nc50342676888
最後はいつものように講義室に戻って大きなモニター画面に「お子さんが興味を持った作品」を映し出し、シェアリング。ここで絵が大きく見えます!
さて鑑賞。
皆さん「小さい~」と驚きながら、でも楽しく観てくださっていました。
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大きな赤ちゃんが描かれている『恐るべき赤ん坊』(1953)。赤ちゃんが「赤ちゃん」を見ている姿が微笑ましい。
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虫が苦手だったのに『蟲の神』(1961)に関心を持ったお子さん。怖いけど観てみたい、観てみたら怖くなかった、不思議だった。これぞゴーリーマジック。
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5歳くらいのお子さんが作品に興味なく早足に、同じ言葉を繰り返し言いながら歩いていました。
もしかしたら文字に興味があるかな?と『ドラキュラ・トイ・シアター』(1979)の前に案内しました。「ドラキュラ」の1文字1文字が、単純な線ではなくコウモリの形でデザインされています。
そのお子さんは、それまでにない集中力で「ここには〇〇がある」と発見し、見続けました。そして嬉しそうに他の作品にも文字を探し始めました。
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長時間じっくり鑑賞したご家族。お子さんは1年生で、家族それぞれ離れたところでマイペースで回っていました。電車で1時間以上かかる他県からご参加。
お父さんは数年前に大病をされたのだそうです。
「病状のことはもちろん、子どもが小さかったので色々なことを思い悩んで、眠れなかったり、ずーっと考え事をしたりしてしまうんですよね。そんな時、細かいペン画を描くと、没頭できて、不安な気持ちを忘れられる時間を持つことができました。以来、ペン画が趣味で今も描いています」
と、スマホでご自身の作品を見せてくださいました。プロと見まごう素敵な作品ばかり。
「そんなわけで、僕がゴーリーが好きで、子どもと一緒に観る時間を持ちたくて、今日参加したんです」
「半分は大人のための会」。私たちアートフレンドシップ協会の活動を紹介する際、そう表現することがあります。
鑑賞会も「参加された方それぞれの人生の流れの中の今日」であることを忘れずにいたい。この日の出会いを通じてあらためて思いました。
こんな出会いがある鑑賞会。実施できてよかった。
作品が小さいとか子ども向けにしては刺激的な描写があるとか、そういった点から子ども向け鑑賞会をしないという選択もあると思いますが、お声掛けくださった、長年親交のある学芸員の山本雅美さんは、そんなことは気にしない。「冨田さんならなんとかしてくれるでしょ!?」そんな声を聞いた気がします。
奈良県立美術館さんでは「0歳から」と銘打った企画は初めてとのこと、お招きいただいてとても光栄でした。今後も赤ちゃんとご家族に向けた取り組みを推進されるそうです。美術館HPをぜひチェックしてみてくださいね!
奈良県立美術館 https://www.pref.nara.jp/11842.htm
(この記事は担当学芸員さんに確認いただいて掲載しております)
(美術館が撮影し、当会へご共有くださった写真を掲載しています。鑑賞会の際、美術館と当会SNS等で掲載する旨を、ご家族にご了解いただいております)